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#10

「やっぱり、じぶんちがいちばんだよねぇー」

 旅行から帰ってくれば、誰しもアレクシアと同じようなことを口にするだろう。もっとも、まだ町に到着したばかりで、彼女の家の玄関先にも辿りついていないのだが。

「俺も、早く、その言葉を言ってみたい……」

 修の、偽らざる心境であった。

「あはは。ボクんちのこと、じぶんちだと思ってもかまわないよぉー?」

 いっそすがすがしいほど、あからさまだ。

 時代によっては恋愛感情よりも損得勘定のほうが優先されるというが、まさかこれほどまでとは思いもしなかった修は「それは勘弁してくれ……」と顔をしかめる。

「仕事なら、私の、助手、大歓迎」

 目深にフードを被ったカタリナが、座席(サドル)(ペダル)を生やしたタイヤのないバイクのようなほうきのイミテーションに跨り、目線の高さを合わせるように浮かびながら、そう口にした。

「……なんでついてきちゃったの?」

「まだ、翻訳、教えてもらって、ないから」

 そんな事を言うなら……と。カタリナがさらに視線を隣に送る。その先には当たり前のように、赤毛の男が存在していた。

「……なんでついてきてるの?」

「占星術師がいればよっぽど便利だぞ? 兄弟の行く末を、この目で確かめたいというのもあるがなっ!」

「赤毛がついてきちゃったことによる、ボクたちがこうむる利害を言ってみー?」

「ついてきたらヤバいとか星に出たら、この俺が着いてくるわけがなかろう!」

 道理である。

「もっと言えば、俺のような人間が他の領の大きな町になど、めったに来れるようなものではないからなっ! ふはははは! 興奮で疲れも吹き飛んでいるわ!」

 この男、都合七時間近く馬と並走して、しかし息を切らせる程度にしか消耗していない。それが魔法による作用なのか、それとも本人のタフネスなのかまでは修には判断できないことだが、少なくとも修には空飛ぶほうきがまるでバイクのような形だったということ以上に驚くべきことだった。

「……おさむ、おさむ」

「なに?」

赤毛(これ)がふつうだと、思っちゃダメだよ?」

 とりあえず、アレックスが異常であることは、確かなようだ。



 ドアノッカーで、厚い扉を三度叩く。返事こそ帰ってこないが、しばらくすると内側から、ヘンリエッタが顔をのぞかせた。

「お帰りなさいまし」

「ただいまぁー」

「ただいま戻りました」

「ふふ。修様も、なかなかお疲れのようですわね」

 顔に出ていたかと、思わず自分の頬を押さえた。

「大丈夫ですわよ。馬での旅ですと、暇をもてあましますもの、誰だってそうなってしまいます。かく言う私も馬での遠出はなるべく避けたいところで……あら?」

 ようやく、ヘンリエッタが二つの人影に気付く。

「レクシー? こちらの方々は」

「あー、うんとねー」

 アレックスに目をやって、

「赤毛のほうは、占星術師」

「紹介に預かる。俺はスクリーヴァ領バクスター村の占星術師アレクサンドロス・バクスター。アレックスと呼んでくれ」

「はぁ」

 この男礼儀が出来ていませんわね、と。ヘンリエッタはあからさまに顔をしかめる。

「で、もう一人は……」

 カタリナのほうへと視線を送ると、カタリナは小さくうなづく。そしてフードを外さないよう、小さく前を開いて、顔を見せた。

「――まぁ、まぁ、まぁ!」

 カタリナ様ではありませんの! 屋敷の前までフードを被っていたという理由を察して声にこそ出さなかったが、ヘンリエッタが目をむいて驚く。

「お爺様がお世話になりました……!」

 祈るように胸の前で両手を組む、まるでひざまずきそうな勢いだった。

「そんなに、感謝、されるようなことじゃ、ないわ」

「とんでもないっ! お爺様が腕をなくしたときはもう……!」

「あれは、たまたま、で……」

「ご謙遜を!」

 カタリナは、ヘンリエッタの祖父が腕をなくすような怪我を負ったのを、治療したことがある。カタリナの研究は若返りと不老と長寿なので、肉体の再生程度ならまだ研究の範疇、むしろ研究の副産物でしかない。

