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旅をする──ドラゴンの少女と巡る異世界  作者: くれは
第一章 ドラゴンの少女との出会い、そして旅の始まり
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第六話 自分たちの目的地もわからないまま

 デチモさんと出会ったその日の夕暮れ頃に、小さな村に辿り着く。


 デチモさんが村の人に何かを渡して、その代わりに小さな物置小屋の隅っこに寝ても良いということになったらしい。多分。

 その小屋の中で、デチモさんが付けたランタンの灯りの下で、俺はあの部屋で見付けた地図を取り出して見せた。


 デチモさんは、俺が取り出した地図を見て絶句した。そして、視線を動かして周囲を伺う。

 また早口に何事かをまくし立てるけれど、俺にはやっぱり聞き取れない。


 俺の様子に、デチモさんは嘆息して、それから地図の中の一点を指差した。左上にある大きな山の連なりにあるバツ印、その山脈の少し右くらい。


「ソノ」

「その?」

「ココ・リァ・クイ・ソノ・デッソ」


 言葉の意味はわからなかったけれど、それは今自分たちがいる場所なのだろうな、と思った。

 だとすれば、地図の左上にある山脈のバツ印、それは多分、シルが閉じ込められていたあの部屋の場所だ。


「ウォ・ド・ヴォイロ・ティラ・ドーブ・ゼ」


 デチモさんに何かを聞かれているけれど、やっぱりそれは何を言っているのかわからない。

 俺は困ってシルを見る。


「シル、わかる?」


 特に期待はしていなかったけれど、やっぱりシルは首を振った。銀色の髪がふわりと広がる。


「わからない」


 俺はまた、地図に目を落とす。デチモさんがまた地図の一点を指差した。

 さっき指差した場所から、右下。


 デチモさんがさっき指差した場所が今いる場所だとする。地図上だと、その現在地より少し下に小さな山々が連なっている絵が描かれている。その山々の絵の右と左から二本の大きな川が流れ出していて、その二本の川は河口の手前で合流して一つの流れになる。

 デチモさんの指は、その二本の川が合流する地点を指していた。


「ココ・ティラ・ソノ」


 デチモさんが何を言いたいのか探ろうと、俺はデチモさんの表情を見る。デチモさんは俺の視線に気付いて、ちょっと笑ってみせると、地図から指を離して、今度は親指で自分の顎に触れた。

 自分にサムズアップしているような手の形。これはここまででも何度か見た。名前を名乗る時にもやっていたから、きっと自分を指差しているようなものだろうと思っていた。

 デチモさんが、その姿勢のまま、大きくはっきりと口を動かす。


「ココ」


 その瞬間、俺は理解した。「ココ」は多分自分のことだ。一人称かもしれない。

 俺はデチモさんを真似て親指で自分の顎を触る。そして同じように「ココ」と言った。デチモさんが俺を見たまま目を細める。


 デチモさんが、もう一度同じ動作をして「ココ」と言う。

 それから、また二本の川の合流地点を指差す。


「ティラ・ソノ」


 最初に指差した時も「ソノ」と言っていた。場所を示しているのかもしれない。わたし(ココ)場所(ソノ)──つまり、デチモさんは彼の目的地を伝えてくれているのだろうか。


 二本の川が合流して流れ出す海は、細長い地面を横に切り取るように内陸に入り込んだ場所だ。その内海に浮かぶ島の一つにバツ印がある。

 恐る恐る、俺は、そのバツ印が付けられた島を指差す。デチモさんの目的地に近くて、何かありそうなところを選んだだけで、この時はまだ意味なんてなかった。そして、デチモさんを真似て声を出す。


「ココ・ティラ・ソノ」


 デチモさんは俺の指先を見て、面食らったような、少し変な表情をした。それから顔を上げて、俺とシルを見比べる。

 溜息のように息を吐いてから、仕方ないなとでもいうように笑った。


「トゥットゥ」


 その言葉の意味はわからなかったけど、多分、伝わったのだろう。多分。




 何日も、歩き続けた。


 俺は、デチモさんが何をしている人なのか、わからない。どういう人なのかも。

 二本の川が流れる合流地点に向かって歩いていることだけ、知っている。でも、なんのためにそこに行くのかは知らない。


 川沿いに山を下るうちに、地形はだんだんとなだらかになっていった。そして、畑や果樹園や草地が広がる景色に変わる。


 デチモさんの言葉は、相変わらず外国語のように聞こえるままだ。それでも、俺は旅の中でいくつかの言葉を知ったし、少しだけなら聞き取れるようになったし、カタコトだけど話せるようになった。

 草地で見かけるヤギのような動物は、ギダという名前らしい。デチモさんの言葉を追いかけながら、家畜だと気付いた。


 その景色の中を流れる川が、あの二本の川の片方だということも、知っている。


 シルとは、相変わらず意思疎通ができる。シルが話す言葉は不思議な響きで聞こえるけど、その音を飛び越えて意味が理解できてしまう。俺の話す日本語に、シルは答えてくれる。


 シルは俺に度々「あれ、何?」と聞いてきた。

 好奇心が先行しているシルが指差すものには脈絡がなかったし、俺が説明できるものもあったし、できないものもあった。それでもシルは楽しげに「あれ、何?」を繰り返す。


 シルが指差したものが俺の知らないものだったりした場合は、俺は同じように指差して、デチモさんに「(ゼレ)?」と聞く。

 言葉を知りたい時も、やっぱり「(ゼレ)?」と聞く。デチモさんは根気強く答えてくれる。良い人だ。

 迷惑じゃないだろうかと思ったりもするけど、そのあたりの機微をやりとりできるほどの語彙を、俺はまだ持っていない。


『第七話 そして旅の始まり』へ続く


次回、旅の目的が定まって第一章終了です。

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