第二章 第一話 四本目の持ち主、遭遇
久しぶり投稿っす。
舞台は宮崎に移ります。
俺達一行は、宮崎に降り立った。
沖縄に比べたら、いくらかは涼しい方だ。
「で、大地兄。場所は特定できた?」
宇宙がそう尋ねてくる。
「どっかのお姉さんが、やれって言うから、やっときました……」
お陰で疲れは最高潮。
飛行機の中じゃ、爆睡だ……。
「で、何処?」
「少しは、労ってください、紅葉さん……」
「よしよし」
頭を撫でられた。
馬鹿にされた気分でもあるが、嬉しさもある。
これが飴と鞭か!?
……絶対違うな。
「それで、何処なの?」
「んー、北部と中部の真ん中辺り?」
撫でていた手を引っ込められ少し悲しかったが(やはり嬉しかったのだ)、質問には答えた。
「交通手段はバスか?」
「電車で行きましょう。路線が近いし……」
そんな訳で、汽車に揺られ、すっかり旅気分だ。
日本を救おうとしている一行には、どうひいき目に見ても、見えないだろうなぁ……。
「ああ!
大地兄、それ俺の春巻き!」
駅弁のおかずを奪い合う、ほのぼのとした風景。
「フハハ!
この世は弱肉強食!
油断していたお前が悪いのだ!」
……言っとくが、これはスキンシップだ。
決して。
決して!
春巻きが欲しかった訳ではない!
大人だからね。
「宇宙。これあげるから」
と、紅葉は自分の駅弁のおかずを、宇宙に渡した。
……えぇ、分かってますとも。
これが本物の大人の振る舞いさっ!
でもこれが大人の振る舞いであれば、俺は大人でなくてもいい!(なんだそりゃ)
「それより、付近に着いたらどーすんの、紅葉姉?」
「そこも、大地の仕事ね」
と、二つの視線が俺を刺す。
あ~、ホント疲れるのよ、刀の気配感じるの。
……とは、言えず。
黙って仕事をするしか道がないわけだ……。
「分かった、分かってますとも……」
「あ、ついでに何か奢って!」
「私は……そうね……」
「何でもやってやる訳じゃねぇよ!」
気を抜いたら、身ぐるみ全て剥がされそうだ……。
ていうか、紅葉!
お前、金そんだけ持ってんなら……!
……奢ってもらいたいみたいな概念でもあんのかな?
うーむ、深くは追求はしないでおこう。
約一時間程掛け、だいたいの位置にたどり着いた。
「ふー……、じゃあやるぞ……」
前置きの必要はないが、まぁ、気合いを入れる意味もある。
人目を避け、周りにいるのは、俺、紅葉、宇宙の三人。
俺はそっと目を閉じ、気配を探る。
「…………」
今日、この気配探りは二回目。
襲ってくる疲労感に、身体全身の力が抜けていくのが分かる
「はぁ~……。こっから、南西方向に歩けば、着く……はず……」
と、急に足の力が抜けた。
ガクン、という効果音がしっくりとくるであろう。
疲れはピーク。
つまりは限界だった。
「お疲れ、大地兄」
そんな俺を支えたのは、宇宙だった。
(伝刀)のお陰で筋力が強化されているので(無論、常人の範囲内だが、それでも凄すぎる)、俺の身体を支えるのなんて、なんてことないはずだ。
「おう、センキュ、宇宙……」
「疲れてるなら、そう言ってよ……」
と、紅葉。
いや、ずっと言ってましたよ……?
俺の声は貴女に届かないのか?
それとも、生粋のドSか?
「嘘。疲れたでしょう?
しっかり、休んで……」
ああ、嘘か……。
嘘多いよ貴女……。
「うん、ちょっと眠るよ……」
紅葉が俺の額に手を置いてきた。
冷たくて心地好い手だった……。
そういえば、手が冷たい人って、心が温かいんだっけな……。
無駄な事を考えながら、俺は瞼を閉じ、宇宙に完全に身体を預けた。
…………
俺が目を覚ますと、何処かの旅館だった。
隣では、宇宙が寝息を立てている(さすがに、紅葉は男女で別部屋にしたようだ)。
疲労度を試すように、身体を動かしてみる。
首、肩、肘、手首、指、腰、股関節、膝、足首、足指。
……これといった、脱力感もない。
体調は万全になったようだ。
時計を見ると、短針は12を指している。
外が暗い以上、昼のわけではないだろう。
「んん……、ちょっと歩くか……」
目も冴えてしまったので、一応書き置きを残し、ぶらぶらと夜の町を歩き、夜風を浴びることにした。
「ああ、そうだ」
ついでに、あの「刀」の場所も見てみるか。
と、独り言を呟く。
幸い、駅近くで倒れたため、場所くらいは特定できる。
突撃するわけではないので、危険は無いだろう。
駅に着き、南西方向に向かう。
「……?
