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王女の策


侍女につき従われ、自室の扉を出た。


いつもの風景が何だか違ったものに見えるのは私が少し緊張しているせいだろうか。


国王である兄が待つ目的の場所は詳しくは知らないが、ほっといても侍女が連れて行ってくれるので何にも問題無い。

ノープロブレム。


広い、バカみたいに広い通路をゾロゾロと侍女を連れて歩いていると、一度トンネルの様になっている通路へ出た。


そこを暫く進むとやがて見えてきた外の光。

その光の方へ進み、外に出た瞬間私は途轍もない物を目にして固まった。


砂の広場に大きな機械音を響かせて停泊している大きな船。

上を見上げれば帆が張り、更にその上にヘリコプターの羽根みたいなのが前後と中央にあった。


というかデカイ。

デカすぎる。


元の世界で見た事ある世界一周旅行用の豪華客船並みだ。


「リタ..この国に飛行船なんてあったんだ」


ボソリと呟いた声でもリタにはちゃんと聞こえたらしく、リタは微笑みながら「ええ」と一言返した。


「ほう、馬子にも衣装だ。見た目だけは美しいな我が妹よ」


その皮肉っぼい声に私は盛大に顔を顰めて兄を見た。

(威嚇するブルドッグ並みに顔が歪んだかもしれない)


「お待たせしました兄上」


(フン、チキンヤロー。)


一応型だけ敬ったふりをして私は兄に礼をした。

チラリ、と兄の目線が私の持つ剣を見、それからティアラに目を向けた。


何よ、欲しいの?

と思ったのはまぁ気にしないでおこう。


「マリア、とても綺麗だよ」


ほっとする声が聞こえて私はそちらに目線を向けた。

其処にはシュナイゼルと共にジークが居た。

いつもと違う正装だ。


2人共マジ王子。

1人は王子じゃなくて騎士だけど。

てか兄上の存在感が霞んじゃってプクスー。




2人を見た瞬間、心から安心出来た。

自然と笑みが零れおちる。


「ジーク!シュナイゼル!」


自分でも驚くほどのはしゃいだ声で、

私は2人の方へ急ぎ足で進んだ。


2人が驚いた様に固まってこちらを凝視しているけど何でだか分からない。


兎に角やっと馴染みの顔が見れて幸せにも似た感情が抑えきれなかった。


2人の前に立つと、ハッとしたようにジークが笑みを浮かべて私を見つめ、優雅な動作で跪いた。

それから私の右手をそっと取り、手の甲にキスを落とす。


「ご武運を、我が女神」


「うん、頑張る!」


もうこれ位の挨拶はチョロいわ!

私はドヤ顔でジークに微笑んだ。


「シュナイゼル」


「は」


「今日は付き添ってくれるらしいね?ありがとう」


今日のデュエルは王女と王女のデュエルという事で、守護騎士を1人闘技場に入れる事を許されていた。

それはカレド側も同じだけど。


「貴女とアリーチェが闘うのですよ。止められるのは私だけでしょう」


「まぁ、殺されないとは思うけど有事の際には助けてよね!」


「心得ております」


人の目があるせいかシュナイゼルはやたら礼儀正しく答えてくるけど、

いつもはこんなんじゃない。

まさに暴言大王だ。


「私が付きたかったけれど仕方ない、シュナイゼルに任せるとしよう」


ジークが名乗り出たけれど、彼は友好国の王子という立場の為、政治的にも色々問題が生じるので却下された。

但し、カレドには一緒に来てくれるのよね。


「ジークは側で見守ってくれてるだけで力をくれるから良いのよ」


その言葉にジークの顔が綻んだ。

ほんとに可愛いわよね。


「オイ、いつまでそうしてる。出発の時間だ」


「はい兄上」


(うるせぇヘタレ野郎が)


心の声が顔に出ていたらしい、シュナイゼルがあからさまに呆れた顔で私を見下ろしていたから彼の綺麗な顔に向かって思い切り舌を出してやった。


呆気にとられた顔をしていたシュナイゼルだけど、

背後からあの噛み殺した笑いが聞こえて来た。


フン、シュナイゼルもだいぶ私に感化されてきてるわね!


私達はそれぞれの思いを抱えて飛行船に乗り込んだ。

それは案外飛ぶスピードが速かったようで、

元の世界の時間感覚で言えば3時間程だったように感じた。

やがて空から見えたカレドの城。


「アリーチェ...」


私の後ろでシュナイゼルが小さな声でそう呟いたのが聞こえた...。









鳴り響くファンファーレ。

私は恐らくこう来るだろうという想定内のそれに面倒くさいと思いながらも、

集まっている群衆の目に晒されながら闘技場への道を歩いた。


一国の王女の対決、しかも共に最強と謳われる者同士のデュエルなどそうそう見られるものではない。

群衆もこの国の全員が押しかけているのではと思うほどの人数で、

叫ぶ度に地響きがする。

こんな雰囲気の中、アウェイで闘わなきゃいけないなんてほんとヤダ。


兄の顔を見ればドヤ顔で偉そうに歩いている。

お前見にきてんじゃねーよと内心暴言を吐きながら歩みを進めた。


「マリア様、顔が酷いですよ」


「うるさいシュナイゼル。

美貌の私に何暴言吐いてくれちゃってんの。マリア引いちゃう」


「こらこら、2人共その辺にしないと」


バチバチと火花を散らしていたシュナイゼルと私を和かな笑顔で仲裁してくれるジーク。


もうほんとうに可愛いんだからぁ。

と頬を緩ませた瞬間、シュナイゼルがバカにしたように鼻でフンと笑った。


「シュナイゼル〜」


振り返ってシュナイゼルを見上げたら、もう既に無表情だった。

コンニャロ!


