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こんな展開良くあるよね。


エスタリアとひとまず別れ、

私はアルマを伴って自室へ向かっていた。


この後宮は凄く開放的で、見渡す限り自然。

イメージとしては砂漠の中のオアシス的な感じ。


私の自室へ向かう途中には大きな池がある。

池の淵には綺麗にカットされた白い石が並び、その淵に腰を下ろして

談笑したりも出来る。


「そう言えば、あの池には何か飼ってるの?魚とか」


「はい、マリア様。

あの池には蓮の花があるだけです」


「へぇ、蓮ってこんな砂漠にもあるんだ」


「何でも遠い国から献上された神の花なのだとか」


また神か。と内心溜息を吐きながら私はその池に近寄った。

池のほとりに立ち、暫くそよそよと吹く風に晒された後、

踵を返して歩き出した瞬間に、私は何かに躓いて盛大にすっ転んだ。


「マリア様?!」


「いってーー・・」


何も躓くものなんか無かった筈なのに、と思った瞬間。


「クスクス・・・まぁまぁ・・・いかがなされまして?」


「誰?」


起き上がりながら声の方を向けば、そこには赤い薄い布を全身に纏い、

煌びやかな金の装飾のアクセサリーをこれでもかと付けた娘が立っていた。


赤い布は良く見れば金糸が織り込まれ、透けた布が幾重にも重なりとても美しい。

髪飾りも金細工の豪華なもので、額飾りには金で縁取られた緑色の大きな石がその大きさを誇示するように揺れていた。


あ、これはあれだ。


エスタリアの妹って奴だ。


最近何だか察しが良くなってきた自分の勘はきっと外れていないだろう。


なんせこの後宮でこんな豪華な衣装を着られるのは王女くらいだろうし。

年齢から見てもエスタリアの妹と容易に想像が付く。


「もしかして、エスタリアの妹さん?」


パンパン、とドレスの裾を払いながら私は乱れた前髪をかき上げながらそう問いかけた。


「まぁ・・何という口の利き方かしら・・

まさかお兄様のお客様とはあなたの事?」


さも嫌そうに私を見るエスタリアの妹に若干ムッとしながら、

私は「そうだよ」と付け加えた。


「何て品が無いのかしら・・・」


私の姿を上から下まで舐める様に見ながらエスタリアの妹は口を隠す。

なんって失礼な奴。


躾がなっていなよねコイツ。


エスタリアと比べて・・・性根が腐ってるのが丸分かり。

やっぱり親の躾けとかって大事なんだなぁ。


この分じゃコイツの父親ってのもロクなもんじゃないね。


「どっちが、あなたこそ名乗りもしないで失礼だよ。

それこそ品の無い行為だと思うけど?

それにさっき私が転んだのはあなたが足を掛けたからじゃないの?」


「まぁ!言いがかりですわ!」


よよ、とよろめいたコノ野郎を庇うように取り巻きの侍女がわざとらしく私を睨む。


「姫様、このような者気になさいますな」


む。


「所詮品の無い国から来た後継者でも無い王女など姫様の足元にも及びませんわ!」


むむっ?!


「・・・・ねぇちょっとアンタらさ・・・」


堪忍袋の尾が切れる寸前、私はゆらりと凶悪な顔で奴らを睨んだ。


「ひっ・・」


そりゃ怖いだろう。

なんせ私は凶暴で狂犬のようだとシュナイゼルに言わしめた女だ。


ジリ、と歩を進めれば向こうが下がり、またジリ、と追い詰める。


いつの間にか向きは変わり、

私は奴らを池の淵に追い込んだ。


最後のトドメとばかりにズイっとエスタリアの妹の顔に自分の顔を押し付けるように迫り、

ニヤリと口の端を引き上げて笑う。


「ふふ、今日は暑いから涼んでおいでよ・・・」


ドン。


「っきゃああ!」


「姫様!」


胸で奴を押してやったら簡単に池に落ちた。

池の中に赤い薄布がゆらりと広がり、

苦しむアイツとは裏腹に蓮の花と赤のコントラストがやけに綺麗に見えた。


「あらあらまぁまぁ・・・・『金魚』みたいで綺麗ですわね。オヒメサマ。」


次々と池に飛び込む奴の取り巻きを尻目に私は踵を返す。


「許さないからっ!!!」


肩越しに振り返れば池から引き上げられてはぁはぁと粗い息をしている奴が

こちらを睨んでいた。


だから何って顔で笑ってやれば奴の顔が引き攣る。


クイッとドレスの裾を引かれて目線を落とせば、

アルマが真っ青な顔で私を見ていた。


「あの方は宰相様と敵対なさっている大臣の娘、

あんな事をなさって大丈夫でしょうか?」


私のドレスの裾を引いているその手が小刻みに震えていていた。


「アルマは臆病だなぁ・・・あのさ、忘れてない?

