表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
137/150

素敵な刺繍の美しい花(一)

 日が沈む頃、彼女が暮らすトウム・ウルの上を飛ぶ。逸る気持ちを抑えて、ゆっくりと廻りながら下を伺う。

 俺の後には荷物を乗せた一頭のルーが付いてきている。まだ若いけど、賢い、よく飛ぶルーだ。手放すのは惜しい。でも、シュグイ(花嫁)のためならちっとも惜しくない。

 大きなパールム(母屋)の前で火が()かれて、その周囲に男たちが集まっている。しばらく前、姉のケレト(結婚)の時は俺もああやって火の前で、姉を攫いにくるクーゲン(花婿)を待ち受けていた、と思い出す。

 あの時は、自分が誰かを攫いにいくなんて、考えてもいなかった。


 ガニ(離れ家)から、彼女の母親が出てくる。シュグイ(花嫁)の準備ができたらしい。彼女はあの中で、ちゃんと俺を待っていてくれるだろうか。ツェッツェシグ(可憐な)ツェッツェシグ(花のような)シュグイ(花嫁)。俺のツェッツェ()

 すっかり暗くなった頃、火の周りに集まっていた男たちが歌い始めた。酒を飲んで歌うのは攫いにゆく頃合いということだ。俺は真っ直ぐに降りてゆく。

 できるだけ音を立てずにガニ(離れ家)の脇に降り立って、ルーから降りる。首筋を撫でて「チェメグ(静かに)」と囁けば、大人しく伏せる。

 遅れて降りてきたルーを落ち着かせて、手綱を引いて一緒にガニ(離れ家)の中に入る。

 ようやく、俺のシュグイ(花嫁)に会える。


 見事なクハトーザ(刺繍)の衣装を纏ったシュグイ(花嫁)が顔を上げる。俺の姿を見るとツェッツェシグ(花のよう)に笑った。俺はルーの手綱を離して彼女に駆け寄る。彼女が頭から被っていた大きな布を外して、立ち上がる。

 急いでここを離れないといけない。でも、俺は我慢できなかった。彼女を抱き締める。ようやく、彼女に触れることができる。髪に口付ける。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