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18.チャイムを鳴らすんだ
チャイムを鳴らすんだ。
あの森の奥深く、巨木のようにたたずむ屋敷があるという。
その屋敷は気が遠くなるほど昔からあるのだという。
誰が住んでいるかは知らない。
でも誰かが住んでいるらしい。
約束はしていない。
でも怖くはない。
怖いことなんてない。
真鍮製のドアノブはさび付いているから回らない。
だからチャイムを鳴らすんだ。
音がしなくても押し込む感覚があれば大丈夫。
チャイムは鳴っている。
屋敷のてっぺんから靄が湧き出ている。
周囲を包み込もうとしている。
あれが合図だ。
――ああ、愚かな君にも祝福を。