「まあまあ」


両手で私に宥めるような仕草をするジークにフニャリと笑って見せ、次の瞬間シュナイゼルに視線を飛ばしてフン!と鼻を鳴らした。

勿論スゲェむかつく顔で見下ろされたけど。



そんな事をしながら歩いていると、カレドの王女と国王らしき姿が視界に入った。

まるで古代ギリシャの建造物のような建物を背に。


「おお、アリーチェ..」


惚けた兄の声が聞こえて来たけど私は無視しながら、これから闘うであろうアリーチェの姿を目を凝らして見つめた。


アリーチェの父であるカレド国王とアリーチェ王女はとてもよく似た風貌だ。

私と兄も遠目に見れば似ているのかもしれない。


アリーチェとカレド国王は銀髪だった。

そして近づくごとにその風貌がハッキリ見えてくる。


コリャ驚いた。

スンゲー美女だよ。

初めて私の顔を見たときはこれ以上の美貌はないだろう位の顔だと思ったけど同等だ。


赤を裏地に用いた黒い衣装に金の装飾。

頭部には薔薇の精巧な金細工が燦然と輝く。

風が舞う度にマントが翻り、裏地の深紅が鮮やかに彼女を彩った。


その美しさに圧倒され、女の私でも目が離せない。


しかももっと驚いたのはシュナイゼル、

そう、シュナイゼルに似ていた。


民衆の叫びも、何もかもがアリーチェに近づく度、一歩一歩進める度に音が何処かに吸い込まれて行くように消えて行く。


やがてアリーチェとカレド国王の前に立った時、アリーチェと目が合った。


ハッとした瞬間、ドッ!と聞こえる民衆の声と地響き。


「ヘイル国王久方ぶりだ、父君と母君はご健在か」


「数年ぶりだ、父も母も息災にしている」


兄と形式的な会話を交わしたカレド国王が私に視線を向け、優しく微笑んだ。


「何とこれは...噂には聞いていたがとても美しい姫君だ。

失礼、カレド国王のルーカスだ、よく来られた」


立派な髭を蓄えた優しげな目元、威厳。

私は挨拶をされ、無言で腰を曲げて少し頭を下げた。


「アリーチェ様こそ相変わらずお美しい、カレド国王よ、妹のマリアだ、何せ破天荒な娘故に無礼があるやも知れぬが本日は宜しく頼む」


兄がまぁまぁ国王らしい態度でカレドの国王に挨拶をしているのを横目に捉えながら、すかさずアリーチェに目線を向けた。


自分より小柄な体系、銀髪、銀の瞳、薄く綺麗な形の赤い唇。

近くで見ると益々シュナイゼルに似ていた。

その私の視線の先でアリーチェがふと伏せていた目線を上げ、私の後ろで目を留めた。


そして目を細め、それはそれは妖艶な笑みを漏らしたのだ。


驚いた私は後ろを振り向く。

そこには立ち竦んで、固まっているシュナイゼルの姿があった。

何処か怯えたように。

そんなシュナイゼルを見て、私は彼を宥めるようにその手をそっと掴んだ。


「っ!」


ハッとしたようなシュナイゼルが私に視線を落とす。

大丈夫?と目線を送れば、無言で、そして何時もの鉄面皮で手をゆっくりと外され、彼は凛とした目線で前を向いた。


大丈夫って事ね。


そしてアリーチェに目線を戻した瞬間私は凍りついた。


に、睨んでる....。


そこには凍りつくような視線で私を睨むアリーチェの姿があった。


一瞬あのブルドッグ顔で応戦してやろうかと思ったけど仮にも此処はアウェイであるし、あんな野郎でも兄のメンツも一応保ってやらねばならないだろう。


私は睨んでくるアリーチェに微笑んだ。


我慢したよ!偉いでしょ。


「アリーチェはもう戦闘態勢のようだ、済まないねマリア殿」


「いえ、とんでもない」


カレドの国王が何か察したように私に申し訳なさそうにそう言って、緩やかに私の後ろのシュナイゼルに目線を移した。


「シュナイゼル、久しいな」


「は、国王様」


シュナイゼルはカレドの国王に恭しく跪き騎士らしい礼をした。


「母上は健在か?」


そう問われた瞬間、シュナイゼルの表情が僅かに動いた気がした。

けれど直ぐにいつもの無表情で「お陰様で」と答えた。


どんな関係なのかはまだ知らないけれど、シュナイゼルとこのカレド王家とは何かしらの因縁があるように見受けられた。


それからカレド国王から民衆へのデュエル開始の宣言がされ、

私とシュナイゼル、アリーチェとその守護騎士が闘技場の中央に残された。


「これは私の守護騎士、ニコだ」


「こちらは私の守護騎士..


「知っている、シュナイゼル、なあ?」


「...」


妖しく微笑んでシュナイゼルに目線を送るアリーチェをシュナイゼルは無視したように黙っていた。


「私はマリア、本日はお手柔らかに頼むわ」


沈黙を破るように私が手を差し出すと、アリーチェだ、と小さな声が響いて。

その瞬間一気に手をつかまれ、グイッと自分へ私を引き込んだ。

丁度アリーチェの肩の辺りに顔が近づく。


「美しい。お前も、『宝石』も、な...」


「え....?」


その瞬間、試合開始の鐘が鳴り響く。


アリーチェと私を引き離すようにシュナイゼルが無表情で私とアリーチェの間に剣を割り込ませた。


「では、始めよう」


アリーチェは苦笑にも似た笑みを漏らすと私と間合いを取った。


守護騎士は後方へ下がり見守る。


「手に入れる。お前も、シュナイゼルもな」


「え...シュナイゼル...?」


そう呟いた瞬間、闘いは始まった。









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