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第1話:エンカウント

初投稿です。

結構な長編になる予定ですが、どうぞ最後までお付き合い下さい。


※感想・批評などを頂けると非常に励みになります。

要望・感想・非難等なんでも大歓迎ですので、宜しければ書き込み宜しくお願いします。

もう9月も半ばを過ぎているにも関わらず、やたらと暑い日差しの下、俺は通学路をひた走っていた。

時刻は8時30分。あと10分で予鈴がなり、15分後には授業が始まる。

頭の中で算盤を弾きつつ、スピードを速める。

(このままのペースで行けば、なんとか間に合う。だが――)

そこで足が止まる。

無常にも、俺の目の前で展開される赤信号。しかも、交通量が多いせいか、やたらと信号の変わりが遅いことで有名な交差点だった。

10秒……20秒……30秒……イライラしながらランプが変わるのを待つ。

が、1分経っても信号は変わる気配すらない。

(かくなる上は……)

俺は覚悟を決め、横断歩道へと足を踏み入れる。途端に鳴り響くクラクションの嵐。

俺は心の中で平謝りしながら、小走りで横断歩道を渡りきった。


そのまま速度を緩めず、今度は見知らぬ民家の裏庭へ突入。この家の庭を通過すれば、ちょうど学校の正門の真横へと出れるのだった。

噂では何度も耳にしていた裏ルートだったが、実際に通り抜けるのは今日が初めてだった。

身を屈めて軒下を疾走し、塀を乗り越えると、ようやく校門が視界に入ってきた。

時計に目をやる。

時刻は――8時41分。

「ふぅ……間に合ったか」

安堵の息を漏らす。

走り疲れた呼吸を整えるように深呼吸をし、首元のネクタイを緩めると、校舎へと歩み出す。


と、その時

「お前」

突然、背後から冷ややかな女の声が投げ掛けられた。

ゆっくりと後ろを振り返る。

そこには、白色のワンピースを身に纏った、見た目13歳ぐらいの少女が立っていた。

やや吊り上がり気味の目つきと、綺麗なブロンドの髪を桃色のリボンでツインテールに纏めているのがどことなく幼い印象を受けさせる。

少女は俺はジロジロとねめつけると、再び口を開いた。

「お前、何か私に謝ることはないか」

信号を無視した挙句、他人の家へと無断侵入したのを見られていたのだろうか。

だが、そのことについて何の関係もない、というか見ず知らずの人間に謝罪する、というのはどう考えてもお門違いではないだろうか。

「お天道様に誤ることはあっても、あんたに謝罪しなけりゃならないことは思いつかないね。」

極めて正論を言ったつもりだったのだが……少女は眉をキリリッと吊り上げると

「バカ者!生徒の過ちを正すのは教職員の務めだろう!」

口角泡を飛ばしながら怒鳴ってきた。

……って、ちょっと待て。生徒?教職員?外見、中学生も怪しいコイツが先生だと!?

驚きで思わず声に出してしまった。

すると、少女はさらに眉を吊り上げると、顔を真っ赤にし、俺の耳を掴んで自分の口元へ持っていくと、

「ぶ、無礼者!」

と叫んだ。

鼓膜が破れるのでは、と思わさせらるほどの大声に、俺は思わず耳を抑える。

そんな様子を見て、少女は復讐完了と言わんばかりに、うんうんと頷くと

「まあ、先生というのは適切な表現ではないな。私はお前のような、無知でだらしが無くて失礼で、愚かで見っとも無い無礼な人間と毎日顔を突き合わせていられるほど寛容な人間ではないのでな」

なんだか言っていることがループしているような気がしたが、ともかくヒドい言われようだった。よくもまあ、初対面の人間をここまでボロクソに貶せるもんだ。

失礼で無礼なのは、どっちかと言えばコイツのほうのように思えるのだが……。

「先生じゃないんだったら、誰なんだよ」

すると、少女は待ってましたとばかりに、”ない”胸を張り

「星陵高等学園理事長兼校長の、皇堂・D・ティナートだ」

訊いてもいないのに、フルネームまで宣言してくれた。

え〜と、皇堂・D・ティナートだったか?

たいそう長くて立派な名前だが、どこの国の人間なんだオマエは。

いや、そんなことはどうでもいい。俺の学校の理事長は、やたらと腰の低い小太りの中年男だった筈だ。

何を間違っても、無駄に偉そうな小柄な金髪美少女ではなかったぞ。

俺の疑問に、少女は腰に手をやり、威張るように答える。

「あぁ、その男なら昨日付けで退職した。なので、代わりの理事長として私に白羽の矢が立った、という訳だ」

どうだ、と言わんばかりに、”清々しいまでに”ぺったりとした胸を張る、皇堂・D・ティナート(えぇい、呼び辛い!)だった。

「そういう訳だから、お前、取り敢えず職員室に案内してくれ」

「いや、ちょっと待て。俺は今から授業が……」

「そんなもの少しぐらいサボっても大事ではないだろう。それに、どうしてもと言うなら、理事長権限で出席扱いにしてやるさ」

「いや……でも、だが……」

尚も渋る俺だったが、ジトッと睨んでくる皇堂に根負けし、職員室へと足を向けた。




思えば、この時からだったんだろうね。

俺の一風変わった、愉快で、痛快で、どこか切ない高校生活の始まりは。

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