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#21

「お初にお目にかかる、俺の名前はディビット・シャールド・ド・フォーブリッジ!」

 スクリーヴァ領の一部を割譲して作られた、フォーブリッジ自治領の領主は声高に、歌うように宣言する。

「サムライよ、この我のものとなるがいい!」

 ひと目見たときから、修にはなんとなく嫌な予感がしていた。

「……すまないが、俺は兄弟の弟分であるアレクサンドロス・バクスターだが?」

「むっ、バクスターとな? 父上の領民だったとは。それはすまな――いや待て! なぜここにいるっ!?」

 ――あっ、バカ殿だ、と。



「いや、まったく。いきなり不躾なことを言って申し訳なかった! 聞けばマリーと同郷で、ゲオルギス(ジョージ)の孫が言うにはあらゆる分野で才気あふれる男と聞いてしまってな! 気がはやってしまって、いてもたってもいられなくなった!」

 魔法でどうにかなるのかもしれないが、拡声器のような装置が存在しないであろうこの世界では、この声の大きさこそが領主としての素質の一つなのだろう。

 しかしこうやってテーブルを囲むと修はこう思うのだ。

(いちいち声がでかい……)

 と。

 五メートルも離れていないのだから、わざわざ叫ばなくとも聞こえるよ、と。

「いや、光栄です」

 とりあえず日本人的微笑で日本人的謙遜をしつつ、受け流した。

「聞け、サムライよ」

「佐村、です」

「貴殿の国では男児をサムライと呼ぶのではないか?」

「……あー」

 茉莉に視線を送ると「あ、どうも」と頭だけで軽くおじぎをした。

「よくご存知で」

「マリーから聞いた! 彼女は博識であることだなぁ!」

 はぁっはっは、と呵呵大笑。

「この俺、ディビット・シャールド・ド・フォーブリッジには夢がある! それは歴史に名を残すことだ!」

 バカ殿としてですね、なんて口が裂けても言えなかった。

「占い師として優秀なマリーに加え、貴殿が我が傘下に(くつわ)を並べるのであれば! 俺が歴史に名を残すのはもはや避けえぬ運命となるだろう!」

 バカ殿としてですね、などと思わず心の中で補足してしまった。

「この出会いはもはや運命! 故に! 俺のものとなるがいいサムライよ! ……生臭い話だが、金貨五十枚は出すぞ?」

「いえ、結構です」

「なに、月に五十枚では足りんのか?」

「――ぶっ!?」

 後ろに控えていたアレックスがふきだした。

「いや、失礼……あまりに聞いたことのない額だったもので」

「そうだろうそうだろう!」

 笑われたのではなく衝撃的だったからそうなってしまったのだと分かると、ディビットは明らかに嬉しそうな顔をする。

「知っているぞ、魔術師は何かと金が要る。平民なら一度は使いきれない金に溺れてみたいと夢想する。金とは実にいいものだなぁ!」

 修は「コレがトップになっていい人なのか……?」と思わずアレクシアを見るが、

「?」

 アレクシアはちっとも動じていない。ニコニコと愛想よくして修の隣に座るだけだ。

(……これが普通かぁ)

 日本は素晴らしい国だったのだなぁ、と改めて感じてしまう。

「では女か」

「いえ、結構です」

「男……だと……っ!」

「ちがいます」

「では何が欲しいと言うのだ!」

 窓のガラスまでビリビリと震えるほどの怒声。

 なるほどこれほどの声ならば軽く民衆を押さえつけられるだろう、そう感じてしまうほどの声量だった。

「えー……知識ですが、どちらにせよ私は仕える気はありません」

「……理由を述べよ」

「アレクシアに恩があるので」

「――ほう?」

 ディビットは関心したような声を上げる。

「よほど"薔薇騎士"の身体がよいと見える」

「――ボクとおさむは、そのような関係ではございません」

 さすがにアレクシアが否定の言葉を挟む。

「ことはボクがおさむを街で保護したことが始まりです。おさむは、それに対しての恩義を感じているのかと」

「なるほど、それは失礼した」

 謝罪の言葉を述べるが、しかし、にやりと笑う。

「そうなると、戦わねば彼を手にすることは出来ないのだろうなぁ」

 小さく「しまった……」と呟く。

「どうだろうか、せっかくの神前試合。勝者に何もないのはいささか……そう、張り合いがなかろう? 武家の生まれならば、特に」

 そう言えばアレクシアが後戻りすることはできないだろう、と。

(し、強かな……!)

