花のような糸と勇ましい羽(五)
ショシュを採っていたら、鋭い笛の音が聞こえて顔を上げる。父の笛ではない。
高いところで、ぐるりと回っているルーの姿が見える。一頭きり。あのルーは誰のものだろうか。一頭きりだなんて、はぐれて困っているのだろうか。
そんなことを考えていたら、そのルーは真っ直ぐ、リクトーに真っ直ぐ降りてきた。地面に降り立つ少し手前で一瞬止まって、そこからクッタンと。声も出なかった。こんなにリクトー着地は、祭りでしか見たことがない。
ルーから飛び降りてきたのは、リクトー・ラッフだった。顔を合わせるなんて聞いていない。しかも、親もいないのに二人きりだなんて。
豆を入れた袋を握りしめたまま黙って立っているわたしの前まで、リクトー・ラッフが駆けてくる。わたしの顔を見て、困ったような顔になった。
「誰にも言わずに来てしまった」と言って、不機嫌そうに唇を引き結ぶ。わたしはやっぱり何も言えない。
リクトー・ラッフは手袋を取ると、帯に結びつけていた小さな袋を外して、わたしの方に差し出してくる。恐る恐る、その小袋を受け取って、中を覗き見た。
中に入っていたのは、ホブトだった。爪の先ほどの、小さな赤い花。それが袋にいっぱい。
「ツェッツェを見て、あなたを思い出して、どうしてもすぐに見せたくなって」
リクトー・ラッフの言葉に、わたしは瞬きをして彼を見上げる。ルーを急がせてきたのだろう、上気した頬で、白い息を吐きながら、リクトー・ラッフは真っ直ぐにわたしを見ていた。
「ツェッツェシグ・ウータ、あなたにとても似合う、綺麗な名前だと思った」
睨むような目付きも、不機嫌そうな唇も、前と変わらない。だというのに、どうしてだか前とは違って見えた。
「その……この前は、何も話せなくて、ごめん。それでも、また会って欲しい、ツェッツェシグ……ツェッツェ」
それだけ言うとそのままわたしの言葉も返事も待たずに、リクトー・ラッフはまたリクトーに飛び立っていってしまった。