表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
旅をする──ドラゴンの少女と巡る異世界  作者: くれは
第十六章 ドラゴンの巣
112/150

第五話 ドラゴンの血

 昔、この辺りの土地にはドラゴン(レキ)(マウヌ)が一緒に暮らしていたのだという。それが本当のことなのか、それとも昔話みたいなものなのかはわからない。ただ、ハクットゥレさんはそう言っているとシルに聞いた。

 ある時、ドラゴンの子供たち(レキウラカルナ)を攫った人がいた。それでドラゴンとドラゴンの子供たちは人から逃げて、人があまり来ない山の中で暮らすようになった。それがドラゴンの住処(レキウレシュラ)なのだと言う。

 今はレキウレシュラの人たちもドラゴンの血(レキウルーティ)が弱くなって人に攫われることもなくなったから、レキウレシュラに隠れる必要もなくなっている。だから、暮らしにくいレキウレシュラを出て、シャビマで暮らしている人も多い。

 ハクットゥレさんはドラゴンの血が強いからレキウレシュラでドラゴンを守らないといけない。その役目のために寒い季節(タルミ・ウシ)の前にはレキウレシュラに戻る。

 シルを経由して聞いたハクットゥレさんの話を繋ぎ合わせると、そういうことになる。




 ハクットゥレさんはレキウレシュラに帰らないといけない。寒い季節(タルミ・ウシ)になって雪が降り出す前には。だから、トネム・センルベトを出発したのは、暖かい季節(カサミ・ウシ)が終わるよりもだいぶ前だ。

 荷車のようなものに保存食だとか色々を乗せて、ハクットゥレさんはそれを引いて歩き出した。川を遡るので基本的には上り坂だ。それをハクットゥレさんはなんてことないように引いて歩いていた。

 なんならほぼ手ぶらに近い俺の方が、疲れているような気がする。シルは相変わらず元気にしている。俺はこれでもだいぶ体力がついたと思っていたのだけど。


「ユーヤは車に乗ってって言ってる」


 何日目だったか、シルにそう言われて、俺はハクットゥレさんを見た。さすがに俺一人で荷車に乗って運ばれるのは申し訳ないと思ったのだけど、ハクットゥレさんは首を振った。

 その言葉をシルが繰り返してくれる。


「このままだと、雪が降り出す前に間に合わないからって。わたしが引っ張って、後ろから押したら、速く進む。ええと、レキウルーティ(ドラゴンの血)が強いから大丈夫。って言ってる」


 間に合わないと言われてしまったので、断ることができなくなった。仕方なく、俺は荷車に乗り込んで、端っこの隙間に座った。

 シルもなんてことないみたいに荷車を引っ張り始めた。ハクットゥレさんが荷台の後ろに手をかけて押す。二人とも疲れを知らないんじゃないだろうか、というペースで進むのを見て、ここまで俺に合わせてだいぶゆっくり歩いてくれていたのだと思い知った。

 荷車の乗り心地はそんなに良くない。座っていると体が痛くなる。それでも運んでもらっている申し訳なさに、黙って大人しくしていた。そうやって一人で荷車の上で揺られながら、シルの頑丈さはドラゴンだからだと思っていたけど、そういうのがドラゴンの血(レキウルーティ)ということなのかもしれない、なんてことを考えた。シルの場合はドラゴンそのものなんだけど。

 だとすると、ハクットゥレさんもドラゴンなんだろうか。いや、でも──ドラゴンがいると言ったハクットゥレさんだけど、自分のことをドラゴンだとは言っていない。ドラゴンの血が強いという言い方はしているけれど。

 見ればわかる──「会えば」ではなく「見れば」と言われたことも気になっていた。そういうニュアンスも言葉によるというか、地域とか、その人の感覚によって違うというのも感じているから、これは俺が気にしすぎなのかもしれない。