 よもやバカ殿は演技か、と。

 確かに世襲制ならば、よほどの事がない限りは教育を失敗することはできないだろう。仮に性格が合わなくとも、合うように矯正(せんのう)する可能性だって否めない。

「おおっと、そうだ言い忘れた」

「なんでしょう?」

「よもや戦利品たる貴殿が直接戦うなどと、バカげたことはやめてもらおうか。どちらも、貴殿が傷つくことをよしとはしないだろう?」

 なるほど道理である。

 そう納得してしまうほどには、説得力があった。

「もっとも、武家が客分の行方を客分に決めさせるなどと……いやはやそんな、アンドリュー家の名折れをやるとは思えんがね」



    ○



「しーてーやーらーれーたぁー!」

 別室に通されてディビットの関係者がいなくなった途端、珍しくアレクシアが頭を抱えはじめた。

「まさに、野心家との噂どおりでしたわね」

「ほんと、カタリナに目もくれないとか! いーい度胸だよっ!」

「……ちょっと、うれしかった、けど」

「それを狙ったのかぁー!?」

「どう、かな……?」

「わからんな、単に世間を知らぬバカなのかもしれん! カタリナ様を無視するなど……」

「クビを飛ばされたくなかったら! 赤毛はだまってて!」

「……むぅ」

「まぁ……初対面での印象のせいで、ちょっと油断はしていたのは確かだよ」

「ほんと! ハメられたよぉー!」

 修がバカ殿と評価したのは、カタリナの顔を見てもまったく動じなかったから、というのもあった。

 修は、教会前でのカタリナの人気というものを間近で見ている、多かれ少なかれ、カタリナになにか名前を覚えてもらおうと行動すると思っていたのだが、

「いや、もう……将を射んとすれば、ってやつだな」

 ともすれば茉莉の入れ知恵を疑ってしまうような手腕だった。

「どういう意味?」

「将を射んとすればまず馬を射よ――大将首を取りたかったら、まず馬を射って、取りやすくしろ、ってこと」

「馬を殺すの!?」

 アレクシアは「信じられない!!」と悲鳴じみた声を上げる。

「あー……まぁ、そうだな?」

 馬は昔から大切な資源だ。戦場で敵兵の馬を鹵獲するなどよくあったことだし、国から褒賞として名馬を与えられるなどといった武功話は実に多彩だ。故に、馬を相棒として見ているアレクシアがそうした忌避感を覚えるのは当然のことだった。

「まぁ、その、例え話だから?」

「例えばの話でそんなのが出るのはちょっとおかしいとおもうよっ!?」

「あー、うん、まぁ……うん」

 勤勉な精神ゆえに最後の一兵まで命令どおり死力を尽くして戦う、日本人の神風精神というヤツだ。だからこそ修は「将を射んとすれば」ということわざを思い出し、茉莉の入れ知恵を疑ったのである。

