第二話「十五」
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「おい、クラッカーは持ったか⁉持ったよな⁉」
「うるさいです、灯茂・・・」
「あぁ⁉俺は事前確認しただけだろうが‼」
「まぁまぁ・・・あ、足音が聞こえるよ‼」
カツ・・・カツ・・・ガチャ‼
「せーの‼」
パパパーン‼パパーン‼
「「「ハッピーバースデー‼」」」
「雷都‼」
「雷都さん」
「雷都くん‼」
「わっ・・・みんな、ありがとう‼」
* * *
───十五分前───
「はっ・・・はっ・・・」
気が付けばスタート地点まで戻ってきていた。何周したっけ・・・。
「そろそろ戻らなきゃ・・・」
白い息、滴る汗、脈動を続ける血液。
靡く風、揺れる木々、消灯する学寮。
やっぱりこのグラウンドでするランニングは気持ちが・・・
「ん⁉消灯⁉」
バッと腕時計に目を向けると、既に今日がおわっていた。
「あ・・・やば・・・」
早く戻らねば・・・教官に見つかったら殺されるぞ・・・。
僕は痕跡を残さないように清掃して、グラウンドに一礼してから上着を羽織った。
冬の気温とは裏腹に、体温は上昇していた。
* * *
静まり返った寮内にカツカツと足音だけが響いた。
よかった、まだ見回りは始まってないみたいだ。
「よし、このまま二階に上がればバレずに部屋まで行けるぞ・・・」
「誰にバレずに済むんだ?」
「そりゃ、もちろん鉄室教官に・・・って」
「ほう、お前の部屋でじっくりその話、聞かせてもらおうか・・・。異論は認めん」
あっ・・・(察し)
カツ・・・カツ・・・
静まり返った寮内に再び足音だけが響いた。今度は二人分だけど・・・。
「お前は元旦にも規則を破るんだな・・・。こんな時ぐらい、こっちを休ませてくれ」
・・・見回りしなければいいのでは?
言葉が頭に浮かんだが・・・
・・・流石にやめておこう。
「お前の部屋番、いくつだっけか?」
知ってるくせに嫌味言わないでくださいよ・・・。
「・・・ニ階の教官室に一番近い二二三です」
「ああ、そうだったな。私がいつも問題児のお前を監視できるために部屋移動までさせたんだったな」
(問題児って・・・ちょっと消灯時間に遅れただけ・・・」
「何か・・・言ったか・・・?」
「いっ、いえ何も‼」
途中から声に出てたみたいだ・・・。
「雷都・・・お前は成績優秀だ。実技も座学も常にトップ。第三期生の主席は恐らくお前だろう」
おお?なんかいきなり褒められてる。
「それは・・・光栄で」
「だが‼」
「‼」
教官は僕の言葉を遮るように続けた。
「だからこそ、常識をしっかり身につけるべきだ。規則はちゃんと守れ。消灯時間は何時だ?」
「・・・十二時です」
「そうだな、今は何時だ?」
時計を見る。
「十二時・・・十五分です」
(たった十五分じゃないか」
「・・・その十五分が明暗を分けるんだ。規則も戦いもだ。よく覚えておけ」
やべっ、また声に・・・。
「はい、分かりました・・・」
「本当に反省しているのか・・・。大体な・・・」
あぁ、始まってしまった・・・。鉄室教官の長い説教。通称、鉄語り。
とりあえず相槌打って流しとくか・・・ん?
