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66.前夜、冷たくされたかった
声を惜しまず
私の名を呼んでくれて
ありがとう
恥を忍ばず
私を呼びとめてくれて
ありがとう
待ち焦がれていました
あなたがそうやって
切に私を欲してくれる日を
とうとうあなたは
私を望んだ
ここにいて、と
そばにいて、と
だけど、ごめん
私はもうここにはいられない
旅立ちの日は決まってしまった
あなたの知らない世界へと
私は明日、旅立ちます
できることならば
最後まで冷たくしてほしかった
そしたら私は
あなたを忘れることはなかったのに
ほんのわずかばかり
満たされてしまったことで
私はあなたを失うでしょう
あなたの知らない世界で
あなたを想い泣くことはなくなり
やがて静かに忘れていくでしょう
――忘れていく他、ありません




