第一章 第二話 沖縄詮索
沖縄に降り立った、大地と紅葉。次の刀を捜しに、詮索に向かいます。
定刻通り、飛行機は沖縄に着いた。
五月中旬にも係わらず、陽射しは夏のそれだ。
「暑~……」
一応半袖だが、うっすらと汗がにじんでくる。
「死ねば、暑さを感じることもないわよ?」
「怖っ!
紅葉さん、怖い!」
等と、やり取りをしながら、空港を出る。
「と言うか、大地は沖縄に来たことがないの?」
「俺が地元をでたのは、小六の修学旅行での京都と、親戚がいる広島くらいだ。紅葉は……聞くまでもなさそうだな」
だってポーチの中には、恐らく引ったくりでも引くくらいの札束が入ってるもんな……。
「日本全国、47都道府県全部訪れたし、海外も行ったことあるわ。あ、でもさすがに、離島みたいな所は行ったことないわ」
あー、俺とは大違い……。しかも、海外ってことは……?
「何ヶ国語、喋れるワケ?」
「たいしたことないわよ?
日本語、英語、仏語、独語……」
「あ、あ、もういいです……」
頭の方も俺と大違いですか……。八幡大地。めげるな。お前にもいいとこあるはずだよ……。
「それで、何処に向かうんだ?」
沖縄旅行に来たわけではない。
刀の所在をつかまなければ……。
「わからないわ……」
「わからないわ……って、じゃあどうすんだよ!」
投げやりな言葉に思わず反論したが、紅葉が画期的なことを教えてくれた。
「大地は神刀の持ち主なんだから、場所くらい詳しく分からないの?
やってみたら?」
最初はその意見を駄目元で試したが、目を閉じれば、日本地図が現れる。
ここまでは、昨日と同じだ。
しかし、意識を沖縄地方に集中させる。
すると、沖縄の地図が目の前に広がる。
一際光る場所は、ここより、ずっと北東だ。
「ずっと北東の方だ……」
「本当にわかったの!?」
紅葉のびっくりした顔は新鮮だなぁ……。
「おお。でも少し遠いな。近くまで行って、明日、詮索って所か?」
話を紅葉にふると、「そうね」と言って頷いた。
「よし、じゃあ、行くか」
俺達は、近くのバスに乗り、沖縄本島北東へと向かった。
――――――――――――――
光りの付近に着いたときは、日が大分傾いていた。
「宿、宿……」
呟きながら、歩いていると、和風な旅館が見つかった。
「あそこにしましょう。いいかしら、大地?」
別に否定はしない。
と言うか、その旅館は、見た目高級感が溢れているので、ありがたい方だ。
「ごめんください。予約とかしてないんですが、今から泊まることは出来ますか?」
紅葉が旅館の人に尋ねると、全然問題ないようだ。
「お部屋はどうされます?」
旅館の人が逆に尋ねてきた。
「そりゃ、二部屋分……」
「二人部屋を一つ、お願いします」
「んあっ!?」
俺が二部屋にしようと思ったら、二人部屋を一つだとぉぉぉ!?
「お前、何考えてんだよ!?」
「だって……そっちの方が安いじゃない!」
「そんなに金持ってんのに、けち臭い事言ってんじゃねー!」
結局、同じ部屋になった……。
今後の為の、ちょっとした出費の抑えだと言われたら、何も言えないよ、俺……。
「…………」
「そんなに一緒の部屋は嫌?」
紅葉がくすくすと笑いながら聞いてくる。……ぜってー、悪意がある!
てか、笑うな!
ちょっと可愛いな、とか思うだろ!
「べっ、別に嫌ではないけど……、俺達、男女だし、それこそ俺は思春期の奴だし……」
「あら、大地は私を魅力的に感じるわけ?」
またそう悪戯っぽい笑顔を……。
「あー、思いますとも!
紅葉は可愛いし魅力的ですよ!」
もう、やけくそだ。
「そう?
ありがとう」
……え?
それだけ?
結構な事言ったよ、俺?
「じゃあ、私は温泉に浸かってくるわ」
戸惑う俺を尻目に、紅葉は立ち上がる。
さっきからの用意はそれか。
と、部屋の入口の所で、くるりとこちらを向く。
「そういえば、ここって、混浴らしいわよ?
…………」
………………
「誘ってんじゃねぇよ!
早く、行けよ!」
「その、可愛い女の子が混浴に一人……。後に入ってくる男に何かされたらどうしよう……」
「されねぇよ!
てか、なにいまさら、「守ってくれ」アピールしてんだよ!」
「襲われるって可能性はないわけ?
どうかしら……?」
ぐっ……!
確かに、その可能性は否定できない!
だが、その話に乗れば、同じ歳の女の子の裸を見ることになってしまう!
嬉しい事だが、理性を保て、俺っ!
「……同い年の俺の方を危険視したほうが、いいぞ!
……と、思う……」
どうして、語尾が弱くなるんだろう……?
