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11.チョコレートだったらよかったのに
心が刺激を求めてしまうのをどうにかしたい、と君が言うので、なぜ駄目なのと訊ねたら、怒りばかりが吸い付いてくるから、と君が悲し気に目を伏せた。
いいことも悪いこともそれなりにあるはずなのに、悪いことばかりに目がいってしまうの。
そうすると怒りがわいてきて、怒りに支配されてしまうの。
悲しみはどこにいっちゃうの、と訊ねたら、そんなものはコーヒーとともに飲み干しちゃえるから、と君はあっけらかんと笑った。
でも怒りは大きすぎて喉をとおらないの、と言う君は――なんてさみしくて強い人だろう。
どんなに大きくてもさ、チョコレートならどうにかして食べちゃうんじゃない、と訊ねたら、君は軽く目を見開いた。
そうだね、チョコレートならどうにかして食べちゃう。
かじってでもなめてでも、たとえ満腹でも絶対に食べちゃう。
君にとっての怒りがチョコレートだったらよかったのにね。
口に出せなかった言葉はほろ苦い味がした。




