半陰陽にみる「ふたなり」
先の定義にしたがって、生殖器として男性性と女性性を兼ね備えたものを「ふたなり」と呼ぶわけであるが、現実世界において、似たような現象として「半陰陽」という生殖器の変異が存在するので、まずその説明と紹介をさせていただく。それに際して、医学的な見地、つまり発生学的な部分が必要となってくるので、その説明も加えさせていただく。
男性器と女性器の発生学的な対応について
これは医学や生物学に詳しくない諸氏でも一つの常識として知っている可能性のある事象であるが、そもそもヒトは22対の常染色体と1対の性染色体、合計46本の染色体をもち、その中の性染色体のパターンによって性別が決定する、というのが一般的な流れである。すなわち、性染色体がXXの組み合わせであれば女性として誕生し、XYであれば男性として誕生する、というのがまず基本として存在する。つまり、一本のX染色体の存在は確定として、二本目がXであるかYであるかによって、性別が決定する、と思っておけばおおよそ間違いはない。ところで本稿を執筆する切っ掛けとなったオスの三毛猫というのは、Y染色体に異常があって三毛化する場合と染色体がXXYと三本存在する「トリソミー」という状態になっているがゆえに発生する場合があるのだが、そのトリソミーにおいて「ふたなり」とまではいかないまでも性分化に支障が出る可能性があるのだ。そのようなよもやま話が発端ではあるのだが、それはまた別の話である。
閑話休題。性染色体の差異によって性別が変化する、と前述したが、正確には「Y染色体が存在することによって元々のメスの身体に書き換えが加わり、オスとして誕生する」というのが正しいところである。つまり何が言えるかというと、一般的に内性器まで含めて、「男性器と女性器が同時に存在する」ということは起こりえないのである。あえて下品な書き方をするのであれば、「孕ませる能力」と「孕む能力」というのは共存しえない、ということである。
ただ例外として、キメラ的に体内に別人の組織が挿入され、共存しているという状態の可能性が全くないわけではないことを付記しておく。端的に言えば、「ブラック・ジャック」に登場する「ピノコ」、彼女は物語の設定上双子の姉の体内で20年近く生きていたのち摘出されたこととなっている。あそこまで完全体で、そして意識も持って存在することはないにしても、体内に「双子の出来損ない」や「兄弟の出来損ない」、つまり別人の一部の臓器だけが体内で共存していた、という事象が全くないわけではなく、それらの偶然の結果として「ふたなり」が発生する、という可能性がゼロではないといえる。ただし、男性器と女性器の置かれる場所の関係上両者が完全な形で共存し、また完全に機能するかと言われると、非常に怪しいところがあるように感じられる。
再び閑話休題。前述のとおり、Y染色体によって身体の一部が書き換えられて男性器が発生する以上、書き換えが行われなかった場合何になっていたはずなのか、という対応が内性器、外性器ともに存在し、それらの関係のことを「相同」という。「ふたなり」の構造を理解するうえで非常に重要になってくる箇所であるが、文面の都合上すべてを載せることができないことをあらかじめおことわりしたうえで、主要な対応を「坂井健雄・河原克雅『カラー図鑑 人体の正常構造と機能』日本医事新報社 (2008) p478」をもとに下に記す。
「男性――女性」の順に、
精巣――卵巣
前立腺――尿道傍腺(スキーン腺)
陰茎亀頭――陰核亀頭(クリトリス)
陰茎(腹側)――小陰唇
陰嚢(たまぶくろ)――大陰唇
となっている。
つまり、これらの相同となっている器官は前述のキメラ状態にでもなっていない限り後述の事象を除いて共存することはなく、このことが「ふたなり」の実存を難しくしているといっても過言ではない。
余談であるが、精巣と卵巣は相同の関係にあるが、その配置は大きく異なっている。これは、精巣(のもととなる組織)自体は卵巣のある付近で発生するのだが、出生前のタイミングにおいて体内を移動し、読者諸兄もご存じであろう所定の場所へと移動をすることによって実現される。このときの移動経路が、当時の関係者が「ネズミが這った跡のようだ」と言ったが故に「鼠径部」、つまりいわゆるコマネチラインである、と呼ばれることとなった。
「半陰陽」について
前項にて、Y染色体によってメスがオス化することによってそれぞれの性別の生殖器が形成されること、そしてその生殖器の相同について述べた。それを踏まえ、Y染色体がうまく働かないことで男性器の形成が不十分になったり、何らかの要因によってY染色体がないにもかかわらず女性器が男性器のように変化してしまったりする現象、半陰陽について触れていく。
