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第2話「第一の村、ドワーフの村 ―潜入編Ⅰ―」

「魔解症!?」


 少女の診断結果にドワーフたちが一気にどよめいた。

けれど兵士が無反応なのを見て、少年は魔族にしかわからない病気だと判断する。


「魔解症ってなんだ?」


「魔力欠損が原因で起きる体組織が分解する症状よ。通称、魔解症。最初に魔力欠損により高熱を発して意識を失うの」


「体組織分解って……じゃあ身体が消滅するのか?」


 少女の説明を聞いて、少年はさらに問いかけるとドワーフたちがまたざわついた。


「最終的には……そうなってしまう」


「治す方法は?」


「まず、この足かせをとかなければいけない。これは体内と体外からの魔力を抑止する力があるから」


 少女は長老についている足かせを指差して答えた。

それなら簡単だ、と少年はその場にいる一人の兵士へと視線を向ける。兵士は少年の視線を受けて、長老を一瞥してから静かに呟いた。


「……人体への影響は?」


「これは魔力が欠損して起こる、いわば自壊症状。人間にも他人にも影響はない」


「なら……――このまま放置だ。他の奴らは仕事に戻れ」


 兵士の言葉にドワーフたちは躊躇する。

当然だ。自分たちの長が病に冒されているのに、見過ごせるわけがない。


「貴様ら、言うことを聞かないか!」


 そう言って槍を振り上げる兵士。

そのまま近くにいたドワーフに振りおろしたが、それがドワーフに命中することはなかった。


「何のつもりだ、貴様!!」


 なぜなら、少女が兵士の槍を掴んでいたからだ。

こうなった少女を見るのは少年も初めてで、少年はただ見ていることしかできなかった。


「は、離せ!!」


「あなたたちこそ何のつもり?ここはドワーフの村。木を愛し、慈しむ存在を強制的に虐げ、あまつさえ木々を伐採させるなんて……」


 兵士が槍を引こうとするが、小柄な少女の手から槍が離れることはない。

少女は兵士の言葉に耳を傾けることなく言い募ると、槍を握っている手にさらに力を込めてそこを境に折ってしまった。


「お、お前……魔族か!?」


 兵士の動揺する様を見て、少年は兵士が逃げると先読みして退路を塞ぐ。

案の定、逃げ出そうと後ろを向いた兵士の目の前に少年は立ちふさがった。


「いやあ、今ばれると面倒だからさ」


 天使のような微笑みで少年は告げてから、兵士の顔を殴り気絶させる。

周囲を確認して、辺りに他の兵士がいないことを確認してから少年たちは近くの小屋へと身をひそめた。


「で、話の続き」


「なんの?」


「魔解症の治し方だよ」


 小屋の中に一つだけあるベッドに長老を下ろして、看病しているドワーフの仲間たちを視界の隅に入れながら少年が少女に促す。

兵士の一件が起こる前の話を思い出した少女もまた、長老を一瞥した。


「そうね……足かせを外すことで、食物や皮膚から魔力を微量ながら摂取できるようには戻るはずよ」


「その先だ。身体のしくみが戻ったところで、病気が治るとは言っていない」


 はっきりと少女の言葉を指摘すると、少女は少し間を置いた。

この時どんなことを少女が思ったかなんて、少年は知る由もない。


「……一応さっきの方法でも時間がたてば治る。何十年、何百年かかるかもしれないけど……」


「長老の年齢を考えると、そんな悠長なことは言ってられないだろ?」


「そう。だから完全に治す方法はたった一つ。エルフの力を借りること」


 少女が治し方を口にした途端、ドワーフたちの空気が一気に張りつめた。

何事かと少年は思ったが、次に発言し始めたドワーフたちの言葉に納得する。


「エルフだと……?」


「エルフの力だと!?」


「あいつらは俺たちを虫けらとしか思っていない!!」


 ざわざわとしていた中、一人のドワーフが叫ぶように言った。

どうやらドワーフとエルフは犬猿の仲といっても過言ではないようだ。


「落ちつけよ。長老はエルフの力でしか治らないんだぞ?」


「……ワシらが頭を下げたところで、あの石頭共は力を貸してくれたりせん」


「虫けらに力を貸す賢者がどこにいるって!」


 少年がドワーフたちをなだめるが、誰も元気がない。それどころか絶望的といった様子のドワーフたちに、こちらまで陰気が移ってしまいそうになった。


「……とりあえず、まずはその足かせの鍵を取ってこないとな」


 一旦エルフの話は置いておくことにして少年は呟いた。

ドワーフたちは顔を見合わせて再び俯いてしまう。


「まあ、良いところに甲冑も落ちてるわけだし」


「まさか……潜入するの?」


「正解」


 少女が呆れたような信じられないというような感じで聞いてきた。

少年はそれに満面の笑みを浮かべて頷きながら、先ほど気絶させた兵士の甲冑を脱がせて装着する。


「案外入るものなんだな、こういうの」


「バレたらどうするの!?」


「その時は……あれだ。救出してくれ」


 装備した上から甲冑を軽く叩いてみると、結構丈夫にできているらしい。

少しの衝撃なら防げるだろうが、魔族と本格的に戦った場合はひとたまりもないだろう。


「それに、敵の情報を仕入れるのには上出来な考えだと思うけど?」


 少年が少女に言うと、少女はしぶしぶ了承した。

それを見た少年は、少女の頭をフードの上からぽんぽんと撫でる。何か言いたげな雰囲気だったが、それを聞く前に小屋を出るのだった。

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