一応私、大国アランドールの第一王女よ?」


「それはそうなのですが・・・お気をつけ下さいね、マリア様」


何をそんなに心配しているのか、アルマは小さく震えながら後ろを振り返っていた。


私はそんなアルマの肩を引き寄せて抱きしめる。


「アルマ大丈夫。

あなたの事は私が守ってあげる。

これでもアランドールでは最強の戦士なんだよ?知らない?」


「最強・・」


この世界ではデュエルで婚姻が決まる。

忙しすぎて忘れていたけどそうだった。


なので一般の女性だってそこそこに武術が出来る筈。


だけど国によってはそういった慣わしも消えかけているとシュナイゼルに聞いた。


「ねぇ、この国も婚姻はデュエルなの?王族はそうよね?」


「はい、マリア様。

私どもも戦えるのですがそれはあくまでもそれなり。

王族はかなりなお力をお持ちです」


「だろうねぇ」


「エスタリア様は今の所婚姻を希望されておられないので

デュエルはまだ一度もなさっておりません」


「だろうねぇ・・・」


「さっきのエスタリアの妹・・・」


「ああ、ルカ様ですね。

別の意味でお強いんですけど・・」


アイツ、ルカって言うのか。

まぁどうでも良いか。


「別の意味?」


「はい・・・・・

・・・・マリア様!」


「はひっ?!」


いきなり大声を出したアルマを吃驚しながら見下ろせば、

アルマは顔を真っ青にしたまま私に懇願するような目線を向けて来た。


「本当に、お気をつけ下さい!!

あの方に私の母は・・・」


「え?」


「な、何でもありません・・・さぁ、参りましょう」


「え、う、うん・・?」


今度は急に何事も無かったように私の前を歩き出したアルマ。

訝しく思いながらも私はその後に続いた。










「はぁ・・・・・・気持ちいい~~~~」


「お湯加減はいかがですか?マリア様」


自室の隣にある湯殿。

そこは我がアランドールの自分専用の浴場よりは少し小さいけれど

大理石で全体を埋め尽くされた内壁と大きな柱に囲まれて、

まるで船のような形をした石造りのバスタブが設置されていた。


湯は白く、何かと思えば牛乳が入っているのだそうだ。


「牛の乳を湯に入れるとお肌が綺麗になるそうですよマリア様」


湯に浸かる私の腕を洗ってくれながらそう言うアルマに、

私は「一緒に入らない?」と言えば慌てて拒否された。


「お上がりになったら香油を塗りましょうね」


香油・・アランドールにもあるけどあれはちょっと苦手なんだよね。

なんていうか、保湿と香りを目的としているようなんだけど

元々香水だとかあまり得意でないからちょっと好きじゃない。


「香油はいいよ・・あまり好きじゃない」


「え?でもこれは・・・エスタリア様が特別に王族のものを・・」


「・・・マジか。

それは断れないか・・・」


だって風呂上りにそれ付けてないとバレちゃうよね?

においしないなってバレるよね?


「分かった・・・後でエスタリアと会うし、やっぱお願い」


ぱあっと顔を輝かせたアルマが嬉しそうに香油を準備しに行った。

・・可愛いなぁ。


妹が居たらこんな感じだったのかな?なんて。


忙しくて直ぐに忘れちゃうけどお母さん、元気かなぁ・・・。


「さ、マリア様準備が出来ましたのでこちらへ!」


「はいよ・・っと」


湯から上がったらそこに何故か簡素なベッドのようなものがあった。


綺麗に布で覆われたそれに寝るようにと促される。


おお、これってあれですね。

エステ的な。


拒否った所で無駄だと学習していた私は言われるままにそこにうつ伏せで寝た。


「マリア様のお肌・・・本当に真っ白で綺麗ですね・・」


「・・そうか、この国の人って小麦色だもんね」


背中に香油を塗られながら気持ちよくて寝そうになった。


「アルマの手、あったかくて気持ちいいね・・」


アルマの小さな笑いが聞こえる。

この所本当にめまぐるしく一日が過ぎて

ろくに眠る事も出来ていなかった。


うつらうつらと眠りそうになる私。

いつの間にか、裸で寝ている事も忘れていた。


「マリア様・・・マリア様?・・お疲れなんですね・・」


眠ってしまったマリアをアルマは優しく見下ろす。


自分より体格の大きいマリアを運ぶのはアルマでは無理だ。

だがどうすれば。


侍女を集めてこようか。


そう思い立ち、アルマは後ろを振り返った。


その時。


「アルマ、マリア様は?アランドールからマリア様の護衛の方がお見えに・・」


「え?!」


マリアの背中に布を掛け、

自室と浴室の扉を慌てて閉め、アルマは急いで出迎えに出た。






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