第一章 第三話 三人目。三本目
二人は宇宙の家へ案内されます。
(ん~、短くなった……)
俺達は宇宙の家に案内された。
宇宙の家は、庶民的で俺ん家となんら変わりはなかった。
道中では、紅葉に、
「油断はしないで。決して刀は手放さないでね……」
そう注意された。
「あ?
なんでだよ?」
刀を手放さないのは分かるが、油断するなと言う意味は、俺にはよく分からない。
「刀の力を知ったら、力を欲して、この刀を奪うかもしれないという、可能性も考慮してのことよ」
……まあ、初対面で名前ちゃんと紹介するような奴だし、大丈夫だとは思うが。
宇宙の家族構成は、祖母と父と母、弟が一人のようだ。
両親は、共働きで帰りが遅いらしく、俺達を迎えてくれたのは、宇宙の祖母だった。
「宇宙、お友達かい?」
「ああ。ちょっと話があるから、部屋に通すよ?」
俺達は、宇宙の祖母に挨拶をし、宇宙の部屋に通してもらった。
宇宙の部屋は、イメージに似合わず、整頓された感じだった。
おそらくは、祖母が定期的に掃除をしているのだろう。
元気そうだもんなぁ、宇宙のおばあちゃん……。
「早速だけど、刀を見せてもらえる?」
紅葉が単刀直入に聞く。
宇宙は軽く返事をし、押し入れの奥から、シンプルな日本刀を取り出した。
「俺が近くの海で泳いでたら、見つけた。触った瞬間光ったから、ただの刀じゃないとは思ったけど、まさか、誰にも見えないなんてなぁ……」
宇宙は、ため息をついて、天井を仰ぐ。
「紅葉、この刀。分かるか?」
たまらず、俺も質問をつける。
「形状はごくごくシンプル。長さから見ても、伝統的な日本刀ね。判断がつきづらいわ……」
と、宇宙の刀を手に取り、鑑定するように、見定める。
すると、ある一点を見つめ、止まった。
そのある一点とは、柄だった。
「この柄の紋様……、菊?
じゃあ、おそらくこの刀は……菊一文字則宗?」
「菊一文字って、あの沖田総司の……?」
その名前は俺も聞いたことがある。新撰組、沖田総司が使ってたとされる刀だが……
「諸説はあるけれど、それは違ったはずよ」
俺、がっかり……。
「とにかく、これが菊一文字則宗なら、(伝刀)よ。宇宙、この刀持って。大地、宇宙と腕相撲」
伝刀か……。能力が飛躍的に上がるんだったよな。いっちょ、試してみましょう。
「準備はいい?
レディー……ゴー!」
と言った瞬間勝負は着いていた。
俺は負けた。
いとも簡単に。
腕が砕けるような力ではなく、重い圧力がかかったかのような、本物の力。
だが……
「大地、弱いなぁ?」
宇宙にとっては、ウォーミングアップにもなっていない。
更に恐ろしいことに……。
「多分、これが最も強化された力じゃないわ」
と、紅葉が言い出す。
「は?
あの恐ろしい力でか!?」
「本当に強化された力が腕力なら、大地の腕が再起不能になっていてもおかしくないわ」
サラっとそんなことを言う。
……ん?
ちょっと待て……
「あの~、紅葉さん?
もしも、宇宙の最も強化された力が腕力だったら、どう責任とってくれたワケ?」
「…………」
……なんか喋れよ!
「……ごめんなさい。気付いたのが、腕相撲で、「レディー……ゴー!」って言った後だったの……」
うわあ、怖い!
本気のミスな分、更に怖い!
「ミスなら……しょうがないか……」
ミスとわかった以上、強くは言えない。次の話へ移る。
「じゃあ、宇宙?
一旦、外に出て、どの能力が最も強化されたかみてみようか?」
俺が誘うと、宇宙もノリ気で着いてきた。
しばらくは、基本的な能力を見た。
柔軟性、持久力。
常人の域は越えているが、そこは人の域。
しかし、ある一点は、人類ではありえない力を放った。
「ここから、あの紅葉がいるとこまで、ダッシュ。ざっと50m程か?」
「よし、なんだかこれは、自信があるぞー!」
その自信は、決して気のせいではなかった。
結果は……
「3.8……」
「紅葉、ちゃんと計ったよな……」
50m走、記録3.8秒。
100m記録保持者も、裸足で逃げ出す、恐ろしい記録だ。
確かに、スタートは誰もがもたつく。と言うより、トップスピードには乗れない。
それが、宇宙には一切なかった。
スタートの合図がかかると同時に、「必ず」10m先にはいるのだ。
つまり、「瞬発力」に限っては、全人類、誰も到達などできもしない所に、宇宙は立っている。
「宇宙の能力はわかった。付き合わせて悪いな」
「ううん。俺以外に刀が見える人に会えただけでも嬉しかった」
俺と宇宙が話していると、紅葉に現実的な話に戻される。
「ところで、今日の宿どうしましょう?」
「あっ……!」
すっかり忘れてた!
