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3/3

その3 (完)


 「後でいろいろ言いたいから、放課後ね!」


 彼女はそういって自分の校舎の中へ消えていった。



 今日もまた退屈な授業、無意味な勉強。


 先生が私を含め聞く気も無い生徒たちに熱心に歴史を教えている。


 毎度、思うのだが歴史の先生ってなぜ存在するのだろうか。結局テストや受験に出るのは教科書からなのだ。先生は教科書を音読しているだけではないか。なんともくだらない。歴史の漫画を読んだほうがまだマシだ。


 先生の話を完全にシャットアウトして窓の外を見る。


 空には雲はひとつも見えない。混じり気のない澄み渡るような空、あまりに透明すぎて宇宙の色が透けて見える。


 学校の数少ない自慢の一つはこの景色らしい。でも、私には高い位置に存在しているからとりあえず景色がきれいだと言ってる様しか思えない。こんなのはただ殺風景なだけではないか。色が白と青の二色しかない。せめて天使の一人や二人飛んでいればいいのに。


 ふと今朝のことを思い出す。


 冷静になって考えてみれば、我ながらひどいことをしていたと反省する。


 やってもいないゲームを批判するなんて…… ゲーマの恥さらしだ。

 しかも、内容のひとつも聞いていないとは何たる失態。せめて仮想現実の使い勝手だけでも聞いておくべきだった。


 そう、私は判断する材料のひとつも持っていないのだ。

 次、彼女と話すときは内容までじっくり聞いてからちゃんと判断しよう。

 私はそう心に誓った。

 

 「きょおの~、授業は~ここまでです。きり~つ、礼。……はい、ありがとうございました」

 

 どうやら、退屈な授業が終わったようだ。今日の最後の授業であったせいなのか、クラス中から開放感に満ちた空気があふれてくる。

 さっさと彼女の元へ合流しにいくことにする。 

 

 「おっ、やっと見つけた!」


 背中から彼女の声が聞こえた。どうやら私を探していたようだ。

 私は自分のクラスから動いていないのにやっと見つけたとはどういうことなのだろうか。

 そんなに私を探し回ったとは思えない。探す意味も無いはずだ。


 「私のこと探したの?」


 「うんや、まっすぐここに来たよ!」


 「え? でもさっき探したって」


 「どれはノリ!」

 妙に理屈っぽい私の正反対だ。ゆえに私の親友である。すばらしい。


 「そっ、まぁいいや。私はあなたに聞きたいことがたくさんあるのよ」


 「奇遇だね。私も言いたいことがたくさんあるよ!」


 それは、なんとも奇遇だ。フシギダネー。


 周りを見渡す、クラスメイトの連中がみんなそそくさと教室から出ていく。

 まだ若いのになにを急いでいるんだろうか。


 「そもそも、そのゲームってどういう内容なのよ?」


 「そうだよ!それも聞いていないのに勝手に批判するんだから!」


 うぅ、胸に刺さる。


 「このゲームのすごいところはまず第一にグラフィックだね! 夕焼けってイベントがあるんだけどそれがすっごくきれいなんだ。一度見たら絶対感動するよ!! 私は初めて見たとき泣いちゃった」


 だ、駄目だ。第一にグラフィックといわれたら、クソゲー特有のあれ(他にほめるところが無くて仕方なくグラフィックをほめる)にしか思えない。


 「グラフィックは結構どうでもいいのよ、グラフィックが悪い良ゲーなんていっぱいあるし」


 「ええー、ホントにすごいのになー。あと、操作性がすごい! 仮想現実? ってやつだからまるで自分の体のように動かせるよ。あっでも、種族によって完全に自分の体のようにとはいかないってこともあるかも。」


 そういうのが聞きたかった。自分の体のようにゲームを楽しめるなんて、なんてすばらしいのだろう。また、ふつふつと私のゲーマー魂が蘇るのを感じた。


 「種族? 種族が選べるの?」


 「一応メインの種族を選ぶのが基本なんだけど、それに飽きたプレイヤーが他の種族でプレイするみたい。けっこう、沢山の種族が用意されているみたいだよ。特に猫族っていうのがとってもかわいいんだ。私のお気に入り!!そういや、天使族は存在しなかったよ。君にとってはやっぱり残念かな?」


 「別にいいのよ、私が天使だから」


 「ふふ、そう言うと思ったよ」


 そう、彼女は笑った。つられて私も笑顔になる。別にいままで真顔だったってことではない。

 勘違いしないでよね。


 「あとは、この世界の謎は全然解明できないんだよ! 何人もオンラインで繋いでいるのに全くと言ってもいいほどに謎が解けてないんだ。どう? わくわくしない? それにクエストの数だって豊富だ。プレイヤー同士でもクエストの依頼を作ったりできるし。その数は事実上の無限大だ! そしてレベル制度の廃止! これによって初心者と上級者の差が開きにくいんだ。まあ、代わりに年齢というシステムがあるんだけど。これもまた、よくできているんだ! それにそれに味覚も再現できている! そこの料理がなんといっても豊富。一生かけても全種類食べきれないくらい! もちもん、自分で作る事だって可能さ! あとBGMだって作れるよ!あとね、あとね――――」