「それで、いかがいたします? 表立って修様が出るわけにも行かず、レクシーが出るのが妥当かと思いますが……」

「ぜぇええったい! なにか仕掛けてるよ! 槍殺しとかそんなの!」

「ですわね。愚者を演じる強かさからいって、きっとこう口にするでしょう。騎士といえば剣、であるのに、まさか槍で挑むとは思わなかった……と」

「アレクシアは、有名なのか? その、槍を使うことが」

「ええ、それはもう」

「自慢じゃないけどねぇー!」

 それゆえに首を絞められているのだろう。

「……でも、そんなに有名なら、槍殺し? とかそんなの、アレクシアの相手はほとんど用意してきたんじゃないの?」

「自慢ではございませんが、そのような決闘、この私が阻止してきましたわ」

「あ、そうなんだ?」

「ちょっと待って! ボクそれきいてない!」

「当たり前でしょう? とはいえ、私がしたことと言えば事前に調べ、槍以外を得物とする方をご紹介しただけですが」

 ある意味では当然の措置である。そして裏工作などではなく、意外と真っ当な方法で修は逆に驚いてしまった。

「ともあれ、話をまとめさせていただきますわよ? 此度の神前試合、賭けられたのは修様の所在です」

「そーだね」

「出るのはレクシー」

「なぁ、俺ではダメなのか?」

「あなたスクリーヴァ領の人間でしょう?」

 スクリーヴァ領の領主はディビットの父親である。たとえ形式上では他領の領主でしかも神前試合とはいえ、アレックスが剣を交えるのは問題があるのだ。

「私、は……」

 カタリナとしては、修は友人であるアレクシアの客分であるほうが非常に都合がよいのだ。

「カタリナ様が出てしまっては戦争になりますわよ?」

「……だもの、ね」

 カタリナほどの魔術師ならば、気まぐれに街一つ吹き飛ばすのに片手ほどの手間もない。彼女が出れば、それとつりあうほどの戦力はそれこそ軍しかないのである。

 だからこそ、あのような辺鄙なところに押し込まれているのだ。

「そして修様は戦利品としてこの戦いに出ることは出来ません」

「ぜーったい、ねらってるよねぇー!」

「でしょうね。おそらくは、修様の実力がどこからか……いえ、ゲオルギウス様からもたらされたのでしょう。かの人も、なかなか強かですわ」

「そりゃそーだ、ボクだってそーするもん」

「兄弟は恐ろしいからなぁ」

「つよい、から、ね」

 修にはもはや訂正する気力もなかった。

「はぁー……うっかり殺しちゃったらどーなっちゃうと思う?」

「それはそのときにならないと分かりませんが……カタリナ様がいらっしゃいますし、首を刎ね飛ばさなければどうにでもなるかと」

「そんな、に、期待されて、も、困る……」

「またまたご謙遜を!」

 ヘンリエッタの祖父はカタリナの手によって、なくした腕を再生したのだ。ヘンリエッタがそう口にするのも仕方のないことだろう。

「いずれにせよ、注意すべきは槍殺し……武器か魔法か、槍に特化した人間か。そこまでは分かりかねますが……」

 ちらり、とアレックスを見る。

「すまん、嬢のは見ておらなんだ」

「……でしょうね」

 分かっていたとばかりに、しかし失望するようにため息をひとつ。

「……ね、おさむ」

 絶望的な空気を打ち破るように、

「ボク、勝つからね!」

 アレクシアは、怖いものなどない、といったふうに不敵に笑った。



    ○



 夕日が沈むころ、綺麗に作られた庭園の真ん中に一対のテーブルと白い丸テーブルが設置された。薄暗くなったそこを、魔法で作った蛍火のような照明で照らしている。

「あ、どうも」

 茉莉はすでに、その椅子に腰掛けている。その傍にはディビットが不敵な笑みを浮かべて立っていた。

「……えっと、これは?」

「あ、はい。勝負ということで、設置してもらいました。ボードゲームです」

「いやはや申し訳ないなぁー! 俺の手勢には誉れ高きフォトプロス領は"花の騎士団"、"薔薇騎士"アレクサンドラ・アンドリューに正面切って挑めるほどの武功を持つものはおらなんだ! いやはや恥ずかしい限りだよ!」

 戦う覚悟を決め、いざ戦場へと槍を担いでいたアレクシアは、思わず膝から崩れ落ちそうになる錯覚に囚われた。

(そ、そうきたかぁー……!)

 あれほどさんざん煽っておいて、武功で鳴らすアレクシアを出さざるを得ない状況にしておきながら、挑むのはアレクシアの弱点であるだろう、頭脳ゲーム。

 なるほどこれはまさしく、(バカ)殺し、だ。

(……私兵の実力を隠すことにも繋がるしなぁ)

 有事のさいにたよりとなる自分の手勢の情報は、できるだけ外に流さないようにする。考えてみれば普通のことだ。日本にだって各藩の流派の対外試合を禁じる御留流なんてものがどれほど多かったことか。

 むしろこの状態になることを想定していない修たちこそ、迂闊だったのだ。

「なかなか、強かなようで」

「さてなんのことだろうか」

 とぼけたように笑う。

「さて、マリーよ。ゲームの説明をしてはくれないか?」

「あ、はい。えーっと……ほんとうは将棋にしたかったんですけど、駒がないですし、そもそも初ゲームでそれは難しいだろうなぁって思いまして、単純に、オセロにしてみました。駒は碁石っぽいのですけどね?」