心の中で、自分の言葉に半分がっかりしてるんだろう、きっと……。
「大地がそう言うなら、一人で行くわ。あ、誘いに乗らなかったからって、別に怒ってないから」
そう言って、部屋を出ていった。
そんなことで怒られたら、逆ギレもいいところだ。
しかし……。
遠いとこまで来たもんだ。
沖縄はいつか来るとは思っていたが、こんな形で来るとは思わなかった。
女子と二人、沖縄に来る……。
端から聞けば、羨ましい限りだが、一緒に来ている奴は、つかみどころがない。
楽しいとは、程遠いな……。
なんて考えてると、時間が経ち、紅葉が部屋に帰ってきた。
「ああ……。男に襲われたわ……。もうだめ……。」
「ウソつけっ!」
「嘘よ。流石ね」
……コイツっ!
「大地も入ってくれば?
誰もいなかったわよ」
「じゃあ行ってきますわ……」
俺は、その温泉に向かった。
……混浴じゃねぇし!
何?
なんであんな嘘つくわけ、あいつは?
……別に、期待してた訳じゃないからな!
「…………」
「残念そうね。そんなに、精神攻撃、(スピリッツ・ブラスター)が効いた?」
「無駄にカッコイイ技名だな……」
部屋に帰った俺への第一声がそれかい!
俺のツッコミもあれだけど!
「おふざけは置いといて……」
「お前のせいだよ!
9:1で!」
「えっ……そんなに大地がふざけてたとは思えないけど……」
「9はお前だよ!」
俺って、こんな話すキャラだったっけ?
いや、コイツといると、そうならざるをえないのだろうな……。
「刀を持ってる人が暇人とは限らないわ。刀の持ち主が私達みたいな学生と仮定して、朝七時から八時。それから、夕方四時から七時位が探し時かしら」
なるほど、それは一理ある。
朝の登校、夕方の下校を考えればそうなる。
「本当は、大地がもっと詳しく場所を特定してくれたらいいのだけど……」
「あのなぁ……。簡単に言うけど、結構疲れるんだよ?
それ使うの」
北東という場所を割り出した後、変に疲れて、乗ったバスの中じゃ爆睡だったしなぁ。
「でも、できる限りその力は鍛えて欲しいわ。冗談抜きで」
「まぁ、それは……」
効率も変わってくるしな。
「っていうか、もしも、その持ち主が刀を持たずに家に置いてる状況だったらどうすんだよ?」
「範囲半径五百メートル程なら、特別な力が感知できるはずよ、私でも。それがあったから、大地と会えたんだから」
はぁん、なるほどね。
「ただ私は大地と違って、そこまで詳しくは分からなかったから、私達が出会ったのも「奇跡」に近いかもね」
「それは……なかなか嬉しい「奇跡」だな」
素直に……そう思った。
いつだって、出会いは悪いものではない。
俺はそう思ってるから。
それが奇跡だと言われれば尚更だ。
「じゃあ、早起きのために、食事後一時間たったら消灯。いいわね?」
「……なんだか学校の先生みたいだな、その台詞」
消灯て。
「とにかく、朝は早いわよ。いい?」
再度確認された。
「分かったよ」
OKださないと会話の堂々巡りになりそうだったので、とにかく答える。
…………
「ムニャ……タヌキ……緑……嘘……」
なんて寝言だ……!
察するに、某インスタントそばのことだ。
嘘?
まさか、紅葉は本物のタヌキを緑色だと思っていたのか?
じゃあ何?
キツネは赤だと思ってたわけ?
頭がいいのか、悪いのか分かりゃしねぇ……。(可愛らしい勘違いだが)
ふと時計を見ると、短い針は十二を指している。
紅葉のこれからの寝言も気になるが、寝ないと明日がやばい。
俺は無心で目を閉じ、夢の世界へいった。
直前、
「キツネも……嘘……ニャ……」
と聞こえた。
……やっぱりかい。
…………
次の日は、俺と紅葉、ほぼ同時に目が覚めた。
時計の短針は六を指している。
「おはよう。寝起きがいいみたいね」
俺は、無表情で紅葉を見つめる。
昨晩の寝言が鮮明に思い出される。
「ふっ……」
やば、ついつい笑ってしまった。
「人の顔見て笑わない!」
怒られました。
当然か。
「いや、顔見て笑った訳じゃないから……」
思い出し笑いを噛み殺し、俺は布団から、はいずり出た。
跳ねた寝癖をほぐし、それなりに身なりを整え(とは言っても、正装までとはいかないが。ただの私服だ)、宿を出た。
「とりあえず八時まで詮索。あ、携帯番号聞いてなかったわね。先に赤外線で送るわ」
と言って紅葉は携帯を取り出した。
俺達は無事、連絡先を交換し、別れて詮索をする。
……初です。
女子と連絡先交換。
それは置いといて、詮索、詮索。
……何事もうまくはいかず、午前は何も得られなかった。
「この時間になったらダメね。夕方に仕切り直しましょう」
「それまで何するんだよ?」
「神刀を操る練習でもすれば?
