微妙な恋
微妙だった。
好きなのか、嫌いなのか分からなくて
微妙な感情だったわ。
冬の気配を感じるこの季節になると
あの微妙な感情が
熱を、帯びていくの。
あれは10月の初めの頃だったわ。
当時付き合っていた彼との関係がマンネリ化したのをきっかけに
私は、ある男と一夜の関係をもった。
あの時は新鮮でね
欲の罠にハマりそうだった。
求められる事が、これほどに
心を満たすなんて…。
私はなにも知らずに…
彼の気を知らずに…。
所詮遊びのどす黒い罠にまんまと落ちた。
彼となんか、いつ別れてもよかった。
でも彼は
別れ話ひとつする事はなかった。
適当にあしらって、適当に体を重ね
帰り間際にはいつも
「またな」って言う。
彼の気持ちが、分からなかった。
それでいいの?彼はいつも通り…。
なにも変わらないまま。
私は分からなくなった…。
この胸の中に潜んだ
言葉にできない微妙なモノを。
「別れよ」
私は1年2ヶ月付き合った彼との関係を
こんな簡単な言葉で終わらせた。
彼は反論せず
俯いて、頷き続けるだけだった。
そして
最後に彼は
「海へ行こう」と私を誘った。
季節外れの海には、人影ひとつなくて
海岸に打ち上げられた貝殻を気にする事なく、2人して腰を下ろした。
仲良く並んだ姿は
以前の
「恋人」の姿だった。
そして、私の口は意志とは裏腹に動きこう彼に訊いた。
「貴方は私を愛してた?」
すると彼は、顔色ひとつ変えず
「今もね」
私は戸惑いを隠せなくて
「じゃあね」
その言葉をおいて、帰路を急いだ。
なぜ?
なぜ彼は…。
後に気付いた事は馬鹿らしい事でした。
求められたかったんじゃない。
愛してほしかった。
愛したかった。
遊びの男に感情なんてなかった。
でも…
彼にだけ、微妙な感情があったわ。
これは
「愛」じゃないと思ってた。
考えてみてよ。
好きなんじゃない。
嫌いなんかじゃない。
じゃあなに?
愛してる。
汚い私にはなくてよかった微妙な感情。
離れたくないとか…
会えなきゃ寂しいとか。
ねぇ、初めから私は
彼を愛してたんじゃない…。
もう遅いわね。
彼の気持ちはもう
海の中。
私へくれた想いはあれで
最後だったのよね。
彼もこの微妙な感情と
過ごしていたのね。
私は今こうして
微妙な感情と暮らしている。
おかしな話ね。
微妙な恋…。
それは適当なんかじゃない。
本気の恋。
今もずっと
当たり前だった彼がいう
「またな」
聞きたいの。