七瀬誠
「いらっしゃいませ~!あっ、時田さんじゃないスか!」
この店にくるようになってから顔馴染みとなった、バイトの七瀬誠である。
「こんにちは、七瀬くん。今日のランチは?」
「時田さん、俺のことは誠って呼んでくださいって何回もいってるじゃない
スかぁ。今日のランチは時田さんの好きなオリーブオイルのパスタです」
「本当?じゃあそれください。あとね、なんで名前で呼ばなきゃいけないの
よ?」
「決まってるじゃないスか、晴実さんのことが好きだからですよ!」
七瀬はウィンクをしながら言った。
「それ、本気で言ってるの?」」
「さあ、どうでしょうか?」
おどけて手を挙げている七瀬に晴実は、
「まあ、どっちであろうが私はあんたのことはフるけどね」
と言った。
「えー、でも俺、なかなかのイケメンでしょ?」
「好きでもない男に俺イケメンでしょ?っていわれても、なんにも感じない
わね。っていうか私の好きな人のタイプ、あんた知ってるでしょうが」
「あー、声の綺麗な人がいいっていわれてもねー。人によっていいって感じ
る基準って違うじゃん」
「少なくとも、あんたの声は射程外ね」
「がーーん!」
おおげさに頭を抱えてしゃがみこんだ七瀬をくすくす笑っていると、急に七
瀬が顔をあげた。
「じゃあ、俺のことは名前で呼ばなくていいですから、その代わりに晴実さ
んって呼んでいいですか」
本気の七瀬に気圧されて、気づいたら首を縦に振っていた。
「ほれほれ、甘酸っぱいオハナシは勤務時間はあとにしな。そのぶん給料か
ら差し引くぞ?」
そう言いながらパスタの入った皿を持って歩いてきたのは店長の中谷さんだ
。
「はい、オリーブオイルパスタね」
「ありがとうございます」
私は思わず口がゆるむのを一生懸命抑え、フォークでくるくるっと巻いたパ
スタを口にいれた。