私もそれなりに練習するし……」
はぁ、練習ですか……。
「具体的にはどんなことすればいいんだろうな?」
「それは……まあ……自分で考えなさいよ」
歯切れの悪い丸投げだ。
丸投げか考えるかどっちかにしてほしい。
刀の種類が違うので、どうすればいいかを紅葉に聞くのは酷だが。
「まあ、イメージしてみる……」
刀のイメージ。
この刀は「天叢雲剣」。
俺の知ってる話通りならば、八岐大蛇の尾より現れた刀。
ならば、八岐大蛇の魂のカケラでも残ってないだろうか?
俺の中で、イメージを重ねる。
途端、天叢雲剣が淡く輝く。
「……?」
疑問に思ったのは一瞬。
淡い輝きは、鋭い閃光の如く、輝きを増し……。
光は龍を象る、頭になった。
「……っ!」
輝きは収まらない。
また光は集束し、龍を創る。
しかし……何故か怖くはない。
落ち着いてイメージをするのを止めると、光の龍は空気に溶けるように、スウッと消えた。
「……大地?
大丈夫?」
ふと横を見れば、心配そうな顔で紅葉が立っている。
「ああ……。ちょっと驚いただけ。多分、あれは、八岐大蛇……」
「それが、大地の刀の力ね」
この世の物ではない力とは聞いてたけど、ここまでファンタジーじみてるとは……。
そういえば、八岐大蛇って八本首だよな?
あの龍が八匹でてくんのか?
ひゃー、我が刀とは言え、恐ろしいな。
「これも割と、疲れるな……」
頭二本で抑えたので、まだマシだが、疲れたものは疲れた。
「焦らず、慣らしていくことね」
紅葉からも言葉を貰った。
「そういや、紅葉は居合やってるって言ってたよな?
腕前はどんなもんなんだ?」
「見てみる?」
紅葉は、刀……備前長船を鞘に納めたまま左手に提げる。
右手を柄に持って行き、足に軽く力を込めた。
……もうその次には、俺の脇腹辺りに刀の刃があった。
抜刀は見えた。
だが反応できる速度ではなかった。
それより何より、1Mはある備前長船を淀みなく抜刀したことに驚かされた。
「おおう……、凄まじいな……」
「抜刀したぶん遅れた方よ。鞘から抜いてたら、コンマ一秒くらいは……」
「速くなるってか……」
あれだけ速いと、コンマ一秒がこれまた恐ろしい。
「それより大地は、刀の所在が詳しく分かるようにもしてね」
そっちも重要だな。
「あいよ」
軽く返事をし、疲れ果てない程度に、練習をする。
そういう事をしてると、割と時間が過ぎるのは速い。
「大地、もう夕方よ」
「えっ?」
ふっ、と周りを見ると日が紅く照っていた。
「ああ、刀。探さないとな」
「すごい集中ね」
「考えるべき事がないから集中できるんだよ。たいしたことない」
俺は刀を納め、捜索のため、歩きだす。
…………
「はぁー、見つかんねぇ……」
夕方の捜索。
人はそう多い方でもなく、紅葉が言っていた、刀の特別な力とやらぐらいなら感じれるかと思ったが、かすりもしない。
「ダメだ……。紅葉はどうなってんだ?」
携帯を開き、紅葉に連絡をとった。
コール音が三回鳴った後、電話の向こうで声が響く。
「もしもし?
もしかして見つかった?」
「いや、かすりもしない。
一回合流しよう」
俺は携帯をきり、待ち合わせ場所に向かった。
そこへ着くと、紅葉はもう着いていた。
「今日はもうダメかしら……。私が懸命に探したのに……」
「私‘が,?
俺が全く動いてないみたいに言うなぁ!」
言い争いもそこそこに、これからどうするか考える。
「もう疲れてもいいから、詳しい場所割り出してよ」
「疲れていいかどうかは俺が決めることだ!」
犠牲精神を俺に求めないでください。
「じゃあ、仕方ないから、また宿でも探しましょうか……」
紅葉の言う通り、宿探しに向かおうとした。
「なぁ、兄ちゃん達?」
その時、後ろから不意にそう話し掛けられた。
振り返ると、俺達と同じくらいの歳の、あどけなさが残る男の子が立っていた。
「兄ちゃんって、俺の事?」
「そうそう、兄ちゃん。刀なんか提げて、変わった人だな」
刀が見える?
「貴方、刀が見えるの?」
俺が聞く前に紅葉が尋ねた。
「お?
なんだ、俺の拾った刀とおんなじ感じの刀か?」
……確定した。
コイツは俺達と同じ、刀の持ち主。
「不躾だけど、名前聞いても……」
刀を持ってるならば、話を聞くべきだよな。とりあえず名前からだ。
「おう。俺の名前は、海野宇宙。海の野原に、宇宙って書いて‘そら,だ」
「あ、俺は、八幡大地。でこっちが、大神紅葉。なあ、宇宙?
刀について詳しく話してくれないか?」
「わかった。刀は俺ん家にあるから家で話そう」
ニパッと笑うと、俺達を先導するように先に歩き出した。
ようやく、これで三本目……いや、ようやく、宇宙と会えたと言った方がいいかもな……。
現在、刀、二本
神刀:天叢雲剣
名刀:備前長船
遂に見つけた、三本目の刀。
そして持ち主、海野宇宙。
この後、三人は……?