 しかし、医療の分野に片足を突っ込んではいるものの、研究としては専門ではないのだ。研究者として、他人の縄張りを勝手に荒らしたような気分になってしまうのである。

「私、人より、長く、生きてるから……たまたま、できただけ」

 ちなみに、彼女の年齢について知っている人間はもういないとまで言われている。

「……腕を生やすのって、そんな簡単に、ポンとできるものなの?」

「カタリナだから、できるんだなぁー」

 伊達に「拝めば一年寿命が延びる"生命の魔女"」と呼ばれてはいないのだ。

「まぁーともかく、こんなところで立ち話するのもなんでしょ?」

「ああ、申し訳ありません。ささ、どうぞ」



    ○



 ハーブティの薄いエメラルドグリーンが、陶磁器(カップ)の艶やかな白に映えて実に艶かしい。家名のとおり薬草(ハーブ)園を営むヘンリエッタの実家でも、選りすぐりのハーブを使ったものだ。かなりの上物らしく、清涼感のある香りが部屋いっぱいに溢れかえるほどだった。

「私の実家で採れました、最上級のものですわ」

 カタリナに最大限、感謝と歓迎の意を示すため、およそヘンリエッタが自由にできるものでも最高のものを使用したお茶である。

「お茶請けは、こういったものしかございませんけれど」

 琥珀色のはちみつと、きつね色のスコーンやひとくちサイズの薄いパンケーキが並べられる。ヘンリエッタが予め作っていた、ティータイム用のものだった。

「……いい、香り」

 ハーブティを鼻先に近づけて、ゆったりと香りを楽しんでいたカタリナが、うっとりとしたように言う。

「喜んでいただけて、なによりですわ」

「ボクはこーいう匂いが強いの、苦手なんだよねぇー……」

「レクシーのためではございませんもの」

「それもそーだ」

 木製のはちみつスプーンを使いはちみつをすくい取ると、真ん中から半分に割って小皿に取り分けたスコーンに、とろりと垂らした。

「それで? 午後からどーするの?」

 ぱくりと一口にスコーンをほお張り、ヘンリエッタから「はしたない」と窘められるのを無視しながら、アレクシアは問いかける。

「一体、何があったのです?」

「赤毛の占いでさ? 町に呪術師がいるんだってぇー」

「魔術師だ」

「でぇ、呪術師をさがせ、って、まぁーそんな話」

「魔術師だ!」

「呪術師も魔術師もにたよーなものじゃんっ」

「ぜんぜん、違うのに……」

 カタリナがため息をつく。きっと明確に違うのだろうが、修はそんな事を説明されても分かるわけがない。どれも魔法を使うなら、もういっそひとくくりに魔法使いでいいじゃないか、そんな投げやりなことを考えながら、魔法の世界の住人達の問答を黙って聞き流す。

「それはともかく……占い師のアレクサンドロスさんはどのような結果を見たのですか?」

「そんな硬い呼び方をしなくとも、アレックスでいいぞ」

「アレクサンドロスさんはどのような結果を見たのですか?」

「……アレクシア嬢、彼女は占星術師になにか恨みでもあるのか?」

「赤毛の態度が気に食わないだけ」

「なんとっ」

 俺は礼儀を尽くしているのになぁとのたまう。

「兄弟の星はまず女難と、次に女難と、ついでに女難と、あとこの町にいる魔術師と会え、と示した」

「みごとに女難ばかりですわね」

「なんでボクをみるんだよぉ!」

 ヘンリエッタは、とぼけるように「さぁ?」と口にする。手元に置こうとしているアレクシアの態度にやや困っているのは正しいため、修はなんともいえない心境を隠すようにハーブティに口をつけた。

「と、言うか。なんで、説明のメインを女難にした?」

「親切心であるっ!」

「余計なお世話だよ」

「なんとっ」

 人の心は難しいとのたまいながら、アレックスは出されたハーブティに口をつける。そのまま黙っていればいいものを「味がないな……」と言うものだから、ヘンリエッタにぎろりと睨まれた。

