そして私は国で最強なんだそうです。
何ていうか、これは現実なんだろうか。
いやだって確かに感触もあるし麗しいお声が耳元にダイレクトに響いている訳ですが、
超絶イケメンにしがみつかれ、もとい、抱きしめられるという
世の乙女なら誰もが憧れるシチュエーション(私は乙女はとうに過ぎた年増だがこの際乙女と言ってくれ)。
美しすぎる私の顔に美しすぎるこの王子様。
客観的に!外側から見て見たい!
動悸が止まらない。ハアハア.....
「あ、あの...どちら様?..」
やっとの事で口から言葉を発した私はありきたりすぎる質問をこのキラキラ超絶イケメン王子に
投げかけた。
「ジーク様、実はマリア様はお怪我の後遺症で記憶を失っておいでなんです....」
リタが言いにくそうにジークとかいうキラキラ王子にそう告げた瞬間、
私を抱きしめていたその手が勢いを付けて今度は両肩を掴んだ。
そのまま私の目を覗き込んで来たセルリアンブルーの瞳に、私はまた顔を青くする。
凄いイケメンを至近距離で見ると普通すぎる人間属性としては
トキメキよりも恐怖に似た何かで支配されると言う事を学んだ。
「何て事だ....可哀想に...」
慈しむように頬を撫でられたんだけど、何かちょっと..あんま触んないで欲しい。
根底がアラフォーなだけに若くてキラキラしてると眩しくてヤバイんだわこれ。
しかしジークと言ったかこの王子、一体私の何なのだろうか。
兄妹のハグとは明らかに違うし、けれどこの距離の近さなのにリタは当たり前って顔してるよね?
もしかして許婚とか言うお決まり設定な訳?
「あ、あのですね...もう少しだけ休みたいんですが...よ、よろしくて?」
よろしくてってなんぞ。
そうだよ。
作れないんだ。
私は姫キャラをどう演じれば良いんだ!
もういいや。作らない。うん。
この際記憶喪失で人格崩壊したキャラに転向しよう。
「ごめん、一人にしてくれるかな」
「あ、ああ...」
もう一度するりと私の頬を優しく撫でたジークが立ち上がった。
「後でまた」
「ええ....」
そう答えるとジークは微笑んで部屋を出た。
「ねぇリターー、あの人って私のなんなの?えらく距離が近かったんだけど」
ジークの見送りに廊下に出ていたリタが戻って来るなり私は問いかけた。
「そうですね、まずは一からご説明した方が宜しいですわね」
「うん、頼むよ」
私の返事に少し苦笑を零すと、リタは話し始めた。
「まず、わたくしはマリア様が赤ん坊の頃より一緒に育って参りました側仕えのリタでございます。」
「うん、覚えた」
うふふ、とリタが少しうれしそうにはにかむ。
ごめんね、そんな長い付き合いなのに忘れちゃって、ってかこの歳になるまで多分他の人格だったんだよね。
「ね、私の事先に教えてくれる?」
「あ、そうでしたね」
「マリア様は御歳18歳のこの国、アランドール国の第一王女様ですわ」
「ほう」
「ご兄弟、姉妹はお兄様お一人、妹姫がお二人です。お兄様のヘイル様は現在この国を治めておいでの国王様です」
「え、両親は?」
「この国では60歳になると長兄に跡目を譲る慣わしになっており、ご両親は既に離宮にて余生をお過ごしです」
「ふーん」
「すぐ下の16歳の姫君であられるリュカ様は昨年ルビアート公国に嫁がれ、今はこの城におられません」
「げ、15で結婚?!かわいそ!え、なんでそれって政治的な結婚?」
「まぁ、そうなんですかねぇ・・この世界では婚姻はデュエルで決まりますので・・」
「は、え?デュエルって戦うって事?」
「はい、そうですね」
私は目を剥いた。
だって政治的でも無く戦いで伴侶を勝ち取るだなんて凄くね?
原始的っつーか強い男が良い女をモノに出来るとかそんな感じか?
「凄い制度だね...っていうか私はなんで18まで結婚してない訳?」
「それはですね....マリア様はこのアランドール最強の戦士であられるのでまだ誰もマリア様に勝利していないのです」
「は?」
「ですからマリア様はさいきょ...「オイオイ待て待て...私が最強って..
「はい、この世界は女性も男性と同等に戦うのですよ」
「え、それ本気?ほんとの話?ってか私最強なのえ、ど、、えええ?」
「記憶が無いので仕方無い反応ですわね、ちなみにマリア様は現在23戦全勝中でございます」
「い、いくつから戦ってるのよ私は...」
「14歳からですわ」
「っひ...私すご...」
でもそれで行き遅れてババアになったら結局元の私と一緒じゃない?!
「ね、ねぇリタ...ちょっと聞くけど私って戦闘狂とか..なの?」
とてつもなく不安だ。
この細腕、この容姿で鬼の様に強いとかチート設定も良い所だ。
良くある最強設定には正直憧れもあるが実際自分がそうだと思うと怖すぎる!
「戦闘狂...ではありませんが、生まれつき戦闘能力が長けていらっしゃったみたいで
たいした修練もせずにメキメキとお強くなられてあれよあれよという間に誰も敵わなくなりまして」
「ひ....」
「ちなみに馬車に轢かれたのも町に物凄く強い男がいると評判を聞いて、抑える私を振り切って飛び出した瞬間に丁度通りかかった馬車に当たってしまわれて」
戦闘狂じゃねーかよコノヤロー。
世直し侍じゃあるまいしなにやってんだ....
「ま、まぁ良いわ...で、さっきの金髪キラキラ王子は誰」
「き、キラキラって..」
「まぁまぁ」
「あの方はお隣の国、レガート王国の第3王子ですわ。ちなみにあの方もデュエルでマリア様に負けたのですが、
マリア様がご友人でありましたのでそのまま此処に騎士として、また婿候補として残られているのですよ」
「え、それってありなの」
「ええ、デュエルに勝利すれば置くも返すも、伴侶にするも騎士にするも自由ですので」
「すっげぇな」
「但し、国王、女王の伴侶に関してはその国最強の戦士で挑むと決まっております」
「へ、何で」
「国王が負けたら洒落にならないからです」
「ブッ、な、なるほど!」
「とまぁ、おおむねこの様な状況でございます」
「ふむ、何となく分かったわ...」
しかし驚いたよね。
私がこの国最強とか笑いが止まんねーわ。
好みの男とっつかまえ放題、まさにハーレムじゃん!
ここでまた私の妄想が現実になるのか?
でもジークを側に置いてるあたり私も目が高いよね?
あの容姿なら引く手あまただろうにここに縛られてちゃ可哀想な気もするけど、
私、何考えてジークを此処に置いたのかなぁ...。
グルル...
場にそぐわない、ましてその美貌の容姿に似合わぬ腹の音に私は正直驚いたよね。
この顔で腹の音を鳴らすなんて!
「あら、マリア様もうランチのお時間ですよ、もし宜しければ気分転換に薔薇園でお食事にしましょうか?」
え、薔薇園?何ソレ超セレブっぽい!行く行く!と目を輝かせて頷くとリタは準備してまいりますと一礼して
出て行った。
「はぁ、なんだかもう頭パンクしそうだよー」
ごてん、ともう一度ベッドに額から突っ込むのだった。