花のような糸と勇ましい羽(三)
ノース・クーケルーデの隣の男は、オール・アキィトを見せてくれて、編み方も教えてくれた。髪に結ぶところまで。
わたしはそれを真似て、糸を編んでみている。トウム・ウル・ネイの糸で編むとどうしてもオール・アキィトと違う雰囲気になってしまうけれど、わたしは自分の好きな色の糸を集めて編んでいた。
指を動かしながら、ノース・クーケルーデと隣の男のことを考える。
クホスになるというのは、どういう感じなんだろうか。あの二人は、顔立ちも雰囲気も随分と違う。同じネイの人ではないだろう。どうやって知り合って、どうしてケレトすることになったのだろう。
山に降りた先のネイでも、やはり男の人が女の人を攫いに行ったりするのだろうか。もしそうなら、あの男の人はネイを超えてノース・クーケルーデを攫って逃げたということだ。
祖母に聞いた昔話にそんな話があった気がする。トウム・ウル・ネイの若者が山に降りた先で女の人を気に入って、そのまま攫って逃げた話。あるいは、トウム・ウル・ネイの女を気に入った男が、ルーに乗ることもできないのに、なんとかトウム・ウル・ネイまでやってこようとする話。
あの二人にも、そんなことがあったりしたのだろうか。
しばらく前に、いずれわたしを攫いに来る相手と会ったことを思い出す。
わたしと同じくらいの年の男で、リクトー・ラッフと呼ばれている。名前の通りに強い視線で、向かい合っていると睨まれているようで体が竦む。それに、ずっと唇を引き結んで、随分と不機嫌そうだった。
二人で話せと言われても、何を話せば良いのかもわからない。向こうも不機嫌そうな顔のまま黙っていた。だからただ二人で何も言わずに立っていただけだ。わたしの父とリクトー・ラッフの父は少し離れたところで、様々な取り決めをしているのだろう、向き合ってあれこれと話しているようだった。
後から母に「どうだったか」と聞かれたけれど、何も言えなかった。「嫌か」と言われて困ってしまう。嫌も良いもわからない。わたしは母に「わからない」「何も話さなかった」と素直に伝えた。母は笑って「何回か会ううちにわかるでしょう」と言った。
わたしはこっそりと、どうせ向こうから断ってくるだろうと思っていた。何も話すことなく終わってしまったのだ。それにずっと不機嫌そうな顔をしていたし。