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宰相の息子


ブルネットの短い髪に緑色の大きめの瞳。

スラリとした体躯。

赤の、いかにも貴族ですって感じの出で立ち。


どう見てもイケメン。


じゃなくて、良いとこの息子。


「誰?」


城の中のこんな奥まった場所にまで悠々と出入り出来るからにはそれなりの身分の人間なんだと聞かなくても分かるけど。

お互い無言で見つめあう事数秒。

優しい風が二人の頬を撫でて髪を巻き上げた。


青年は一歩近寄ってくると、夜着一枚だった私の肩に自分のマントを羽織らせながら微笑んだ。


「私はジェレミー・アルバーンと申します」


「アルバーン…聞き覚えが…」


そう呟くと、青年は目を細めてクスリと小さく笑った。


「私の父がこの国の宰相を務めさせて頂いております」


「あっ!アルバーン宰相の息子?!」


そうです、とにこやかに微笑んで私の目の位置まで腰を下ろすジェレミー。


顔を覗き込まれて少しだけ顔を赤くして俯いた。

だって至近距離のイケメンよ!?照れるわよ!

新キャラ登場ーー!なんて言ってる場合じゃ無いけどまたきたよイケメン。


「アルバーン宰相に息子なんて居たんだ」


「はい、これまで離宮の前王のお世話役をさせて頂いていましたが、この度父に補佐でつく事になりまして」


「そうなんだ、でも何でこんな夜分にこの庭へ?」


「離宮を離れて暫くして大雨になり到着がこのような時間になってしまいました」


「そりゃ大変だったわねぇ」


頬に手を当ててそう言えば、ジェレミーはまたクスリと笑った。


「記憶が無いというのは本当だったんですね、マリア様」


「は?」


またもや。

もしかしなくても幼馴染さんですかね。

私は申し訳なさそうにジェレミーを見上げた。


ごめんね、しかも中身がオバさんなんよ。


「もしかして幼馴染だったりする?」


「はい」と短く答えられて私は冷や汗を垂らした。

マリアってばこんなイケメンとばっかり遊んでたら美的感覚狂いそうよねぇ。


「久しぶりにこちらに戻ってみればあなたがここにいて驚いた」


「あはは・・・」


「綺麗になられて・・」


恍惚とした様な表情で頬に指を伸ばされてビクッと後ろへ仰け反った。

ちょ、近い近い・・・・


「そんなに警戒しなくても・・」


困ったように眉をさげたイケメン、もといジェレミーはもう一度私に手を伸ばしてきた。

何でこうも何度も触れようとしてくるのか。

そりゃマリアは美人だし触りたくなるのも分かるけれども。


「あ、ちょ・・・ま」


ズル・・と後ろに下がった瞬間、後ろに付いていた筈の手が空に浮いた。


「!!」


「マリア様?!」


ドボン!激しい水音と共に私は噴水の中にどぼん。

そういえば馬鹿デカイ噴水の淵に座っていたんだった。


慌てたジェレミーが水の中に入り、私の腰を抱えて抱き起こす。

結構水深もあって、しかも一瞬の出来事で身体も脳も反応出来なくて鼻から水が入って苦しい。


ゲホゲホと咳き込みながら「ありがとう」とジェレミーを見上げたら心配そうにこちらを見ているジェレミーと目が合った。


「ご、ごめん・・ありがと」


「大丈夫ですか」


「う、うん大丈夫・・・」


ジェレミーは微笑んで私を抱き上げると噴水の淵を股越して地に脚を着けた。

膝の裏に差し込まれた腕、背中に回されたもう片方の腕に僅かに力がこもる。


「?」


はた、と自分を見下ろせば白い夜着がベッタリと肌に張り付き、肌色が透けて見えていて私は慌てて腕で身体を隠した。が、遅かったようだ。


「私を誘惑してるんですか」


「んな、わけ……」


ジェレミーの表情がどこか怪しい。

雲に隠れていた月の光が雲から顔を出して先程より更に明るくジェレミーの顔を照らす。