外を見ると、雨が降り始めていた。空を雷雲が覆っている。
天気予報は晴れだったんだけどな・・・。
あー、今にも落ちそうだなぁ。
・・・ピシャーン‼
予想は的中した。
轟音と共に、僕ら二人の影が二秒ほど出来上がった。
かなり近くに落ちたみたいだ。
そんな事、お構い無しに教官は説教を続けていた。
なんか・・・あの雷・・・綺麗だったなぁ。
* * *
「・・・と、言うことだ。今日はこのぐらいで見逃してやる。部屋、着いたぞ」
気付いたら自室の前まで来ていた。鉄語りも終わったらしい。
「それから知っていると思うが、明日・・・正確には今日の訓練は元旦につき休みだ。しかし夜更かしを許しているわけではない。生活リズムを崩さぬよう、速やかに睡眠をとるように。いいな?」
僕は扉を開けながら答えた。
「はい、わかりま」
パパパーン‼パパーン‼
僕の言葉を遮った音と共に、辺りには硝煙の香りが広がった。
「「「ハッピーバースデー‼」」」
「雷都‼」
「雷都さん」
「雷都くん‼」
「わっ・・・みんな、ありがとう‼」
そうか、今日は僕の誕生日だったか・・・。すっかり忘れていた。
が、今はそんなことより・・・。
「ありがとうはありがとうなんだけど・・・」
「遅かったじゃねぇか‼さては鉄語りに付き合わされてたな⁉」
あぁ、こいつはなんでこんな時に限って勘がいいんだ・・・。
「正解だ、藍田。座学もその考察力を活かして頑張ってくれればいいのだが・・・?」
「ひっ・・・。き、教官も一緒だったんですね・・・。誕生会、ご一緒します・・・か?」
「ばっ、馬鹿‼余計な事・・・」
そんなこと言ったらマジでキレる・・・。
「ほう・・・今日はお前の誕生日なのか?」
「は、はい・・・」
ヤ、ヤバい・・・。
「それならそうと言え。そんな大事な日に説教するほど私も悪趣味ではない」
あれ?
「ど、どういう意味・・・」
「誕生日だけじゃなく敬語の使い方も忘れたのか?」
「あ、え、す、すみません‼」
「・・・そのままの意味だ。我々、〝玉者〟にとって〝誕生日〟というのは何よりも大切なものだ。そしてそれを祝う者たちも然りだ。その行為を無下にする行動は憚られる。お前もそのくらいは知っているだろう?」
「ええ・・・まぁ、確かにそうですが・・・」
鉄室教官が説教を止めるほどに重要だとは・・・。
「とりあえず、だ。雷都の誕生日に免じて、今日はここにいる全員の罰を免除する」
「やったぁ‼」
灯茂があからさまに喜んだ。
「ただし、誕生日会は明日やれ。丁度、明日は訓練がないしな。分かったか?」
「「「「はい‼」」」」
全員が勢いよく返事をすると、教官は黙って教官室に踵を返した。
* * *
「ごめんね、待っててくれたのに・・・」
「ホントだぜ‼折角サプライズで待ってたのによぉ‼遅くなるんだったら」
「ていっ」
「痛ってぇ‼何すんだ、滝‼」
「雷都さんは悪くないです。元はと言えば、我々が勝手に計画した誕生日会です」
「それはそうだが、殴るこたぁねぇだろ‼」
「うるせぇです」
「あぁ⁉」
二人がお互いの胸ぐらを掴み合った。
「ちょっと⁉二人ともやめてよ‼」
瑠美が二人の仲裁に入る。僕も口を開く。
「二人とも悪くないよ。誰も悪くない。でしょ?」
「「・・・」」
二人は目線そらしながら、掴み合うのをやめた。
「・・・雷都に感謝しろよ」
灯茂が嫌味を言う。
「・・・てめぇもな、です」
滝がさらに嫌味を言う。
「もう・・・」
瑠美がそんな二人を見て呆れている。
そして僕は・・・
「なんか楽しいね」
そう言って、笑う。
その後、みんなが顔を合わせて笑う。
いつもの光景だ。僕らの日常。
「うるさい‼早く寝ろ‼」
隣の教官室から怒号が飛んできた。
「は、はいぃ‼すみません‼」
「ふ、二人とも早く戻ろう・・・」
「そうだな」
「ですね」
二人はそれぞれの部屋に向かって歩き出した。
瑠美がくるりと振り返って、手を振りながら
「じゃ、明日ね」
と言って、歩き出した。
「うん、明日」
そう言って僕も部屋に戻った。
「・・・十五歳、か」
二二一五年一月一日。
それからもう十五年も経った。
実感、湧かないな・・・。まるで一瞬の出来事だったみたいだ。
その日は僕が生まれた日。
そして天涯孤独になった日。
それを知ってから僕は玉者になることを決めた。
JTIを卒業したら僕も立派な玉者になれるかな。いや、なる‼絶対に‼
「最初に配属されるのはどこのチームかなぁ・・・」
そんな事を考えて、僕は寝床に身を預けた。
部屋にはまだ微かに硝煙の香りが漂っていた。
* * *
「あの子、素質ありそうじゃない?」
「それは玉者の、という意味か。それとも・・・」
「そんなの決まってるじゃない」
───私達、玉砕者の、よ・・・
閲覧有難うございましたm(_ _"m)
最初の方はわけわかんないかも知れませんが、段々わかってくるので温かい目で見てください!
次話はすぐ投稿します!