危機的、状況
何とか書き上げました、すごい疲れる……戦闘シーンは書いててやっぱり面白いね。
では第三話どうか読んでやってください。
エルフィン・ローシュタインことリリア・ロータスです。
皇太子様に初めて会ってから一週間ほどたったけど、もう既に二・三回ほど訪問してきてます。暇なのか、皇太子。
何だかんだ言って冒険者レベル、冒険者のランクみたいなものが上がりました。ということで依頼を見に来たわけです。少し寝坊をしてしまったので冒険者は一人もいないわけで、依頼も碌なのがない筈だったけど……
「だれか、護衛をしてくれるひとはいないか」
どうやら依頼し遅れた人が困っているようだ、護衛依頼と言うのは、他の町などに物を運ぶ時に依頼することができる物で、相互監視の意味を込めて冒険者を二人以上集めなければいけない。
どれどれ、とクエストボードを覗く。
『港町イラストリアスまで 予定日数二日、食事付き 募集人数二人』
イラストリアスとはこのアンスバッハから南に百五十キロ行ったところであり、唯一魔領や東洋との交易をおこなっている都市である。その性質上町は異国情緒あふれており、一年中温暖な気候として観光客にかなり人気が高い等々。
さらに、この都市からイラストリアスまではそんなに強い魔物は出ない。悪い依頼ではないだろう、依頼した時間が悪いのと、報酬が明記されていない点をのぞけばむしろかなりいい部類の依頼に入るだろう。
受けようと思っていたら、向こうからこちらに気付いた。
「ん? この坊やも冒険者か……どうだ、護衛依頼を受けないか?
大丈夫、怪しくないよ」
なんだかものすごい怪しいんですが。大丈夫かな……と悩んでいた俺に、ギルド職員が小声で話しかけてきた。
「正直、迷惑しています。報酬のほうはギルドのほうからでも払いますので受けてもらえませんか? 入口に居座られると一般の方が入りにくいので、あの方も一応取引相手ですし……」
結局、受けるより他ないようだった。
ガタタン ゴトトン
という訳で馬車の中。クエストを受けた、と言っても平和な道中である。何度か敵は出てきたが全部もう一人の冒険者が遠距離で片づけてしまった。出番がなくて暇です。
あっという間に行程の半分が終わり、徐々に眠気が緊張感より強くなってきた時、前方から地響きが鳴ってきた。馬が焦ったような声を出して馬車が急停車する。慌てて前を見ると
「何だこりゃ……」
依頼主がその光景を見て、呆然としていた。無理もないだろう、見える限りでも十体以上、おそらく五十は超えるであろう数の魔物がこちらに向かってきている。
と、もう一人の冒険者が焦ったように指示を出した。
「急いで! 早く、馬車を来た道に引き返させて!」
その言葉に、依頼主が馬を操作する。
「ど、どうするんだね!?」
依頼主が叫んでいる、と言ってもどうしようもない。確実に敵は近づいてきている。狼狽していた俺と依頼主にもう一人の冒険者が言い放った。
「君たちは逃げると良い、わたしはここでやつらの足止めをしていく」
その言葉に、依頼主が前(逃げている方向)を見て……絶望したような声を出した。
「残念だが……どうやらそうはいかないらしい、あのくそったれどものどこにそんな頭があったのかは知らねえが完全に包囲されてるぜ」
とっさに舗装がなされていない横を向くと、そちらの方にも魔物がいた。行足を止めた馬車にじりじりと魔物が近寄ってくる。精神状態は、一周してむしろ冷静だ。
「……後ろの敵は何とかします、他の敵を近づけないようにしてください」
断定の口調が意外だったのかもう一人の冒険者が訊ねてきた。
「勝算はどのくらいだ?」
「時間を稼いでいただければあるいは、やってもらえますか?」
「やるしか、ねえだろうが。期待してるぜ、少なくとも、お前の隠し玉がだめだったらどうしようもない。なあ、あんたもそうだろう? その前に名前を明かしてほしい物だがな」
そう言えばこの弓を使う女性、まだ名前を聞いていなかったことに今気づく。
「そうか、まだ名乗っていなかったな。私の名前は 秋風凛奈見ての通り弓使いだ。さあ、その秘策とやらを見せてくれ。坊や」
言われなくても準備は始めていた。後ろにいる敵は狼型と猪型、そして馬のようなものもいる。使うとしたら貫通型の炎属性だろう。手元に杖がないのが不安だが時間をかければいけるはず。
詠唱をし始めた俺を見て、依頼主は驚いたような顔をしたが、今やっている事の意味に気付いたのか、はたまた違う意味からか馬車を止めた。そして、近づいてきた敵を秋風が弓で射る。
久しぶりのこの感覚――今思えば、家を抜け出す前はほぼ毎日術式を使っていたが、あの都市に着いてから一週間、ほとんど存在を忘れていた。
そうしているうちに術式の展開が完了したという印である白い光が体の周りから溢れ出し始める。やはり媒介《杖》がないからか、威力は少し低く感じるが仕方がない。
「――炎よ、 炎の槍!」
その言葉と同時に槍の形をした炎が三本、一直線に後ろの敵へ向かっていく、そして――
『ギャアア! グルオオオオ!』
その線上にいた敵を一掃した。まるで 三叉槍(=刃が三つついた槍)に貫かれたかのように敵の陣形が崩れる。同時に眩暈が俺を襲う、強力な術式は使用者への負担が大きいのだ。
最後に、薄れゆく意識の中馬車が方向を変えたのを感じながら、意識がゆっくりと暗転していった――
リリアが眠った後も戦いは続く、いかに後ろの敵を壊滅させたと言っても、いまだに三方向から包囲されていることには変わらないのだ。
倒れた子供を見ながら、秋風凛奈は若干数残った後ろの敵に弓を射かけていた。一発射るごとに一体の敵が倒れていく。揺れる馬車の上、いくら相手が混乱して静止しているとはいえその技量は驚嘆に値するものだった。
幸いにしてほかの方面から出てきた敵は待ち伏せと言う特徴からか行き足が遅めの魔物が多い。
事実、徐々にだが距離が広がってきていた。
――これならば逃げ切れるかもしれない――
そう思っていた、第二波が来るまでは。
商人、ワルター・リンツは魔物の集団との遭遇戦に焦っていた。 だから、後付けで雇った少年が術式を使ったとき、驚く一方で安堵はしていた。もともと報酬を払う気はあまりなかったがいくらか払ってもよいだろう。
そして、第二波が来たとき、その安堵は再びの困惑に変わった。先ほどよりも数は少ないが東洋から来た弓使い一人では捌くのは難しいだろう。幸い敵の隊列は伸びきっている、引き打ちに徹すれば……いやだめだ、ある程度距離があるとはいえ後ろの敵もいるのだ。
目が、覚めた。そして、寝る前の記憶を見つけて――
「どうなりましたかっ!?」
目が覚めたことに驚いたのか、商人がこちらを向く。
「坊主? なんで起きて……いやそれよりも、さっきは助かった。だが第二波が近づいてきている、さっきの三分の一でいいから撃ってくれ! 頼む!」
状況はあまり呑み込めないがどうやら危機に陥っているらしい。ほとんど力は残っていないが……いけるか? いや、できなければ全員がやられてしまう。
残った力を掻き集めて術式を構成する。光も点滅していて弱弱しい。無理をしているからだろうか、徐々に意識が薄れていく。
「――炎よ、フレイム……ランス……」
一本だけでた赤い槍を見ながら、俺は倒れこむように意識を失った――
夜明けが、嫌に嬉しく感じた。
ちょっと短めですね、きりが良かったもんでつい。
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