 なるほど、なるほど! なんて面白そうなゲームなんだ!! 今すぐやりたくなってきた! これは彼女のプレゼン能力の賜物なのか、それともゲーム自身の魅力なのか。どちらでもいい! 少なくともこんなに面白そうだと思ったことはいまだかつてなのだ。


 お兄ちゃんの言っていたことがわかった気がする。ちょっとだけお兄ちゃんに感謝しておこうかな。ありがと、お兄ちゃん。


 「あと、これだけは絶対言わなきゃ。なんとこのゲーム…… なんとなんと……」


 彼女は急に神妙な顔になって言葉を続けた。


 「やけに勿体つけるじゃない」


 「これはとんでもない爆弾だからね。じゃあ言うよ……」


 雰囲気につられて、つい唾を飲む。ゴクリという音は鳴らなかった。残念だ。


 「なんと、このゲームには記憶消去機能があるんだ!」


 ん?どういうことだろうか。これにはいまひとつピンとこない。大体セーブはできないのではなかったのだろうか。セーブができないのに記憶消去? 理屈に合わない。


 「どういうことよ、セーブはできないんでしょ」


 「ちっがうよ~。消すのはセーブデータじゃなくて、消すのは『私たちの記憶』だよ」


 は? 記憶を消す? 私の? え?


 「どうやら、これも初心者と上級者の差を消すためなんだって、後ネタばれの予防とか。でもこれのおかげでこのゲームを飽きることなく何度も何度も新鮮な気持ちで遊ぶことができるんだよ! げーまーの望みを完全に叶えているね!」


 「ま、まって。どういうことよ、記憶を消すって。ホントに大丈夫なのそれ、すごく怖くなってきたんだけど」


 「大丈夫だって、ゲームが終わったらすぐに記憶は戻ってくるし。そこまで心配なら一応保険だってあるよ。制作者を信頼しているのか、誰も保険に入っていないみたいだけども。それにゲーム時間は長くても"百年だけ"だから、そこまで心配することはないよ」


 「そうはいうけど……。たった百年でも記憶を消すのは怖いわよ。大体これはさすがにオーバーテクノロジー過ぎるんじゃない? そもそも一体誰がこのゲームを作ったのよ。こんなの神様ぐらしいしか作れないわ」


 「あれ? 知らないの? うん、そうだよ"神様"だよ。君のお兄ちゃんの上司の」


 「か、神様ぁ!? うそ、なんで。え? マジで?」


 「マジ、マジ。まあびっくりだよねー。急にゲームを作りだすんだから、暇だったのかな」


 おお、神よ。なにしてんすか。


 「か、神様が創ったとい、いうなら、信用し、しないわけには行かないか……。ってお兄ちゃんのやつこのこと黙っていたな! ああ!! 調べろって言ったのはそういうことか! なに考えてるのよ、馬っ鹿じゃないの!」


 謎はすべて解けた。つまりお兄ちゃんはただ純粋に自分の会社が作ったゲームの自慢をしたかっただけなのだ。出世した、と言うのもおそらくこのゲーム関連のことだろう。ただの自慢のために私にこのゲームを調べさせたのだ。インターネット使用禁止もすぐに製作者がばれてはつまらないと思ったからそうしたのだろう。すべて、お兄ちゃんの手のひらの上だったようだ。


 なんということだ。屈辱だ。


 「ふふ、ホント仲がいいね。そうそう、君のお兄ちゃんも天使だったけ?」


 「そうよ、あいつも天使よ。ほら、この天使の輪と同じものがあいつにもついてるのよ。しかもあいつは生意気にも空だって飛べるし」


 そういって、私は頭上にある黄色い輪指差した。所詮、天使の輪と呼ばれるものだ。


 「きっと君だってすぐに飛べるよ。ほらこんなにきれいな翼をしているし」


 彼女は私の背中から生えた純白の翼をなで始めた。う~、なんか気恥ずかしい。あと手つきがなんかいやらしい。


 「大体君はいい方なんだよ!大半は私のような翼の生えていない、天使見習いなんだから」


 「それでも、お兄ちゃんに負けているのがなんかいやなの! そういやさ、一番肝心なことを聞いてなかった」


 「肝心なこと?」


 「そう、このゲームの名前よ」


 「ああ、なるほど! タイトルはこのゲームのメイン種族の名前からとって――」 

      




                       『人生!!』





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