目が覚めたらアラフォーから絶世の美少女になってました。
暗い、暗い。
トンネルって言うか、ブラックホールってもしかしてこんな感じ?ってか怖えーし。
何も見えないって本気で怖いな。
取り敢えずどうにかなるもんでもなし、こういう場合はじっとしとくもんでしょ。
一体どれだけの時間が過ぎたのか、
いい加減この暗闇の中で息苦しくなってきた。
「死んだんなら死んだで早く明るいとこ行けよ私の魂さんよぉ〜!」
そう叫んだ瞬間、お決まりの展開宜しく一筋の光が暗闇の中に降り注いだ。
おお、これぞお迎え。
私は何の戸惑いもなくその光の中に入った。
目も眩む程の光の中でやがてその光が消えて行く。
そして改めて目を開いた私の視界にまず飛び込んで来たのは何とも豪華な天蓋付きのベッド。
それから装飾まみれの天井。
エゲツない程豪華だな。
それから...
「ああ!お目覚めですかマリア様!」
いや、私マリアじゃねーし。
マリア誰だよドコダヨ私どこに居るのそもそもさぁ!
ガバッ!
「ヒッ!」
勢いよく上半身を起こし何気なく自分を見下ろす。
「な、なんじゃコリャ....」
肩越しにサラサラと零れ落ちてきた髪の色はまぁ黒い。
だが肌の色はまるで白人のように白く、
ペタペタと自分の顔に掌を這わせてみればハリ!
ハリが違う‼︎
「お、ま..ち..チョイまとう。なんだコレ..そ、そうだか、鏡!」
「は、はい只今お持ちします!」
若草色のドレスに白いエプロンを掛けた若い女の子が手鏡を持って来て手渡してくれた。
あんた誰!と問うのも忘れ、
私は手鏡を奪い取るとソレを覗き込んだ。
「.....△※◎※◻︎☆?!」
言葉が出ない。
なんて綺麗な顔なんだ!
取り敢えず私じゃないがコレは私らしい。
しかもどう見てもまだ十代だ。
「マ、マリア様いかがなさいました?まだ馬車に跳ねられたあとが痛みますか?」
「わ、私はマリアって言うの?てかあなた誰」
私がそう言うと若草色のドレスの彼女は顔を青くして主治医を呼びに行くと駆け出して行ってしまった。
だから名乗って行けよ。
と心で悪態を付き、私はもう一度鏡を見た。
ツヤツヤとした腰までの長いストレートの黒髪、大きな二重瞼のグリーンの瞳。
唇は綺麗に弧を描いて微笑みの形を取ってすっぴんだと言うに紅く輝いていた。
「何っだこの絶世の美少女!マジで私?!」
夢じゃなかろうか、神さまサンキュー!
第2の人生はこの美しい顔でモテモテライフを満喫出来るんだね!
「う、うおー..スゲェな..」
っていうかこの状況を受け入れるの早過ぎだろ私、と突っ込みを入れる。
が、それよりもこの置かれた状況はまるで小説の中のヒロインじゃないか!
で、小説の世界ならこの辺りでイケメンが登場する筈。
「マリア様!主治医ですよ!」
ほらキターーー!!
若草色のドレスの彼女の後ろから汗を拭きふき入ってきたのは、でっぷりとした医者らしき人物だった。
「チッ、話が違げーし」
「はい?マリア様なんと?」
「あ、あはは、何でもない」
小さな声で呟いたつもりが聞こえていたらしい。
でっぷりとした医者が私の左手を取り、絹らしき白いハンカチをそこに乗せて脈をとった。
右に左に首を傾げていたが、やがて離れると
「異常はありませんな、至ってお元気なようだ」
「ですが言動がおかしいのですよ?!」
「ふむ、マリア様、この者の名は?」
医者はそう言うと若草色のドレスの彼女に視線を向けた。
「わ、分からないんだけど」
「ま、マリア様...よもやこのリタをお忘れですか!ぁああああっ!」
リタとやら、リアクション凄すぎだよ凄ぇなオイ。
よよ、と絨毯の上に泣き崩れたリタに何だか申し訳なくなり、私は声を掛けた。
「ご、ごめんね?その内思い出すから!ね!」
「マリア様ぁ...うっ...ひっく」
グズグズと泣いているリタはちょっと置いといて、
私は医者に目を向けた。
「あ、あの、私は何でこんな事に?」
「頭を打たれていたので一時的に記憶が飛んだのでしょうな。暫くすれば記憶も戻るやも知れません。では姫さま私はこれで...」
そう言い残すとパンパンの医者は出て行った。
「ねぇリタ、私はどうして頭を打ったの」
「姫様は城なんか退屈だと言って男装されて城を飛び出されたのですわ!そしたら近衛兵の馬車に当たってしまわれて....」
「てか、私姫なの?それビックリだわアハハハ!しかも姫が、ば、馬車に跳ねられるとかブフッ!」
私が姫ってウケるんですけど!
アラフォーなんすけど!?
どんな設定だよこれぇ!!ってベットの上でお腹抱えてヒーヒー笑い転げてたら突然部屋のドアが開いた。
「マリアが目を覚ましたのか?」
涼やかなその声に、私を青ざめた顔で見ていたリタがピシリと背筋を伸ばして声の主に腰を屈めてお辞儀した。
おお、何だか声優のマキさん(人気イケメン声優)の声みたい。
そう思い、涙を拭いながらその人物を見上げた。
「は、アハ..だ、誰.....」
ギ....ギョーーーーー!?
私の目、きっと瞳孔開ききってるわコレ。
金髪碧眼....ザ、王子サマ.....‼︎
誰か白馬を引いて参れ‼︎
「マリア...やっとその美しい瞳を見られた..心配したんだぞ」
そう言いながら王子サマは私をぎゅっと抱きしめた。
柔らかい金の髪が耳を擽り、涼しげなイケボが私の脳みそにダイレクトに響いた。
「は、ハヒッ...!」
私の思考回路はショート致しました。