 川を遡る途中で川から逸れて、山間(やまあい)に踏み込んでゆく。車でゆくには険しい道を登って、降りて──そういった道ではさすがに俺も降りて、自分の足で歩いた。乗っていると落ちそうだったから。

 そうして辿り着いたのは、窪地だった。

 窪地の真ん中に、池があった。池と呼ぶには少し大きいかもしれない。でも湖と呼ぶには小さい気がしたけど、それはトネム・シャビを見慣れてしまったせいな気がした。池と湖をどう呼び分けるのかわからないし、湖と呼んでしまっても良いのかもしれない。

 そんな水辺を柔らかそうな草地が取り囲んでいた。その場所はなだらかな山の斜面に囲まれているせいで見下ろすと狭く感じてしまうけど、斜面に沿って作られた道をぐるりと降りてゆけばかなり広いのだと実感できた。

 不意にハクットゥレさんが何か言った。聞き取れなくて聞き返すよりも先に、シルが繰り返してくれた。


「ここがレキウレシュラ」


 その言葉に、俺は窪地を見渡す。

 穂のようなものを揺らす背の高い草の茂み、それよりもずっと背の低い草、白い花を咲かせる草、濃い赤い実を揺らしている草。

 人が暮らしているように見えなくて、俺は不思議に思ってハクットゥレさんを見た。

 ハクットゥレさんはシャビマの言葉で説明しようとしてくれたけど、お互いに通じないことがわかって諦めて、レキウレシュラの言葉で言い直した。それをシルが繰り返す。


「レキウレシュラは隠れ住んだのが始まりだから、今も住処は地面の中にある。でも、もう隠れてるわけじゃない。変わらずに続いているだけ」


 地面の中。ルキエーは洞窟の中に街があった。チャイマ・タ・ナチャミでは崖の岩肌を掘って家にしていた。そんな感じだろうか、と想像をしながら窪地の光景を眺めると、確かに斜面のところどころに穴が空いている。

 どうやらその穴がレキウレシュラの入り口らしかった。




 ルキエーは街そのものが洞窟の中にあった。街だけじゃない、街の外の森だって大きな洞窟の中だった。それを思い出しながら、それと比べてやっぱり少し違うなと感じた。

 レキウレシュラの洞窟はルキエーのものよりは小さい。複雑に繋がった通路と、そこから横に掘られた部屋。部屋じゃなくて家らしいけど。それからところどころにある広い空間。なんとなく、蟻の巣を思い出す。蟻の巣も、子供の頃に図鑑か何かで見た絵のイメージしかないけど。

 中は意外と明るい。何を灯りにしているのかはわからないけど、火ではなさそうだった。ルキエーみたいに、光る石のようなものがあるのかもしれない。

 入り口はいくつかあるけど、中で全部繋がっているみたいだった。通路が入り組んでいて、正直何も把握できていない。ハクットゥレさんとはぐれたら迷子になるだろうけど、上に登っていけば外に出ることだけはできそうな気がしている。

 そうやって歩いているうちにハクットゥレさん以外のレキウレシュラの人にも会った。何人かすれ違ったという程度だけど、歳を取った人が多いような気がした。若い人はハクットゥレさんのように、シャビマに働きに行っているのかもしれない。

 すれ違う誰もが、シルの姿を見ると驚いたような顔をした。

 一目見て何かわかるほどにシルは特殊なんだろうか、と思ったけど、どうやらレキウレシュラの人も全員が銀色の髪と淡い青い瞳というわけでもないみたいだ。

 わざわざシルの姿を見にきたらしい小さな子供もいた。その子供は、淡い金色の髪をしていた。


「この色は、ドラゴンの色だって言ってる」


 その子供とハクットゥレさんが何か話している脇で、シルがそう教えてくれた。

 つまり、シルの銀色の髪はドラゴンの特徴ということらしい。ハクットゥレさんの髪も。ドラゴンの血が強いというのは、そういうドラゴンの特徴を持っているってことなんだろうか。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