自分を見下ろす目がどうにも尋常で無い気がして鳥肌が立った。

早くコイツから離れなければと女の勘が働く。


「ジェレミー、そろそろ離してくれる?帰るわ」


「帰したくないな」


「っ、?!」


ギリ、とジェレミーの手に力が入り太腿と肩にその指が強く食い込んで顔を歪めた。

やっぱりデニスを連れてくればよかった。

シュナイゼルなら兎も角、ジェレミーに攻撃を仕掛けたら怪我をさせてしまう。


こんな時に限っていつもひょっこり現れるジークも来ない。

っていうか来る方がおかしいんだよね!


もう1時間経ったかな、デニス来ないかな!


身体を強張らせて身をよじった瞬間、私を呼ぶ声が遠くから聴こえてハッとする。

此処から逃げ出したいと言う思いだけに支配されて、私は必死に声を絞り出した。


「ここよ!」


「マリア様!」


走り寄って来る足音が聞こえ、私を呼ぶ声が近くなる頃、ジェレミーは私を地に立たせた。

ふぅ、とジェレミーが小さくため息を吐く音が聴こえた。


「デニス…」


「マリア様?!その格好は??」


デニスが私を見てギョッとする。次の瞬間にはデニスの視線が隣に居るジェレミーを不審げに足元から顔まで観察する様に見上げた。

素早く私の隣に駆け寄って来ながら自分の上着を私に掛けて背中から支えてくれた。


そのデニスがジェレミーに剣呑な眼差しを向けて不審げに眉を顰める。


「私はマリア様の警護の者でデニスと申します。失礼ですがどちらのご子息でしょうか。」


ジェレミーはそんなデニスに僅かに不愉快そうに眉を顰めたが「ジェレミー・アルバーンだ」と答えた。


デニスが口の中で「アルバーン…」と呟き、次の瞬間には誰なのか気付いた様で姿勢を正してジェレミーに一礼した。


「アルバーン宰相のご子息でしたか。して、この様な時間に此方には何故?」


デニスの問いにジェレミーが眉を顰めた。

答えたくないのだろうか、イラつきを感じて私はデニスの服の裾を引っ張った。


「デニス、寒いから帰ろう?」


「あ…」


デニスはハッとしたように私に視線を戻してニッコリと微笑む、けれどジェレミーを振り返った時には警戒心が丸出しなのが感じられた。


「アルバーン様、では失礼致します」


「待ちなさい」


踵を返した私とデニスに背後からジェレミーの声が掛かる。

瞬間________



「えっ……!?」


後ろから肩を引き寄せられてガッチリと抱きしめられた。


「マリア様?!」


デニスの焦った声が聞こえ、私をジェレミーから取り戻そうとその身体が動く。


「動くなデニス、おやすみの挨拶くらいさせてくれ」


ニイッと引き上がる唇が私の恐怖感を煽り、真っ青な顔でジェレミーを見上げれば、

強い力で顎を掴まれた。

流石にこれはもう投げ飛ばしても良いだろうか。


そう思った瞬間、


「そこまでた」


「っ」


ジェレミーの身体が強張り、不審に思ってジェレミーの背後に視線を回せばジェレミーの首に誰かの腕が回っていた。

同時に私は誰かに腰を引き寄せられてジェレミーから離れる。



「?……ジー…ク」


「ああ、大丈夫かい?マリア…」


じゃああれは誰…?

暗がりに目を凝らせば丁度月明かりがその人物の顔を照らし出した。


銀の光を反射する銀髪。

鋭い眼光を放つ銀の瞳。


「シュナイゼル……2人ともどうして」


「丁度2人で話をしていてね、帰る途中でデニスの声が聞こえたから来てみれば……」


「久し振りじゃないかジェレミー…」


ジェレミーを羽交い締めにしたシュナイゼルの唇の端が皮肉げに笑みの形を作る。


「シュナイゼル……貴様…」


苦しげなジェレミーの声が静かな庭園に苦々しく響いた________________。







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