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天才博士シリーズ

天才ハカセと見舞い人

作者: 杉村 祐介

 私は天才発明家だ。依頼主の話を一つ聞くだけで、期待どおりの機械を作ることができる。今ではあちこちから依頼を受けては機械を作り、それを売るということで生活費を稼いでいた。

 とはいえ、そんな私も「病気」という相手には勝てなかったのだ……。




 風邪を引いた。頭に激痛が走り、喉は乾燥してとげとげしい。そして鼻水が大量にあふれ出てくる。天地が揺れ動く気がするので、直立することもままならない状態だった。ひとたび異常が起きるとたちまち言うことを聞かなくなるという人間の体は、どことなく発明に似ているなと思う。


「ご主人様、お客様ですニャ」


 寝ている私に話しかけたのは、寝室の入り口にいた子猫だった。なに、猫が喋るわけがないだって? 私の発明にかかれば、首に付けた鈴に翻訳機械を埋め込むなどたやすいことだ。


「町長さんがお越しになりましたよ、お見舞いだそうですニャー」

「……わかった、ここへ連れてきてくれ」


 私の言葉もきちんと理解して、子猫は「ニャーォ」と返事をした。そして玄関で待たせている町長を連れてくる。




「いやぁ、偉大なハカセさんともあろうお方が風邪とは……さぞつらいことでしょう」

「そうなんだ。頭もガンガン痛むし、鼻水は止まらない。風邪をうつしても悪いから今日はお引き取り願いたいのだが――」

「そうは参りません、次の予定まで時間もありますし、日ごろのご恩返しをさせて頂きたいのです!」

「と言われても……」

「そうですね、この床に散らばった書類を片づけさせていただきます!!」


 町長はそう言って、寝室に散らばっている発明の設計図を、がさごそとかき集めては山にしていった。


「町長、手伝いはいいですから」

「いえいえ片づけくらい私にも!」


 そういって町長は書類をすべてきれいに積み上げ、予定の時間になったので町へと帰って行った。ただ古い家だったせいか、玄関の扉を閉めた拍子に家が揺れて、きれいになっていた書類が雪崩のように広がってしまったが。




「ご主人様、お客様ですニャ」

「またか……次は誰だい?」


 私が散らばっている設計図を眺めてため息をついていると、子猫が知り合いの医者を連れてきた。


「お前か」

「いやぁ、天才と呼ばれたお前も風邪ひくんだなーって思ってさ」

「人間なのだ、仕方あるまい」

「へぇ、お前さん人間だったのか」


 互いに悪態を受け流しつつ、彼は私の診断をした後、良くきくと評判の風邪薬を出してくれた。そして帰り際、彼はベッドの横に置いてある奇妙なデザインの発明ロボットに目をつける。


「面白いもの持ってるな。こいつぁなんだ?」

「……そ、それに触るんじゃないぞ!」

「え、なんだって?」


 警告はしたのだが遅かったようで、ロボットはピコーンと音を立てて、そのヘンテコな顔は知り合いの医者をがっしりとロックオンしてしまった。


「な、なんだなんだ!?」

「その発明は『鉄人バトラー君7号』だ。スイッチが入ると、一時間きっちり取っ組み合いをする機能がついてる」

「なんでそんなものがお前の家に――」


 そこまで言うと、彼は鉄人バトラー君の頭突きを食らって吹っ飛ばされ、窓を突き破っていった。鉄人はウィンウィンと音を立てながらジェット噴射で宙に浮き、壁を突き破ってすぐに医者を追いかける。


「ウィンウィン――」

「やめろ、こいつ……うわああぁぁぁ!!」


 断末魔の叫びがフェードアウトしていった。






 寝室は窓と壁が崩壊したため寒くてたまらなかった。ということで仕方なく、私はリビングへ移動した。まぁリビングも寝室と変わらず参考資料だらけでごちゃごちゃとしていたのだが、これを片づける気には全くならない。ソファーにぐったりと横になってから氷まくらを下に敷く。


「ご主人様、お客様ですニャ」

「こんどは誰だ……?」

「それが、玄関から呼んでも入ってこないんですニャー」


 子猫じゃあ玄関の扉が開けられないので、客が自分から入ってこないともてなそうにももてなせない。私は一秒でも早く寝たかったが、客を放り出して寝るなんて考えはうかんでこなかった。




「どなた、ですか……?」


 私はふらつく体に鞭をうって玄関まで行くと、扉の向こうに見える大きな影に違和感を抱きながら、3人目の客をもてなそうと扉を開ける。




「ウィンウィン」

「なんだ、バトラー君じゃないか」


 直後、バトラー君のマッハパンチが、意識とともに私を吹っ飛ばした。

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