「……この町にいる、魔術師と、会うのが、帰るのに、必要、らしいわ」

「この町に、ですの?」

「町中に呪術師いないはずだから、たぶん旅行にきてるんじゃないかなぁー、ってゆーのが、おさむの考え」

「なるほど。それなら筋が通りますわね……それで、どのようにいたしますの?」

「いちおう、ボクとおさむで、宿屋、一緒にまわろっかなー、って思ってる」

「ああ、それは無理ですわ」

 ヘンリエッタの言に、アレクシアが「うん?」と首をかしげる。

「やっぱり男女で宿屋めぐりなんてダメですよね」

「いえ、別にそうではなくて……」

 今度は修が「うん?」と首をかしげた。

「レクシー、お仕事ですもの」

「うぇええっ!?」

 アレクシアの悲鳴が上がる。

「正確には、まだ引き受けていませんわよ?」

「あっ、だよねぇー? 勝手に引き受けたかと思っちゃった」

「そんな、越権行為じゃありませんか」

「だよねぇー!」

「引き受けませんと、来月からおじゃがとお塩のスープだけになりますけど」

「ははっ、だよねぇー……」

 地味に、アレクシアたちの台所事情は厳しいらしい。

「ま、ご安心くださいまし。まだ決闘には発展していませんの」

「あ、そーなの? でも、いちばんめんどーな時期……」

 決闘を起こす前に腕のいい代理人を相手に取られないよう確保するというのはよくある話である。それが原因で決闘の前の私闘(フェーデ)もまた、よくある話である。いさかいの原因次第では、イライラが頂点に達した両者から八つ当たり気味に私闘(フェーデ)を挑まれることもまた、よくある話なのだ。

「めんどーくさいなぁー……」

 アレクシアが、ちらりと、修に視線を投げかける。

「ダメですわよ?」

 それをすぐさま察して、ヘンリエッタが釘を刺した。

「修様は論客ですもの、相談するのは、まぁ、よろしいでしょう。ですが、まったく関係のない客分を連れて行くというのは、筋違いというものではなくて?」

「でも」

「第一、修様がいくら戦えるとはいえ、強いとはかぎりませんでしょう?」

「そうだな」

「えっ?」

「うん?」

 修の戦いぶりを見たことがある、アレクシアとアレックスの声が重なる。お互いに「お前は何を言っているのだ」と言うように。

「……あっ、そーいうことになってたねっ! あはは、ごめんごめん」

「おい、ちょっと待てアレクシア」

 明らかに「実はすっごく強いケド隠しているんだよ!」と言外に言っているようなアレクシアの言い方に、修は思わずツッコまずにはいられなかった。

「だいじょーぶ、ボクはおさむの味方だよ?」

「もうお前わざとだろう!」

「あはは、そんな、まさかぁー」

 でも強いから連れて行っても大丈夫だよね? と。ヘンリエッタの顔色を伺う。

「それは実に頼りになりますわね? でも、それとこれとは話が別でしてよ?」

 だが、アレクシアのアピールなどどこ吹く風である。ヘンリエッタは、笑顔という名の圧力をかけて、いいから一人で行ってこい、というのであった。

「ふぅむ、地理に詳しいアレクシア嬢が不参加となると、さて……」

 アレックスがヘンリエッタに視線を投げる。彼女は渋い顔をして、首を振った。ヘンリエッタの立場としては、アレクシアの留守を守らなくてはならないのだ、そうそう外出ができる立場ではないのだから、当然である。

「私は、外に、出れない、から……」

 カタリナの場合は、この町に詳しくないということに加え、名前が知れすぎている。少しでもバレてしまうような素振りをみせてしまえば、あっというまに人が押し寄せてくるだろう。

「俺と兄弟だけか」

「ここで、小説の、翻訳とか」

 カタリナの目的は、あくまで日本語の翻訳だ。

「俺の見立てでは、余裕がないわけではない。が、こういったことは早めに済ませておくことに越した事はない」

「……まぁー、いつでも帰れるようにしておいたほうが、おさむも安心できるだろうしねぇ」

 アレクシアとしては、こちらに残って欲しい。しかし、約束した手前、手伝わないわけにはいかない。アレックスの言うとおり、その手段は早めに手に入れておくことに越した事はないのだ。