 ちろりと舌を出す。

「お、おせろ?」

「あれ、知りません? ……おかしいなぁ。五目並べっぽいのあるから、知ってると思ったんだけど」

「オセロは、たしか結構最近のゲームだったはずだよ」

「あれ、そうなんですか?」

「俺も、じいさんに聞いただけだからよく分からないけど」

 オセロの起源であるリバーシは、諸説あるが十九世紀イギリスの発明である。

「ま、いいです。オセロってルールがすごく簡単なんですよ。交互において、挟んだら、色が変わる……」

 オセロが日本で発売されたときのキャッチフレーズの一つとして「覚えるのに一分、極めるのに一生」というものがあった。それだけ覚えやすいが、実に難しいゲームの一つである。

「……勝敗は、自陣の石の数です」

「な、なるほどっ!」

 さすがのアレクシアもそれだけの説明で十分に理解したようだ。

「……兄弟、このゲームにイカサマなどは」

「介在する隙間はないよ、シンプルすぎるから」

 ただ、

「シンプルなくせにプレイヤーの、ゲームの木の全展開把握がちょっと無理で、コンピュータの解析もまだ出来てない……」

「そ、それはすごい……のか?」

「すごいってもんじゃない。お前とやった石並べ、あれと同じで、数学的に言うと二人零和有限確定完全情報ゲームって言うんだけど……こういうのはたいがい先手必勝ゲームで、必勝の打ち筋が……あっ」

「きょーだーい!?」

「と、ともかくっ! この盤面みたいに八かけ八じゃ未だに最善手順は発見されてないんだ!」

「つまり……ボクとマリーは、条件は完全に、五分ってことだね?」

 さすがにイカサマをされてはかなわないと、アレクシアはその事実にほっと胸をなでおろす。

「ああ、ただ……定石知ってる?」

「――始める前にちょっとおさむに相談してもいいかなっ!?」

「えー!?」



 うさぎ、馬、虎、つばめ、ねこ、ひつじ、牛、ヨット、飛行機、バッファロー、たぬき、へび、ねずみ、飛び出し……、

「あ、あたまがぱーになっちゃうのぉ……!」

 すべてオセロの定石である。

「覚えられるとか思ってないけど、とりあえず形だけは覚えてっ!?」

 オセロは石が置けなければパスしなければならない。当然だがパスが多くなれば多くなるほど相手に石を多く置かれてしまう。

 なによりオセロは「序盤ではそれが悪手か良手かを判断できない」という特徴を持ったゲームだ。定石を覚えなければ中盤以降にパスが多くなり、結果として石の数で負けてしまうのである。

「がんばってくださいまし!?」

「がんばれできるやれる絶対嬢ならやれる負けるな諦めるな気合を見せろ根性だっ!」

「ふぁ、ファイト……!」

「しろとくろがちかちかしてるんだよぉー!」

 ――ああ、これはもうだめだ、と。

「アレクシア、じゃぁ一つだけ覚えてくれ」

「う、うん?」

「序盤は、絶対に一個、もしくは、一番枚数の少ない列だけひっくりかえすようにすること」

「……えっ?」

 欲張らないことで中盤以降にパスが発生しないようにするためである。

「あと隅っこをとれば、あとはどうにでもなるから!」

「えっ、えぇー……?」

 四隅を取るだけで、決してひっくり返されない四枚の石が取れる。これは六十四のうちの四枚、つまり全体の約六パーセントが自分のものとして固定されるのである。戦略上非常に大きな数値だ。

「アレクシア」

「う、うん……?」

「信じてるぞ」

「――うんっ!」

 人に頼られるということがどれほど重要で、そして士気をあげる要因となるか。それは修が社会人として仕事を通じることで理解した一つの心理(・・)だった。

「ボクの名前は"薔薇騎士"アレクシア、アレクサンドラ・アンドリュー! 誉れ高きフォトプロス領は"花の騎士団"が一騎! 天と地と人を統べる三界の神に誓い、この勝負、正々堂々と戦う!」