診療所?」
そう、俺がたどり着いたのは小さな診療所だった。
「ふうん……?」
とりあえず、場所は確認したので、同じ道を通り、旅館に戻った。
「うおっ!?」
部屋に入ると、宇宙があぐらをかき、こっちを睨んでいた。
「えっと……、宇宙?」
宇宙は菊一文字則宗を持ち、ゆっくりと立ち上がった。
そして、その強力な瞬発力にものを言わせ、瞬間的に俺の背後に回ってきた。
「うわっ!」
「てめっ、大地兄!
夜中に勝手に出るなよな!」
宇宙が俺に対してやってきたのは、見事なまでのコブラツイストだった。
「痛えっ!
痛ぇ、痛ぇ!
書き置き残したろうが!
ぐあぁぁ!」
「それでも、心配なモンは心配なんだよ!
このっ!
反省したか!」
「分かった!
反省した!
もうしません!
これ以上はヤバいって!
関節が!
関節がぁぁぁー!」
……結果、なかなかな関節の軋みが出た。
折れたり、脱臼してないぶん……まぁ、マシだろう……。
と言うか、一個気付いた。
痛みが引くのが、以上に早い。それが、傷の治りに適用されるのか、(神刀)を持っている俺だけに適用されるのかは、わからないが、宇宙のお陰で気付く事ができた。
怪我の光明ってヤツだな。
…………
次の日(というか、12時過ぎて起きてた俺は、今日だが)、別部屋の紅葉と合流した。
「診療所?」
昨日(しつこい様だが、俺にとっては今日)、散歩ついでに見てきた、「刀」の所在について話すと、紅葉がそう言葉を返してきた。
「大地がそこにいったのが、深夜だっていうのを考慮したら、そこに置きっぱなしの可能性は高いわね。それができる人物……、医者、看護師、受付員というとこかしら?」
紅葉にとっては、この計算も、頭のネットワークをほんの少し動かしたに過ぎないだろう。
しかし、俺と宇宙が納得するには、充分な説明だ。
「なあんだ、常識持ってそうな人ばっかじゃん!
簡単に済みそう」
宇宙がそう言うが、
「逆ね。知識があるからこそ、狂った使い方も頭にうかぶ……。可能性としては多いにありえるわ」
釘を刺すように、紅葉が言い放つ。
「話し合いじゃ……済まない可能性があるって事だな……?」
俺の発言に、紅葉は無言で頷いた。
「とにかく、行ってみないと、話は進まないんだし、行こう」
俺が腰を上げると、追うように、紅葉も宇宙も腰を上げ、俺の案内で診療所に向かった。
診療所に着き、まず初めに目に入ったのは、その診療所の名前。
「牛津診療所。か……」
暗くて確認のできなかった、診療所の名前を呟く。
「で、どーすんだ?
用もないのに、診療所に行けるわけないだろ?」
「大地?
あなた、学校休みてーな、とか思った時、まず何が作戦として頭に浮かぶ?」
紅葉の切り返しに面食らったが、少し考え、言葉にする。
「そりゃあ……仮病?」
と言って、気付く。
まさか……。
「世の中、嘘もたまには必要よ?」
ウフフフ……と笑う紅葉。
あんたの場合、「たまに」ではない……。
とは言え、それしか方法は浮かばない。
仮病の役は紅葉がかってくれるらしいので、任せることにした。
天然なところがある紅葉だったので、凄くわざとらしい演技になってしまうかと思ったが、これがなかなか、受付態度や、待合室での態度は「病人」そのもので、見ていた、俺と宇宙が驚かされた。
更にいえば、受付の人にさりげなく「刀」をぶつけ、持ち主かどうかの確認まで、やってのけた。
こいつ、実は役者やってんじゃねぇか?
って思うくらいに……。
とりあえず、受付の人は、そういうのではなかった。
しばらくたつと、
「大神紅葉さん」
と呼ばれる。
呼ばれるままに、俺達も付き添いとして、部屋に入った。
「こんにちは……!」
と、入った時、応診する先生の表情が一瞬強張った。
一瞬である。
しかし、俺達は全員、それを見逃さなかった。
紅葉が鞘に納めたままの備前長船で、その先生の身体をそっと触れてみる。
……すり抜けない。
「刀」の持ち主の決定的な証拠だ。
「……話は、後で聞く。今夜、6時以降にここに来てくれ……」
その先生は総てを悟ったかのように、そう言った。
「あんた……名前は?」
これから話す人だ。
名前を知らないと、俺としては話しづらい。
「私の名前は、牛津隆信だ。さあ、今は帰って、今夜、改めて来てくれ」
……結局、分かったことは、持ち主とその名前くらいだ。
まあ、いい。
今夜だ。
今夜、話し合いで済むか、刃を交えるか、分かることだ……。
現在、刀、三本。
神刀:天叢雲剣
名刀:備前長船
伝刀:菊一文字則宗
持ち主との節食を果たした三人。
今後どうなるか……?