「カタリナ、翻訳は夜じゃダメかな?」

「……いいわ。工房、来る人、別にいないし。急いで帰る意味、ないから」

「おさむはだいじょーぶ? 夜はランプだけになっちゃうから、けっこー暗いけど」

「いいよ。よほど文字が潰れてなければ」

「明かりの魔法ぐらい、私、使えるわ」

「なんだ。じゃぁ問題ないねぇー」

「アレクシア嬢が案内しててくれるというのか?」

「無理だってゆってんだろー、この赤毛」

 ついさっきヘンリエッタから釘を刺されているのだ。まったく話を理解していないアレックスに、アレクシアは悪態をつく。

「とりあえず、町、てきとうに回っててよ。仕事、一区切り付いたら合流するからさ」

「じゃぁ、どこかで待っていたほうがいい?」

「いいよ、だいじょーぶ」

 アレクシアは自信たっぷりに胸を張った。

「ボクがおさむのこと、みつけてあげるぅー」



    ○



「知識人の情報を集めたいのであれば、やはり風呂だな」

 内風呂が世帯数に対して少ない時代、文字通り裸の付き合いとなる風呂屋は交流の場であった。行けばとりあえず人がおり、酒の入った状態ではないため乱暴者も少なく、リラックスした状態なので口も軽くなっている。こういった事情から、庶民のサロンにはうってつけだったのだ。

「俺、金ないよ?」

 修の服や装備は、アレクシアからの借金だ。返さなければならないのは分かっているのだが、修には残念ながら収入がない。幸か不幸か、それともアレクシアの誠意なのか、現状ではこれをネタに引きとめようとされてはいない。

「入浴料がさほど高いわけでもなし、兄弟の分は俺が出すとしよう」

「いいのか?」

「なぁに、兄弟は、俺に何も請求しなかったではないか」

 私闘(フェーデ)では勝利の証として、戦利品を獲る権利がある。修はそれを放棄したのだ。

「ところで、場所は分かるのか? 初めてなんだろう? この町」

「なに、抜かりはない。嬢の屋敷へ向かう道すがら、既に見つけている!」

 アレックスは自信たっぷりに言い放つ。

「ところで兄弟、湯船につかる風呂に入った経験はあるか?」

「俺の国は、それが主流だな」

「なんと」

 湯を文字通り湯水のごとく使うには、大量の薪や水、それを運ぶ人足が必要となる。風呂屋でもなければ、こうしたリソースを毎日消費し続けるというのはなかなか難しい。

「温泉が有名だから」

「ほう、ヴァンニクの多い国なのだな」

 ヴァンニクは風呂場やサウナの中に住む、風呂好きで綺麗好きな妖精だ。彼女達には予知の力があり、風呂場の扉をあけて待っていると未来の吉凶を教えてくれる。

 ごく稀に人とヴァンニクとが恋に落ちることもあってか、占星術師などが持つ特殊な才能は、彼女らと交わって生まれたからだと言われている。

「……俺の国に、妖精はいないぞ?」

「ははは、そんなバカな」



 にわかに人が多くなり、頭の白くなった老人や、厚底のサンダルをはいた若い女性を多く見かけるようになる。

「見えてきたぞ兄弟、アレだ」

 そうしてアレックスから指し示された先には、おそらく銭湯を表す紋章なのだろう、木の看板に焼印で、修の知る温泉マークによく似ているものが掲げられていた。

 建物は表向き、周りとデザインがさほど違うわけではない。人の出入りがしやすいよう、入り口は大きく、そして扉らしい扉がないというのが、違いと言えば違いか。

「しかし、なかなか……うむ、都会は綺麗どころが多いな」

 厚底のサンダルをはいた女たちを見て、アレックスがなにやら不穏な事を言う。

「……って、おい。目的を忘れてないか、お前?」

 内風呂の少ない時代での大衆浴場は混浴が多く、一種の出会いの場として側面があったことは否定できない。しかし、目的を忘れてそちらに走るのは違うだろうと、アレックスをたしなめた。

