その事実結構重いですね。
アマリアさんに見送られて神殿の小道を無言で仏頂面のシュナイゼルと歩く。
「ねぇシュナイゼル、さっきみたいに笑いなさいよ。これ命令」
「そんな命令聞くわけ無いだろ。
というか何で笑う必要があるんだ、俺のメリットは何だよ、ああ?」
「ちょっとシュナイゼル、段々口悪さが酷くなってるよ」
「お前もな」
ギラリ、とシュナイゼルを見上げるが皮肉げに口を歪めた顔と目線が合って
小さく舌打ちして顔を前に向けた。
「「・・・・・・」」
ひとしきり悪態を付き合いながら木々の木漏れ日を浴びながら歩く。
本当に気持ちの良い場所だ。
自分が何なのかある程度は理解したが、
どうもあの守護女神とやらは神聖さもあるがそれと同時に禍々しさも感じてしまった。
何だろうこの気持ち悪さは。
「あ、そうだ、弟ってどこ」
「・・・・・・お前ももう会った筈だ」
「は?」
「つい最近会っただろ」
だからシュナイゼルが分かってても私は分かんないんだってば!
とイラつきながら口を尖らせた。
「ジェレミーだ」
「はっ?!じぇ、ジェレミー?!似てないし!」
ふう、とため息を吐きながらシュナイゼルがさも嫌そうに視線を遠くへ飛ばした。
「二卵性の双子だ。ただ、俺はカレド、アイツはアランドールで別々に育ってただけだ」
だけだ、って言うけどそれっておかしくない?
何で双子なのに・・・っていうか、え、ちょっと、宰相?父親って宰相よね?
「ね、ねぇ・・・これって結構タブーだったりすんの」
「ああ、かなりな。俺の父親はあの宰相だ。だが子供と正式に認めているのはジェレミーだけだ。
そして俺はあの宰相を父だと思った事など一度も無い」
「な、なんか・・・凄く複雑そうね・・・」
「だからあの時言っただろ、親父もジェレミーもクソだと」
「クソだとは言ってなかったと思うけど・・・成るほど、シュナイゼルとジェレミーは兄弟なのか・・」
アマリアさんはそんな事一言も・・・。
只分かるのはシュナイゼルが父親であるアルバーン宰相を毛嫌いしてるって事。
「でもお父さんなのに・・」
ボソリと呟いた私の言葉にシュナイゼルがピクリと眉を動かした。
「誰が・・・国王の名代でカレドに来た時、母を手篭めにしたんだそうだ。あの汚い野郎はな」
「は?!それって・・・ちょっと待って、仮にも国王の従兄妹にそんな暴挙を?」
「それ程、この世界ではアランドールの力が強いんだ。あの守護女神を擁している事が大きい」
「他国にはああいった存在は居ないの?」
「居るのかもしれないが俺は聞いた事は無い」
「それにしたって宰相も酷いね・・・いくらなんでも国王の従兄妹なのに無礼にも程がある」
その言葉にシュナイゼルは悲痛な面持ちになりながら視線をさ迷わせた。
聞いてはいけないと思いつつも、彼の事やこの国の事など知っておかなければならないような気がした。
この国で生きていく為には汚い事実も知らなくては。
「当時、母はカレド国一の美貌を誇っていたそうだ。加えて魔力を持っている為カレドでは貴重な存在だった」
「・・・そういえば・・アリーチェも不思議な力があるみたいだった・・」
「ああ、カレドの王族の女には魔力が備わっている事が多い。母はそれが特に強かった」
「成るほど・・・それでお母さんは神官なんだ・・」
「まぁ、それもあるが俺が生まれて『盾』だと分かった時にこの国に迎え入れる表向きの口実として神官の位を与えられたにすぎない」
「え・・・でも宰相の息子を産んだのに夫人に迎え入れられなかったんだ?」
「あの男には正妻がいる。地位を手に入れるだけの表向きのお飾りの妻だがな」
「え・・あ、そうなんだ・・・」
「だがこの世界では第二夫人を迎える事は多い。だが母はそれを望まなかった」
だろうね。
アマリアさんはそういった事に屈する事は無さそうだ。
とても優しそうだけど芯は強そうな感じがした。
だからこそシュナイゼルをここまで真っ直ぐに育てられたんだろうけど。
ほんと、ジェレミーとは大違いよ。
っていうかこのぶっきらぼうはどうにもならなかったんだろうけど、この産まれてきた経緯を聞けばそれも仕方が無いかなとも思う。
しっかり母親思いだしね。
「アマリアさんも苦労したんだね」
「ああ、だが母はここに来てお前と出会って、凄く楽しそうにしていた。
いつも『娘がいたらこんな感じ』なんて言って俺に・・・」
「俺に?」
うっ、と言葉を詰まらせたシュナイゼルがその涼しげな目元をほんの少しだけ赤くしながら咳払いをした。
何よー。
「な、なんでもない。こっち見るな」
「なっ、ええ?!」
はい、本日二度目のあったまきたー。
私はドレスの裾を持ち上げると思いっきり背後のシュナイゼルに回し蹴りを喰らわせた!
