素敵な刺繍の美しい花(一)
日が沈む頃、彼女が暮らすトウム・ウルの上を飛ぶ。逸る気持ちを抑えて、ゆっくりと廻りながら下を伺う。
俺の後には荷物を乗せた一頭のルーが付いてきている。まだ若いけど、賢い、よく飛ぶルーだ。手放すのは惜しい。でも、シュグイのためならちっとも惜しくない。
大きなパールムの前で火が焚かれて、その周囲に男たちが集まっている。しばらく前、姉のケレトの時は俺もああやって火の前で、姉を攫いにくるクーゲンを待ち受けていた、と思い出す。
あの時は、自分が誰かを攫いにいくなんて、考えてもいなかった。
ガニから、彼女の母親が出てくる。シュグイの準備ができたらしい。彼女はあの中で、ちゃんと俺を待っていてくれるだろうか。ツェッツェシグ、ツェッツェシグ、シュグイ。俺のツェッツェ。
すっかり暗くなった頃、火の周りに集まっていた男たちが歌い始めた。酒を飲んで歌うのは攫いにゆく頃合いということだ。俺は真っ直ぐに降りてゆく。
できるだけ音を立てずにガニの脇に降り立って、ルーから降りる。首筋を撫でて「チェメグ」と囁けば、大人しく伏せる。
遅れて降りてきたルーを落ち着かせて、手綱を引いて一緒にガニの中に入る。
ようやく、俺のシュグイに会える。
見事なクハトーザの衣装を纏ったシュグイが顔を上げる。俺の姿を見るとツェッツェシグに笑った。俺はルーの手綱を離して彼女に駆け寄る。彼女が頭から被っていた大きな布を外して、立ち上がる。
急いでここを離れないといけない。でも、俺は我慢できなかった。彼女を抱き締める。ようやく、彼女に触れることができる。髪に口付ける。