「何を言う、兄弟。俺はあか落としのサービスを頼むだけで、ごくごく普通のことではないか」

 そう言うアレックスの鼻の下は、伸びに伸びきっている。

「…………あっ」

 日本では流行った厚底靴であるが、国によらず、娼婦の多くは厚底の靴をはいていることが多い。日本でも厚底の下駄は花魁がはいているため、日本を含め、世界的に見れば厚底の履物は娼婦がはくものなのだろう。

 ――なにも珍しい話ではない。

 キリスト教圏内で一時期風呂の習慣が禁じらたのは、売春を禁じるためだ。

 道徳心が高いと評価される日本でも、黒船がやってくる以前は混浴が当たり前で、公衆浴場である湯屋の中に賭場や売春が平然と共存していたのである。

 こうして風呂屋で営業を行う娼婦がいても、なんらおかしいことではないのだ。

「さすがにダメだろう」

「兄弟よ……男、だろう?」

「ダメだって」

「洗ってもらうだけ」

「ダメ」

「カタいのは一部分だけでいいだろう!」

「やかましい!」

 風呂屋の前で罵りあう、とんだ営業妨害である。



「まったく兄弟は潔癖症でいかん」

 まるで聖職者のような言動を目の前でされていては、娼婦たちには商売の邪魔でしかない。刺すような視線に耐えられなくなった二人は、結局、表通りのほうへと戻ってきていた。

「こんな状態でソープとか、そんな神経してないからだよ」

「ソープ?」

「俺の国の性風俗」

「……兄弟、そこは、どういうことを、やってくれるのかね?」

「お前はサカリのついた犬猫か」

「女遊びは男の楽しみである!」

 混浴が一般的だった時代は、おおむね、性におおらかである。

「で、どんなサービスをだね……」

「行ったことないから知らんよ」

「商売女を相手にするほど、兄弟は女に不自由していないということかっ!」

「お前ぶん投げるぞ」

「だが兄弟はアレクシア嬢にカタリナ様に言い寄られて……」

「あんなの打算ばっかりで……」

 二人の会話は、いつの間にか愚痴になっていく。アレックスはこの世界に来て初めての、遠慮なく話せる同性だ。アレクシア相手ではなかなか話しづらいことまで話題が進んでいく。

「おい、そこの」

 だからだろうか、いささか野生的なその女性の声に気付くのが遅れた。

「おい、そこの! おい――サムライ!」

 二度繰り返されてようやく、二日前にそう呼ばれた事を思い出す。

「はい?」

 振り向くと、見覚えのある女がいた。

 いささか野生的というか、筋肉の発達した、アマゾネスのような女だ。視線を合わせるには、修が見上げてしまうほど背が高く、恵まれた体格をしている。

「ああ、やっぱり。サムライじゃないか」

「ええっと……ジェニファー、さん?」

「覚えていてくれたか! ――というか、こっちの言葉、喋るようになったのか?」

「ええ、まぁ。アレクシアのおかげで」

「アレクシア?」

 誰だそいつは、と不思議そうな顔をする。修はすぐさま「あの"薔薇騎士"の」と付け加えると「ああ、あの女か」と納得したように頷いた。

「……誰だ、兄弟」

 話にまったくついていけん、と。アレックスは顔をひそめる。

「二日前、こっちに来て初めて話しかけてくれた、ジェニファーさん」

「ジェニファー、でいいよ。ケツがむず痒くなる」

 さばさばとしたふうに付け加えた。

「あたしはジェニファー。"木苺"ジェニファーだ」

「きいちご? ずいぶんと可愛らしい……」

「いや……それ、昔、金がなくてね? 山で木苺ばっか食ってたら、いつの間にか」

 恥ずかしそうに頬をかく。

「あ、そうだ。ジェニファーさ……ジェニファーは、このあたりの人間?」

「いや、ペルサキスだ」

「南のペルサキス領か? ずいぶん遠い……」

「そんな遠くないさ」

「嬢は砂糖の行商にでも来たのか?」

「道中の護衛だね。ま、今は休暇ってところか」

「ふむ……」

 アレックスが少し考え込むように「女難が功を奏したか……?」と呟いた。

「それは、魔術師の護衛か?」

「なんだい」

 ジェニファーは不思議なものでも見たかのように、目を丸くした。

「あんたたち、あの偏屈じじいになんぞ用でもあるんかい?」

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