幼馴染からバレンタインにリクエストされたのは恋心だったらしい!?
わたしは今、チョコレートを綺麗に溶かすことに奮闘している。
溶かすだけでこんなに難しいとは思わなかった。レンジでチンしてボソボソにしてしまい、多めに用意したチョコレートも半分くらいになった。見かねたママが手伝ってくれた。
少し大きな平たい鍋にお湯を張って、ボウルをそこに浮かべて、ボウルには小さく切ったチョコレートを入れる。
湯煎っていうんだって初めて知った。
家庭科でチョコレートの作り方を教えてくれてもいいのに。いつでも試食係なわたしは、作り方を覚えられなかったかもしれないけれど。
なぜこんなことをしているかと言うと、去年に幼馴染の哲哉と約束をしたからだ。
「来年のチョコレートは手作りがいいな」
バレンタインにあげたキャラの付いたチョコレートを見て、くすぐったそうに笑った哲哉は挑戦状を突きつけたのだ。
「和佳には難しいかもしれないけど、中学最後の思い出に欲しいな」
同じマンションの3軒隣りに住む哲哉とは公園で遊び始めた頃から友達だ。
中学に入ったときは少し距離ができたけれど、保育園からあげていたバレンタインは忘れずにあげていた。
友達の有希が「手作りは本命チョコよ」と教えてくれた。
「私は友チョコも作るけどね」と付け加えたけれど。
ママは「和佳もそういう年になったのね」と言う。
そういうってどういうんだろう。
ずっと友達だった哲哉は私にとってどんな存在なんだろう。
「生クリームを加えて固めるだけだから、生チョコは意外と簡単なのよ」
ママに教えてもらいながら生クリームも計る。今度は何か形になりそう! でも、固まるまで油断はできない。
「パパの分を忘れてた!」
必死になりすぎて、1つしか上手くできなかった。パパのはまたお小遣いで買えばいいかな。
「大丈夫。パパの分はママとチョコのカップケーキを焼きましょう。刻んだチョコが残ってるでしょ」
そうか。チョコは溶かすといろんな形になるんだ。少し楽しくなった。
「有希のも作りたい。友チョコ!」
ママは楽しそうに微笑んだ。
「じゃあ生チョコは誰にあげるの?」
いたずらな顔でわざわざ聞かれて急に恥ずかしくなった。顔が熱いし胸がドキドキする。どうして?
「哲哉にあげる分なの。去年に手作りがいいって」
「そうなの……」
ママはニコニコしている。
「学校には持っていけないから、パパが食べちゃわないように見張っててね」
「ハイハイ」
照れ隠しにパパのことを出したけど、ママは楽しそうなままだ。これ以上話すとからかわれるだけだと思って、カップケーキを作ることにして、小麦粉をふるいにかけたのだった。
夜になって、明日のバレンタインのことを考える。
哲哉はサッカー部に入ってから、女の子に人気だ。フェンスからサッカー部を眺める子の、何割くらいが哲哉を見ているのかわからない。きっとたくさんのチョコを毎年もらってるんだろうなと思うと、わたしの手作りが急に恥ずかしくなった。
当日、そわそわして授業を受けていた。体育の時間に走っていたら、つまずいて転んだ。長ズボンなので膝は擦らなかったものの、手をついたら右手首をひねってしまった。
保健室には行ったけれど、鉛筆がうまく持てなくて、仕方がないので帰ることになった。なんとか帰宅すると、情けなくて泣けてきた。
苦しい。そわそわしちゃうのも、他の子と比べちゃうのも。哲哉はどうして手作りがいいなんて言ったんだろう。
果たして、放課後になった頃の時間に哲哉がやってきた。
「クラスに行ったら早退したって聞いたんだけど、大丈夫?」
哲哉は少し荒い息をしていて走ってきたのかなと思えた。
「泣いてたのか?」
「手首をひねって、情けなくて」
「痛い?」
「……うん」
「哲哉くん、寒いのに玄関じゃなくて、リビングにおいで」
ママが声をかけてくれた。
ふたりで家に入ると、飲み物を出してくれたママは「あっちにいるからね」とママたちの寝室を指差して出て行った。
どうしよう。心配そうな哲哉の顔を見てたらドキドキしてきた。勇気を出さなきゃと思って冷蔵庫から小箱に入れた生チョコを取り出した。
「あのね、ラッピングはまだなんだけど、作ったんだ」
おずおずと生チョコを哲哉に渡す。
「マジか! やった。開けていい?」
「うん……。
哲哉がもらってる他のチョコより下手だと思うけど」
「ほか? そんなのもらってないよ」
哲哉はなんてことないように返事をしながら、1つ摘んで口に入れた。
「うまっ!」
とっても嬉しそうに食べる哲哉を見て、わたしもしあわせな気持ちになった。顔が自然にほころぶ。すると、哲哉がじっと私を見てきた。
「作ってるときは、ちゃんと俺のこと考えてくれた?」
わたしは急に顔まで熱があがってきて、びっくりした。あわあわと言葉にならない。
哲哉は少しだけ満足そうな顔をして、話を続ける。
「俺さ、全寮制の高校に行くことにしたんだ」
「え……」
冷や水を浴びせられた気がした。ゆっくりと言葉の意味を噛みしめる。
「いつから? 会えなくなるの?」
「休みが長いときは帰れるかもしれないけど、わからない」
「……寂しい」
「うん……」
泣き出したわたしが落ち着くまで、哲哉は何も話さなかった。わたしの小さな嗚咽と鼻をすする音だけが聞こえる。
哲哉はいつから進路を決めていたんだろう。いつでも3軒隣りに行けば会えると思っていた。
「よし!」
哲哉の声が聞こえて、少し気持ちも落ち着いた。
「今日から和佳は俺の彼女な。ちゃんと電話もするから、早く手首も治して手紙も書けよ」
わたしは目をぱちくりした。彼女? 哲哉はわたしのこと好きなの?
「私が彼女でいいの? Limeじゃなくて手紙?」
「うん」
哲哉は照れ臭そうに笑っていたけど、チョコもしっかり食べていた。
「和佳は受験も頑張れよ」
「それは今、言わないでよ……」
情けない声が出て、お互いに声を出して笑った。
「がんばったら、ホワイトデーは期待しとけ?」
いつもの哲哉がキラキラして見えて、困惑したけれど、とても嬉しくてドキドキが止まらなかった。
哲哉は嘘はつかない。
ホワイトデーが楽しみになった。
うっかり今年のバレンタインデーが土曜日なのを失念していました。おおらかに見てください。
息子の友達がスポーツのために全寮制の高校に進学しました。そんな進路もあったんだなと当時を思い出して、今回のヒーローの進路を決めてみました。
とはいえお話は完全フィクション。
こんな青春過ごしてみたかったな、という話です。
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お読みいただきありがとうございました!
ホワイトデーのお話を投稿しました。
よろしくお願いします
ホワイトデーは期待しとけってカッコつけてみたけど、幼馴染は卒業できた?
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