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八つ当たり
そよ~と風がシャツの袖をなびかせる。
すうっとオニヤンマが目の前を通過する。
そうだ、虫を撮ろう。
「とりあえず、オニヤンマ撮るか。」
手首に掛けていたストラップ付きのデジカメを外し、両手で持つ。
さて、どこに行った?
デジカメから目を上げ、上半身を左ななめ後ろにひねる。
・・・いないな。
いったん前を向いたあと、右ななめ後ろも確認する。
あ、カカシだ。
オニヤンマは・・・うん、いないな。
三度目の正直と空を見上げてみれば、青一色。
なんだ、さっきのは見間違えたのか?
と思った次の瞬間、
「とあ!」
ガタンッ。
カメラが地面に打ち付けられた。
慌てて、足元に転がったデジカメを拾い上げる。
「まさか壊れてないよな・・・?」
画面をのぞき込むと、あぜ道に咲く小さな花が映った。
良かった。壊れてはないみたいだ。
ほっと息をつき、思わずつぶやく。
「まったく、泰希と関わるといいことがないなあ。本当に嫌な奴だよ。」
ザアッと緑の稲穂が揺れた。