携帯の時計を見ると、18時過ぎ。
早く宿を確保しないと、夜の闇を動き回らないといけなくなる。
「なら、俺ん家泊まる?」
「「えっ?」」
思わず、俺と紅葉の声が重なってしまった。
「別に、俺ん家誰が泊まったっていいし、ばあちゃんも、ダメとは言わないよ」
宇宙がケラケラと笑いながら言う。
「どうする……?」
「今後の話もあるし……お言葉に甘えましょうか……」
こうして、海野家での一泊が決まった。
正直、本当に大丈夫かとは思ったが、宇宙のおばあちゃんは気さくに俺達を迎えてくれた。
後に帰ってきた、宇宙の両親と弟も、宇宙と性格がそっくりで、とても話しやすかった(弟の名前は、銀河。どうやら、空関連で名前を付けているようだ)。
夜もふけ、宇宙の部屋で三人は今後の事を話す。
刀の事、刀を納めないといけないこと、そうしないと、日本が滅びる事、日本中を旅しないといけないこと。
全てを、宇宙に話し、この先どうするかも、宇宙に任せた。
「……一晩、考えさせてくれ」
これが、俺達が初めて見た、宇宙の真剣な顔だった。
俺達は、宇宙の部屋に厄介になったが、宇宙はベッドに転がり、天井をじっと見つめ、一晩中考えていた。
夜が明け、宇宙の選んだ選択は……
「大地、紅葉。その旅、俺も着いてく……。よく考えて出した結果だ……」
俺達にそう話した。
説明は紅葉の仕事だ。
それが分かっている紅葉は黙って部屋を出て、宇宙の家族の元へ説明へ向かった。
「宇宙、本当によかったんだよな?」
念を押して尋ねる。
きっと、しばらくは帰ってこれないはずだから……。
「うん。決めたことだ。それに、この刀を素直に渡すような奴ばっかじゃないだろ?
その時には、仲間は多い方がいいだろうし……」
決意はゆるぎないようだ。
それ以上は、俺は何も言わなかった。
紅葉も説明(ほとんど、嘘だろうが)が終わり、俺達の元へ帰ってきた。
「二人とも、準備して。次の刀の所に行くわよ」
「元気なことで……。宇宙、改めてよろしくな!」
「おう!
よろしく!」
ここで、三人目の仲間、海野宇宙。
そして、三本目の刀、(伝刀:菊一文字則宗)が集まった。
「ところで、宇宙って何歳?」
よくよく考えてみれば、聞いてなかった。
「俺?
俺は16歳だよ」
なにっ!?
「年下かよ!?」
「え!?
大地、年上!?」
おんなじ歳だと思われてたんだ……。
お兄さん悲し……。
シクシク……。
「二人とも同じ歳だと思ってた。あはは~!」
年下だと思われなかった分、よしとしよう……。
「じゃあ、大地さん?」
「さん付けは、好みじゃない」
堅苦しいもん。
「ん~、屋台……」
「お前、屋台つったな!?
どっから出てきた、そのネーミング!?」
「いやぁ、八幡大地だから~……」
「あ~、なるほど。略すと、(八)幡(大)地。八大。屋台。……馬鹿にしてんのか!」
ツッコミの対象が増えたぞ、おい……。
「冗談、冗談!」
笑って言ってたが、目はマジだったぞ。
「大地兄、でいい?」
兄か……。
響きは悪くない。
「それでいこう」
一人っ子なので、兄と呼ばれることは、内心嬉しい。
「じゃあ、紅葉は紅葉姉だな」
俺は、冗談半分で言ったが、
「それで、いいわよ」
と言ってきた。
ありゃ?
柄じゃない気がするが、本人がいいと言うなら、いいのだろう。
「ところで、紅葉?
次の行き先は?」
「次からは、日本を北上していく形。だから、行き先は……宮崎ね。場所の特定は任せたわよ」
「はいはい……」
一行は三人に増え、新たな刀との出会いを求め、次に目指す先は、宮崎。
その先には、何が待っているかのか……。
現在、刀、三本
神刀:天叢雲剣
名刀:備前長船
伝刀:菊一文字則宗
三人目の仲間、海野宇宙を加え、一行は宮崎へ飛び立つ。