私はカメラだ
あらすじを先に読んでくださると嬉しいです。
カシャ
今日も綺麗な青空だ。
カシャカシャ
私は写真を撮る。それが私の生きてる証。
「ねえねえ、なにやってんの。」
「写真を撮ってる。」
「ふーん、変なの。」
彼は同じクラスの後藤和己。いつも挙手をしては先生の出した問題に間違える、変わったひと。
「どうやって撮ってるの。」
彼はバカである。
「カメラで。撮った時の気持ちも一緒に残すの。」
彼は目をキラキラ輝かせる。彼の目は1日の大半輝いている。楽しいことを見つけては、プールがゆらゆら太陽を反射させるように光って、私を癒す。
「へぇ。それはいいね。僕もいつも思うよ、この景色を今、ずっとこの心の模様ごと残せないかなって。」
彼は咲き始めの桜をかすめて青空を指で作った枠の中に収める。彼の心は今、どんな模様だろうか。いつもより彼の目は強く輝いていて、どんな色が浮かんでも光が反射して本当の心は透かして見えてはこない気がした。
私は少し不安になって、彼の注意をこちらに向けることにした。
「だけど、写真を他の人に見せられないんだ。だから私は少し寂しい。」
写真のいいところは人と共有できることだと思う。他の人が知覚できなかったら、それは存在しないのと一緒だ。
「そんなこと、ないんじゃない?我思う、故に我あり。それにほら、教えてよ。君が撮ったもののこと。君が初めて撮った写真は、なんだった?」
彼の目は春の陽射しを反射して私の目すら輝かせる。
「床を、撮った。撮り方がわからなくて、ただただ嬉しくって思わず撮ってしまったの。後で写真を見ていつ撮ったんだろうって驚いて…。」
彼はうんうんと頷いている。少し伸びた襟足の髪が服に当たってサラサラと音がする。そういえば彼の髪は綺麗な黒から少し茶色になって日に当たると蜂蜜みたいだ。
「うんうん。次は何を撮ったの?」
彼の目に引き込まれる。自分の記録を思い返す。
「家族を撮ったの。みんなが笑顔でとても嬉しかったの。その写真はずっと大事にしようってあの、家の壁に、いつでもみんなが見られるようにかけようと思ったの。今見たらブレてるし曲がってるけど。」
「いい写真だね。愛されてたんだ。今は何を撮ってたの?」
「今は、空が初めてあの子が撮った空みたいに飛行機雲がにじんでいて、とても懐かしくて、」
私は忘れようとしたことを思い出し初めて言葉を繋ぐのが億劫になってきた。
「あの子?」
彼が私の目をじっと見る。彼の目は柔らかな陽射しを反射してその中に私自身を見ることができた。
「そう、あの子が少し手に余る私を抱えて頑張って綺麗な空を撮ろうとしてたの。でもなかなか撮れなくて、結局お父さんに撮ってもらって悔しくてあの子は泣いてた。」
そう、そうだった。私は人じゃない。私で写真を撮っていたのはあの子だ。
私はただのカメラだった。悔しかったあの子の気持ちのせいか私は泣きたい気分だったけどもうレンズから涙が落ちることはなかった。
「うん、君はカメラだ。一人じゃ写真を撮れないカメラ。僕が君で写真を撮ってあげる。そしたらきっとあの子も喜ぶ。」
そう、だろうか。あの子が亡くなって、私で写真を撮る人はいなくなった。私はあの子が私で撮ってくれたみたいに、いろんな写真を一人で撮るようになった。
「そうだよ。きっとあの子も喜ぶ。」
ね、だからさ。そう言って彼は私を持ってレンズを自分の方に向けて、彼の目に映る私を撮った。
「うわっ眩しい。」
そういった彼は今まで私が撮った写真の中で一番輝いて写っていた。彼がとても楽しそうだったから、なんだかその瞳の中にいる私もうれしそうに見えた。