筈だった・・・・。
「甘い」
「うっ・・・くそー・・・」
足を掴まれた状態でプルプルと震える私に一瞥くれて、シュナイゼルは涼しい顔でニヤリと笑った。
「乙女の足をいつまで掴んでんの!離しなさいっ!」
「ふん」
「あっ!」
ブン!といきなり突き放されてよろけながらもピタリと地に足を着けた私を横目に見ながら、
シュナイゼルはそのままスタスタと歩き去ってしまった。
気がつけば小道を抜けて見慣れた薔薇の庭園の前だった。
「マリア!話は終わったかい?」
す、と薔薇の庭園から現れたお日様みたいにキラキラした金色の髪。
ぽわ~ん、とでも音を付けたくなるような彼の雰囲気に私はへラッと表情を崩して駆け寄った。
「ジーク!迎えに来てくれたの?」
「ああ、ここを通ると思って薔薇をみながら待ってたんだよ」
「優しい~~、ジークは本当に優しいよぉ~~~・・シュナイゼルと大違いだよぉ~~!」
最後の方は小さくなっていくシュナイゼルの背中にわざと大きく叫びながら私はジークにくるりと向き直って腕を組んだ。
「どうだった?何か大変な事は無かった?」
「うん、シュナイゼルが言ってたみたいに私がヒス起こすような事は特に無かったよ」
「そう、良かった」
「あと、ジェレミーとシュナイゼルの話も聞いた」
「・・・・・・・・そうかい。あの二人は子供の頃から仲が悪くてね・・君を挟んで大変だったみたいだよ・・。僕はたまに遊びに来てはいつもジェレミーに苛められてねぇ・・」
「あー・・・なんか想像つくわー・・・ジークは天使だけどジェレミーはねぇ・・・」
「まぁ宰相の息子で立場もね・・」
「でもジークは一国の王子でしょうに」
そう言った私の言葉にジークは少しだけ困ったように眉を下げた。
「僕の国はこの国程大きくは無いしね、まぁアランドールに比べればどの国も劣るけど」
「そうなんだ・・・なんかこの国って知れば知るほど強大な存在なんだね、なんかちょっと想像出来ないよ」
「まぁそうだよね、でも君が気にする事じゃない」
「気にしてもわかんないしね~あはは」
能天気に手を頭の後ろに回して笑う私の頭をジークがぽんぽんと小さくはたく。
目線を上げてジークを見上げたら、赤面する程綺麗に微笑むジークと目が合った。
「そういう君だから好きなんだ」
「・・・す、・・・ッ?!」
キラキラ…………。
やっべーーー!!これ胸キュンなんてもんじゃねぇ!!!
爆発して灰になるレベルの笑顔だよぉおおおお!
見慣れてた筈なのに後ろの薔薇が相乗効果を生んでるよ!
「こっ、殺す気ね!?ジークは私をキュン死にさせるつもりでしょっ?!」
「ちょ、マ、マリア?!落ち着いて!僕が悪かったよ!」
キラキラ・・・・・。
金粉を振りまかないで下さい、そんな綺麗な目で私を見つめないでぇええ!
はぁ、はぁ、と取り乱す私をオロオロとしながら宥めるジークの図。
久々にイケメンオーラにやられた私はきっと気を抜いていたんだと思う。
ひとしきり狼狽えた後、やっと落ち着きを取り戻した私はジークに支えられながらふと息をつく。
空を見上げれば澄み渡る青空が広がっていた。