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その頃アランドールでは


「マリアが攫われた?!」


ジークとリタ、デニスは不思議な力で眠らされ、

目覚めた時にはアランドールの辺境の町だった。


慌てて後を追おうとしたが何処にもその追うべき人間はおらず、

兎に角急いで城に戻って来たのだ。


リタは慌ててシュナイゼルを守護石で呼び、程なくシュナイゼルが駆け込んできた。


「すまない、僕が居ながら……」


ジークは申し訳なさそうに俯向き加減にシュナイゼルに謝った。

その青い瞳には後悔と悔しさ、それが色濃く滲んでいて彼の言葉を聞かずとも己を酷く責めている事が分かる。


「ジーク、お前のせいだけではないだろう。

デニスもリタも怪我はないか」


まだショックが抜けきれていない表情の2人にシュナイゼルは冷静に語りかける。


リタの目にみるみるうちに涙が浮かび、打ちひしがれた様に大泣きし始めた。


「申し訳ありませんっ!守護石をもっと早く使っていれば!」


確かにそうなのだ。

襲われた時点でリタが守護石を使用していればシュナイゼルが駆け付けられたかもしれない。


だがこれは終わった話で、今更リタを責めた所で話は進まない。

シュナイゼルは一度浅くため息を吐き、リタに泣き止めと強く言い放つ。


「いつまで泣いていてもマリアは戻らないだろうが。冷静に考えろ。

行き先は分かっているんだ、まずはロアナに書簡を送ろう」


「そうだな、僕が手配して来る」


すっと静かに立ち上がったジークの顔色は悪い。

彼はここの所ナーバスになっていた。

理由は単にマリアとシュナイゼルへの劣等感だろう。

自国内ではジークは敵無しの強さだがシュナイゼルやマリアと比べればその差は歴然。


それに加えてシュナイゼルとマリアはどんどん昔の関係を取り戻し近付いてゆく。


焦りと嫉妬に近いものが混ざり合い、ジークはそんな自分自身をも嫌悪し始めていた。


そんなジークにシュナイゼルは気付いていた。

なので遠乗りをしたいとジークから申し出があった時は直ぐに行って来いと言ったのだ。


本来なら守護の役目を担っているシュナイゼルだが、たまにはジークと2人にしてやらねばとの計らいだった。


まさかこんな事態になるとは、とシュナイゼルは頭を抱えてソファにドカッと腰を下ろした。


「シュナイゼル様…本当に…


「ああ、良い。謝るな。余計に頭が痛む」


制止されてしゅんとしてしまったリタにお茶をくれと言い付け、シュナイゼルは頭を整理した。


襲って来たという割にはジークもリタもデニスも怪我が無い。

それにわざわざ安全な場所まで部下に運ばせている。


変な力だと3人は言っていたが一体…。


「おいデニス」


「は、は!」


何でしょう?と敬礼するデニスにシュナイゼルは横目で視線を投げながら問いを口にした。


「ロアナの宰相と名乗った男の風貌は?」


「え、と…確か、真っ白でした」


考えながら何の疑問解決にならない事を言うデニスにイラッと眉毛を顰めたシュナイゼルにデニスは慌てて付け加えた。


「あ、あの!本当に肌も髪も全て真っ白で、そう、瞳だけがルビーのように真っ赤でした!」


「何だと?」


昔、カレドの書庫で文献を読んだ事があった。

ロアナの辺境の村に時空を操る民族がいると。


髪も肌も色素のない民族、瞳だけが有色で、その色は多様。青、緑、その他。

その中でも赤は特別で、赤ければ赤い程力が強いと。


ただ、その見た目と異質な力により他民族から迫害され、恐れられ、現在は絶滅していると書いてあった。


だがデニスに聞いたその男の容姿は確かにその民族だ。


だとすれば瞬時に時空を操り、他の地域へ一瞬で移動する事も可能。

4人が居た場所に唐突に現れている事を考えてもおそらくその宰相の男の仕業だろう。


状況を考えればマリアに頼みごとをしている事も踏まえ、危害を及ぼすつもりは毛頭なさそうだ。


オロオロしているデニスに視線を投げたシュナイゼルは落ち着くようにと手を上下に振った。


「相手は名もなのり、素性も明かし、お前たちを安全な場所にまで運んだんだ。

マリアに危害を与える事は考え難い。だから落ち着け。

気が散ってかなわん」


「は、は!」


敬礼をしながら返事をするデニスに深い溜息を吐いて更にどんよりした空気を感じて後ろを向けば、

壁際でリタがお茶を持ってさめざめと涙を零していた。


「はぁ・・・リタ。持って来い。それから」


「・・・・うっ・・えぐっ」


「鼻水が茶に入ってる」


「・・・っ!!・・失礼しました!淹れ直しますーーっ!」


「はぁ・・・」


飛び出して行ったリタに一瞥くれるとシュナイゼルは額を抱えて唸った。


「マリアめ・・・簡単に攫われやがって・・・面倒くせぇ・・」


ぽつりと呟いたシュナイゼルの耳にリタが食器を壊した音が響いた。


「・・・・はぁ」







ロアナへの書簡を頼みに文官の下へ急ぐジーク。


そんな時、一人の男の声にジークは振り返った。


「マルコ殿、お久しぶりですね」


「ええ、ジーク殿。マリアは最近どうしていますか」


柔和な微笑みを浮かべるマリアの従兄妹にジークの顔色が暗くなる。

おや、とジークに向けたマルコの金の瞳が訝しげに瞬く。


「何かあったようですね?」


「はい・・・実は僕と遠乗りをしている最中に・・・その、マリアが攫われてしまい・・」


「おや、それは国の一大事」


はっと顔を上げたジーク。

そう言えばそうだ。マリアはこの国で最重要人物。

その人が攫われたなど本来ならもっと大事にならねばいけないのに自分ときたら幼馴染が攫われたくらいの感覚で居てしまっていた。


「お、王にご報告を!」


「おやおや、大丈夫ですよジーク殿」


慌てて踵を返そうとするジークにマルコは落ち着くようにと肩に手を乗せる。


「シュナイゼルが居れば大丈夫です。王は彼にマリアに関する事は一任されています。

どんな事だろうとシュナイゼルが一人で処理するようにと」


「え?!そんな・・・マリアはこの国の女神・・ですよね」


その問いかけにマルコはゆっくりと瞳を半ば伏せた。


「確かに女神ですね。・・・けれど王にとっては・・まぁ、それは今は良いでしょう」


その表情は呆れとも取れるような表情で、

ジークは嫌な汗が背を伝うのを感じながらマルコを見下ろした。


マリアと兄王の仲の悪さは知っているがまさか・・・。


「しかしジーク殿・・・この時点になるまで事を王に伝える事すらお忘れとは、

余程ショックが大きかったのですね」


「ま、誠に申し訳無い・・」


「良いのです、王は気にされません」


「え?」


「文官に御用なら私がやりましょう」


「は、た・・助かりますマルコ殿」


マルコはスタスタと前を歩き出し、ジークは慌ててその背を追う。


その後したためて貰った書簡をロアナに送ったジークは空を見上げた。


「マリア、すまない・・・僕は本当に不甲斐ない男だよ・・」


後悔が後を絶たない。

だがそんな事を嘆いている暇は無い。


書簡の返事が来れば次の行動に移る事が出来る、とジークはキリッと前を見据えた。










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