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第3話「第一の村、ドワーフの村 ―潜入編Ⅱ―」

 少年が目指す場所は、式典が行われる広場だった。

どこに兵士たちの拠点があるかも分からないし、そこに行くのが手っ取り早いと判断したからだ。

道を曲がろうとしたとき、前方の曲がり角から兵士が出てきた。


「おい、お前!!」


「は、はい!」


 その兵士に声をかけられた少年は、びしっと背筋を伸ばして立ち止まる。

まさか早くも変装がバレたかと思った少年は兵士の様子をうかがった。


「ドワーフたちを見なかったか!?」


「え?」


 想像していた質問と違って拍子抜けてしまう。

けれどはっと我に返ってた少年は首を数回横に振った。


「い、いいえ!見てません……何かあったんですか?」


「そうか……ドワーフたちが森に行く途中で、忽然と姿を消したんだってさー」


「はあ……」


 頭を抱える兵士の姿を見て、思い当たる節がある少年は少し遠い目をする。おそらく少年たちがドワーフを小屋に(かくま)ったからだろう。

兵士たちからしてみれば、折角の貴重な労働力だ。血眼《ちまなこ》になっても探すのではないだろうか。


「それを知った領主様がさぞお怒りでさー……ドワーフたちを見つけ次第、見せしめに処刑するって言っているんだよ……」


「……へえ……」


「しかもそれだけじゃなくさー、その監視をしていた兵士までも処罰するって言っているらしいんだよ……」


 兵士の話を聞く限り、ろくでもない領主であることがわかった。

よくそんな領主についていれるな、と考える少年だったがその逆の発想なのだろう。

 従わなければ処罰される――つまり従うしか選択肢がないのだ。恐怖で人を支配しようとする、(まさ)しく王道な悪徳領主の典型例(てんけいれい)である。

 少年と兵士が話し込んでいる折、いきなり花火が上がるような、大きな砲弾が打たれた音が鳴り響いた。


「ああ……式典の始まりだ。終わるまでにドワーフと監視役の兵士を連れ帰らないと、俺まで処罰される……とんだとばっちりだー」


 そうぼやきながら兵士は少年の横を通り過ぎていく。少年は兵士の背中を見送った。

兵士が向かった方向のずっと先に、あの小屋がある。見つからないことを祈るしか、少年にはできなかった。

 少年も再び歩き出し、騒がしい広場の入口へとたどり着く。広場にはこの式典のためだけに作られたのだろう、木材でできた舞台があった。

その壇上できらびやかな服に身を包んだ小さな身長で、ぽっちゃりという表現より球体のように丸い体をした男が、偉そうに演説をしている。

 恐らくあれが領主と呼ばれているやつだろう。

少年の嫌いなタイプだったので、できればあまり関わりたくはない。

さっさと鍵を回収して小屋に戻ろう、そう思って舞台裏で待機している兵士の一人に声をかけた。


「すいません」


「なんだ、お前?」


「あー……実はここに配属されてまだ日が浅くて」


 少年は適当な嘘をついて兵士の言葉をやり過ごす。

そしてこの兵士以外誰も周りにいないことを視認してから、兵士にこっそりと告げた。


「実は、兵士の一人がドワーフに人質に取られてしまいまして……足かせの鍵を持って来いと脅されてるんです」


「なんだと!?それは本当か?」


「はい。ですが今日は大事な式典の日、領主様のお耳には入れない方がよいと考えて、速やかに事態を収拾したく……」


 少年の話を聞いた兵士は、少し考える素振りをみせるが少年の言葉に納得したみたいだ。

しっかりと首を縦に振って少年に同意を示した。


「……そうだな。足かせの鍵を渡す素振りを見せておいて、人質と交換するときに取り押さえよう。鍵をとってくるからここで待機していろ」


「了解です!」


 少年は急いで駆け出す兵士を見送る。なんとか口車に乗せれたし、あとは鍵を回収してここを去るだけだ。

案外ちょろいものだな、と少年はすっかり油断していた。

 広場の方が何やら騒がしくなっていることに気づき、舞台裏からこっそりと覗いてみる。


「領主様!!ドワーフどもを発見しました!」


「それで?何故連れ帰ってこんのだ?」


「そ、それは……兵士が一人捕まっていて……」


 先ほど少年と出くわした兵士が大声で領主に報告していた。

その言葉に、領主は動じることもなく質問をする。すると兵士は少し戸惑いつつも返答した。

兵士の言葉に広場の人たちが騒ぎ始める。

『なんて野蛮な』という人もいれば、『まだ開拓途中の村に来るのは間違っていた』という人もいるみたいだった。


「地位はそこそこの兵か?」


「いえ、ただの二等兵です……」


「ならその兵は捨ておき、さっさとドワーフ共をワシの前へ連れてこい」


 領主はあくまで冷静に、落ち着いた声音でそう指示をする。

ドワーフたちを含む魔族も、自分に仕える兵士さえも何とも思っていない。寧ろ代えのきく『駒』としか見ていないようだ。

まさにマンガやアニメ、ゲームや小説で良く出てくる小悪党そのものである。


「兵士を見捨てるなんて……」


「なんて領主なんだ……」


 領主の言葉は、さすがに民衆の耳をも疑わせたようだ。

広場は再び騒然とし始めた。


「……撃て」


 領主が小さく呟くような合図で、今度は銃声が辺りにこだまする。

先ほど領主を非難した男性が叫び声をあげて、その場に崩れ落ちた。肩を抑えているのが見えて、撃たれたのだと少年は理解する。


「ここはワシの村だ。何をどう扱うかはワシが決めて当然なのだ」


「……くっ……」


 男性は反抗的な目を向けるが、その端には撃たれた痛みによるせいか涙が溜まっていた。


「おい、何があった!?」


 舞台裏からすべてを見ていた少年のもとに、鍵を取りに行っていた兵士が戻ってきたようだ。

事態を把握していない兵士は、少年と同じように広場を覗いて何かを察する。


「ああ……バカなことを。逆らえば容赦ないのに……」


「……鍵は?」


「これだ」


 独り言のように呟く兵士に少年は声をかけた。

差し出されたのは一つの古めかしい金属の鍵。すべて同じ鍵で開くのだろう。


「そ、それともう一つ報告が……」


「なんだ、まだ何かあるのか?」


「おそらくここに、ドワーフに(くみ)する兵士が紛れ込んでいるはずです!」


 静まりかえっていた広場がまた少しだけ騒がしくなった。

しかしすぐにそれは収まり、みんな領主の様子を見る。


「……それは根拠があるのか?」


「捕まっていた兵士は甲冑を脱がされていました!ですので人間に化けた魔族が、兵士の姿でいるはずです!!」


 兵士の必死の訴えかけに、領主は米神をぴくりと動かした。

そして少年たちがいる舞台裏を睨みつけるように見ながら、領主は叫ぶように指示を出す。


「今すぐ鍵を持ってこい!!」


 なんの鍵かは言わなかったが、おそらく少年が今差し出されている鍵のことだろう。

小悪党とバカにしていたが、どうやら間抜けではないらしい。すぐに潜入している兵士の目的に気が付けるのだから。

兵士が一瞬身を竦めた隙に、少年は鍵を受け取った。


「お、おい!?」


 後ろで兵士が呼び止めるが、それを聞き流して舞台裏から広場を去る。

後ろで『こっちに逃げたぞ!!』という声が聞こえたが、少年が足を止めることはなかった。


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