まず、半陰陽とは、内性器や遺伝子の状況(本来保持すべき性)に対し、外性器がそれとは異なる形になる、あるいはあたかも中間の相のような形をとる、性分化障害のことを指す。結果として外性器が遺伝子の状況と齟齬を起こしているものを半陰陽とまとめて呼んでいるが、その原因はさまざまであり、遺伝子由来のものもあればその後の分化の過程において分化を促す物質の異常発生などが原因になっているものもある。ただし本稿においてはその発生過程・原因には深入りせず、その結果として出来上がった外性器のみに焦点を当てて議論を進めてゆく。
ここで留意しておきたいのが、肉体的・遺伝的な性と自意識の中にある性別が乖離する性同一性障害とは内容が異なる点である。したがって、例えば「外性器が男性型であるが、自覚している精神的性別は女性であり、性同一性障害かと思って精神科を受診したら半陰陽であることが明らかになった」というようなケースや「外性器が男性型であり、性自認も男性であるが、不妊治療で病院を受診したら染色体的にはXX型(女性型)であることが発覚した」といったケースも存在しうる(実際に症例として存在する)ことは賢明な読者諸兄の想像に難くない事象であろう。
このような半陰陽であるが、「ふたなり」とは別に作品内で設定として、あるいはテーマとして描かれたり、あるいは現実に存在する病気であるがゆえにその患者の実体験をもとにした随筆も存在したりするのだが、それはまた別の話である。
さて、その「半陰陽」に関してだが、「真性半陰陽」と「仮性半陰陽」の二種類が存在する。
前者は内性器まで含めて男性性と女性性が混在するものであり、その状態は一対、二つある精巣/卵巣が片方ずつ存在する場合や、精巣と卵巣の混ざったような器官を持つ場合がある。この精巣と卵巣が片方ずつ存在したり、精巣卵巣融合器官が存在したりすることが先ほど述べた「相同となる器官の共存」の例外である。また、この真性半陰陽において染色体はXX型・XY型のほかに「XX/XYモザイク型」という型を取ることがあるのだが、あまりにも話の内容が複雑化してしまうので、本稿では割愛させていただく。
後者において内性器ははっきりと男性型または女性型のどちらかをとるが、外性器があいまいな形をとる。ここで興味深いのが、内性器、遺伝子ともに女性型であるはずなのにもかかわらず、外性器が男性型に近くなるという事象が起こりうることであろう。先ほども性染色体のうち「男性化染色体」とも言えるY染色体が作用してもともと女性だったものを男性化すると述べたが、むろん遺伝子も内性器も女性型である(Y染色体が存在しない)のに、なぜか外性器だけ男性型になってしまうのである。これは性分化を進めるホルモンの異常分泌が原因であり、原因が染色体だけとは限らないことが原因であるのだが、そこから先の機序に関しては本稿においては理解の必要がない上に筆者も詳しくはないので割愛させていただく。
どちらにせよ、半陰陽の状態においては遺伝子的な性別の外性器を持たず、逆の、あるいは中間の見た目の外性器を持つこととなるが、ここにおいて、前項で述べた相同の対応が重要となる。すなわち、中間の外性器において何が存在し何が存在しないのか、あるいは何が男性器型で何が女性器型であるべきなのかというのは、相同の器官の対応によってある程度決定づけられる、ということである。
「ふたなり」においては残念ながら「中間型」という形をとる以上マンガ作品などによくあるように男性器女性器ともに少なくとも外性器として完全、ということはまずなく、そして相同の対応表を見ればわかるように「キンタマの後部に女性器がある」という形態をとる可能性は大陰唇が陰嚢へと変化し、小陰唇が陰茎へと変化することから見て明らかに皆無である。
ここまでの説明に基づき、先天的な「ふたなり」は「半陰陽」であると仮定して、この章の本題、「ふたなり」の外性器の構造に迫ってゆく。
また、半陰陽の詳しい解説や病態、それに至る発生の過程は医学書やそれに類する文献に譲ることとする。あくまでも本稿は「ふたなり」を理解するために必要な最低限の説明にとどめるつもりであるが、興味を持った諸兄は筆者が用いた参考文献や「Google先生」、図書館、あるいは大学医学部などにより深い知識を求めるとよいだろう。
なお、真性半陰陽をもとに話を始めるとあまりにもその内容が複雑になってしまうため、今回は仮性半陰陽をベースに論を展開する。
男性外性器形成障害としてのふたなり
男性生殖器の女性化型においては、おおよそ下記の状態が病態として挙げられる。
1.小陰茎
これは読んで字のごとくであるので、解説は不要であろう。なお、小陰茎の定義は伸展陰茎長が-2.5SD未満で陰茎の構造に異常がない場合のことを指すそうだ。
2.尿道下裂
正常男性において、尿道口は亀頭の上部にスリット状になって存在するが、これは性分化の際に排泄部のうち尿道と生殖器が同化した尿生殖溝の部分が亀頭先端に移動することによって実現されている。ゆえにその移動が完全でない場合、陰茎の下部にその尿生殖溝の名残が開口部としてできてしまうことがある。
3.陰茎前位陰嚢・二分陰嚢・襟巻き状陰嚢