 がん、と胸プレートを叩いて音を鳴らす。

 まるで茉莉に対しての威嚇のようでもあった。

「……」

「…………」

「………………あの、マリー?」

「ふえ?」

 修がやらかしたかのように、茉莉もまたボーっとその口上を聞き流していたらしい。

 間を外されたせいか、アレクシアの肩からへなっと力が抜ける。

「マリー、この場は、口上を言わねばならぬのだよ」

「え? あ、そうなんですか? じゃぁ、ええっと……相葉茉莉、じゃない、マリー・アンバー。一局ご指南いただきます」

 ぺこり、と頭を下げる。

「……ちょーし狂うなぁ」

 言いながら、アレクシアは茉莉の対面に腰を落ち着けた。

「先手、お譲りします」

「後悔しても知らないよ?」

「私のほうが経験あるので、妥当な判断かと」

「そっか」

 黒い石を、ぱちん、と打ち込む。そしてすぐさま、白と黒の石を入れ替えた。



「む、むむむ……ここだぁ!」

 アレクシアが悩みに悩みぬいて、そして修の言うとおり入れ替える石が少ないマスに打ち込む。アレクシアは石を三つ、入れ替えた。

「なんていうか、地味にいやらしいですね……ここで」

 アレクシアが石を置いた場所に程近いところに打ち込む、四つほどの石を交換していく姿に、ヘンリエッタが小さな悲鳴を上げる。

「ああっ、また逆転されてしまいましたわ!」

「むぅー……じゃ、ここ」

 打ち込んで、二個交換。

「あらら……パスです」

「やった! 次はこーこ!」

 三つを交換して、またヘンリエッタが悲鳴を上げた。

「やりましたわっ! 逆転です!」

「……単純な、のに、ハラハラ、する、ね」

「確かにそうですね」

「ですけどー、まぁ、ここに打ち込むとまた逆転ということに……と」

「ああっ!? またっ、また逆転ですの!!」

 そうして白と黒が入れ替わる盤面を見ながら、修はむしろ冷静にアレクシア有利であることを確信していた。

(オセロの優劣は、石の数じゃなくて、打ち込めるマスの数なんだよなぁ)

 実際のところ、アレクシアは修の言ったことをしっかりと守った打ち筋で堅実に戦っている。確かに石を交換する個数こそ少ないが、終盤に差し掛かろうとする今では、茉莉は二回に一度、パスをしてしまっている。

(アレクシアがあそこに打って……茉莉さんはここに打つしかなくて……アレクシアここに打たせて、茉莉さんパスの……)

 オセロは単純に打ち合っているように見えて、実は相手を妨害する戦術というものが多く存在する。そしてオセロというゲームに偶然は存在しない。

 あるとすれば、偶然閃いたそれが最善手という場合のみ、だ。

 確かにコンピュータの解析もまだ出来てないゲームではあるが、参考する空間の狭さから世界チャンピョンは既にコンピュータに勝利できなくなった分野でもある。後半になればあとは本人の読みがモノを言うゲームだ。

(……勘がいいなぁ)

 あるいは、運がいいのか。

「うーん、パスで……これって愛の力だったりします?」

「どうかなぁー?」

 言葉で揺さぶりにかけてきたであろう茉莉に、アレクシアはいっさい動じない。

「まぁー、恋愛は騎士のたしなみだけどねぇー」

「へぇー! なるほど! やっぱり愛は勝つってやつですね!」

「あはは。まぁ、ねぇー?」

 修はただ黙って勝負の行方を見守る。その態度が、アレクシアに決して不利ではないと伝える最良の方法だからだ。

「えーっと……んー……ここっ!」

「うあっ、そこ打っちゃいますかぁー……あー、もー、パス」

 オセロはルールを覚えるのは一分だが、極めるのには一生を使うという。

「あと五マスしかないよ、いいの?」

「置けないんだからしょうがないんです。私はルールに従ってるだけです」

 ルールの単純さから、オセロをひたすらに極めようとする人間が一体どれほどいるだろうか? 彼女だって、最初はオセロではなく将棋を選択しようとしていたではないか。

(ま、ビギナーズラックかな)

 アレクシアが一手打つ。

 巻き返すように茉莉が打ち込む。

 しかしアレクシアの手堅い反撃を受けてしまい、茉莉は一度休――

「あ、ダメです。これ逆転できません」

「――っだぁ! どんなもんだぁー!」

 勝ち鬨の声と共に、アレクシアは腕を振り上げる。

「おおおおおおっ!」

「さすがです、レクシー!」

 ハラハラとしたオセロゲームは、アレクシアが勝利を飾った。

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