渡りの仲間(八)
ユーヤがドゥルサ・ナガに行きたがっている。もう少しヒブル・ターバルでいたい。ダキオにそう言ったら、ダキオにはナーナンと言われた。やっぱり面白そうな顔をしている。ジッタ・ムゼイ。
タフル・アーリブなユーヤとシルは、今度はマティワニを買いたいと言い出した。
マティワニはアス・ナガの葉っぱだ。綺麗なものではある。けど、そこらにいくらでも落ちている。海に手を突っ込んで拾ってみせる。
シルも俺の真似をしてマティワニを拾い上げた。拾い上げたマティワニを握り締めて、ユーヤのところに駆け戻る。シルは身が軽い。不安定な木の根っこの上をなんなく跳んでゆく。
俺はもういくつかマティワニを拾って、荷物に放り込む。ウリングラスでは珍しくもないけど、タザーヘル・ガニュンだと珍しがられる。物好きが買いたがることがある。だから、いつもいくつかは拾って帰る。
初めて拾ったときのことを思い出す。俺も興奮してマティワニを拾い上げた。それをダキオに見せた。マティワニの綺麗さも、もちろん面白かった。でもそれだけじゃない。
雨がたくさん降って、こんなに植物に囲まれて、食べ物もたくさんある。子供の頃の俺には信じられなかった。きっと、タザーヘル・ガニュンに外があるということが信じられなかったんだ。そこに広がる景色を自分で見てもなお。
ダキオはマティワニを拾い上げた俺に「この先にはまた違う場所がある」と教えてくれた。
今でも行ったことはない。ダキオもきっと名前しか知らない。けど、名前は知っている。ウリングラスから海岸沿いを行けばハイフイダズ。アレムの先にルキエー。その海を越えたらオージャ。空にはトウム・ウル・ネイ。
それでも、どれだけ名前を知っても、こうやってナングスたちやジュナブを見ても、それぞれの場所に人が暮らしているなんて、俺には想像がつかない。
ユーヤとシルは外からやってきた。きっとそんな場所を見てきた。そしてまた外に行く。また違う場所で何かを見る。言葉も喋れないのに。ターバルもろくにできないのに。それはきっと、俺の想像を超えたすごいことだ。
ユーヤとシルは、何か特別なものでも見るような顔で一緒にマティワニを眺めている。俺はそんな二人を眺めて、こんなタフル・アーリブとヒブになれて良かったと思っている。
俺はヒブをハミヤにするし、ヒブをハミヤにしないやつはタフル・アバだ。
ナーナン。