陰嚢と大陰唇が相同になっていることは、前々項にて触れた。女性器においては所謂陰裂を取り巻くように大陰唇が存在しており、その形態が男性器にあてはめられた結果として、陰嚢の一部が陰茎の上側などにもできる状態のことを言う。
これまでの病態を見ればわかるように、残念ながら「会陰部に肛門とは別に挿入孔をもちながらも陰茎の先端から精液が射出される」ということはまず起こりえないことがわかる。
なお、尿道下裂の結果としてできた陰茎下部の尿生殖溝に関しては、内性器である膣や子宮が形成されていない故、そこに陰茎を挿入することができるか、またそこが性感帯として機能するかといわれると、甚だ疑問である。むろん男性器としての前立腺は性感帯たり得る存在であるので、挿入の結果前立腺が刺激される、ということはあり得ることを併記しておく。
余談であるが、女性の性感帯の一つである「Gスポット」の正体はスキーン腺であり、前立腺と相同の関係にある。本稿においてはあえて多くは語らないが、性感帯としての前立腺の考察、というものも面白そうではある。
女性外性器の男性化としてのふたなり
女性生殖器の男性化型においては、おおよそ下記の状態が病態として挙げられる。
1.陰核肥大
これは半陰陽やふたなりと関係なく、エロ漫画世界において扱われることの多い病態である。むろん、エロ漫画的には「開発」の結果として「組織がはれ上がって」構成されたものであり、先天的な半陰陽におけるそれとはだいぶ様相の異なるものである。
これが原因で、下記の陰唇癒合と重なって胎児の性別判定において「ミス」が起こることがあるのだが、これは第二次性徴前で外性器がそこまで発達していないがゆえに起こる現象ともいえよう。
2.陰唇癒合
本来女性器は「陰裂」と表現されることの多い割れ目を構造として持つが、それらが陰嚢のように癒合を起こしてしまうことによって発生する。尿生殖溝の移動に伴って陰核にその代替ともいえる「出口」があることもあれば、「割れ目」ではなく「穴」として本来の位置に発現することもある。どちらにせよ、陰唇癒合までが発生してしまうと、挿入口としての外性器の役割は果たせなくなってしまうので、今回のふたなり考察においてはあまり考えなくてよい事象であろう。
ここにおいて、陰核肥大だけが病態として発生した場合は、あたかも「ふたなり」のように見えなくもないことが理解できるかと思われる。ただし現実においての陰核肥大のみでは、いわゆる「竿」のパーツを作る部材が小陰唇などであることから、漫画的な、女性器に挿入することのできるサイズのそれを形成することは難しいと考えられる。また、女性器の陰核肥大においては「半陰陽」とばかり言えない話でもあるのだが、ここから先は医学という名の沼が広がっているのでここまでにしておこうと思う。
これらの事象から見て取れるように、「完全な」ふたなりというものは少なくとも現実世界においては不可能であることが見て取れる。それは分化の前の部品数の問題、相同の関係にある器官の関係であり、その壁は半陰陽という状態を以ってしても完全には乗り越えることが不可能であった。
ここまで外性器にスポットをあてて半陰陽とふたなりに関してを語ってきたが、少しだけ内性器と精神性にもスポットをあてる。
内性器と性格的性別について
半陰陽においては外性器の状況の如何にかかわらず内性器が存在するが、この内性器がホルモンを生成するため、男性型の外性器を持つのに女性型の内性器を持つ場合第二次性徴期において女性ホルモンの影響を受け、乳房の発達を見ることがある。また逆に、女性型の外性器を持つにも関わらず男性型の内性器を持つ場合、乳房の発達が起こらないばかりか月経が発生しない、などの問題が生じることがある。
また、内性器の性腺(精巣・卵巣)の不完全さからホルモンバランスなどが崩れ、重篤な疾病を引き起こす可能性があることに注意が必要である。
なお、内性器・外性器の状態と自認できる精神的な性別は必ずしも一致しないことは、前述の通りであり、むしろそれは性同一性障害の範疇である。つまり、男性型の外性器を持っているからと言って性自認が男性になるとは限らず、また同様に女性型の外性器を持っているからと言って性自認が女性になるとは限らない、そしてそれは内性器においても同様であり、性ホルモンの影響であるとは一概に言えない、ということである。
しかし、性自認は周囲の環境による部分、つまり社会的な要求によるところが少なからず存在し、社会的な性は現状外性器と「体つき」によって識別されているところが大いにあること、そしてそれが性同一性障害者や半陰陽者を一定程度苦しめる原因になっていることには留意が必要である。
ここまでのまとめとして、半陰陽としての「ふたなり」においては男性型半陰陽にせよ女性型半陰陽にせよ、一般的に言われるサイズの陰茎プラス陰裂を持つことは無い、という結論に至った。ただ、見た目としてあたかも陰核が小さいながらに陰茎に見えてしまう可能性がないわけではないことも示された。