表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お喋りな口紅  作者: はる
3/4

第3話

 その店は、路地裏にあるビルの三階にあった。


 エレベーターがなかったので、夕夏は階段で三階まで上がった。息を切らしながら目の前のドアを見ると、プレートに『三上カウンセリング』と書かれてあった。


 カウンセリングとはどういう事をする場所なのかわからず、夕夏は不安に思った。目の前のドアを開けるべきか、長い時間迷っていた。


 その時、いきなりドアが開き、中年の男が顔を出した。


 男は夕夏の存在に気づくと、「どうぞ、中へ」と優しい声で、部屋に入るよう促してきた。


 夕夏は、断ると失礼な気がしたので、不安な気持ちを抱きながらも店の中に入っていった。


 部屋の中は薄暗く、黒いソファーに黒いカーテンと、不気味だった。瞬時に夕夏は、部屋に入ってしまったことを後悔した。


 だが今更逃げるわけにもいかず、男に勧められたソファーに渋々座り、逃げ場を探すようにこっそりと部屋の中を見回した。


 棚の上にある黄色い壺や、変な形の置物が気になった。胡散臭さに拍車がかかった気がした。タイミングを見て立ちあがろうと、夕夏は密かに決意した。


 男がテーブルの上に、紅茶を静かに置いた。そして、自分も夕夏の向かい側のソファーに座り、紅茶を啜るように飲み始めた。


 夕夏は紅茶に手をつけたくなくて、俯いて座っていた。男がテーブルの上に、一枚の名刺を置いた。夕夏は、恐る恐る名刺を手に取り見た。


 名刺には、『心理カウンセラー三上茂』と書かれてあった。心理カウンセラーとはなんだろう。夕夏が疑問に思っていると、三上が唐突に口を開いた。



「人見知り」



 夕夏は、その言葉に反応してしまい、顔を上げて三上を見た。



「私も人見知りだったんですよ」



 三上が優しく微笑みながら、話し始めた。



「昔は言いたい事も言えず、人から誤解されてばっかりでね」


「そんな風に見えないです」


「私と同じように人見知りで悩んでいる人達を救いたいと思って、ここを開いたんです」



 夕夏が本棚に目をやると、そこにはカウンセリングの本がずらりと並んでいた。ちゃんと勉強してカウンセラーになった人なんだと、夕夏は納得した。



「実は、私の人見知りが治ったのは、これのおかげなんです」



 そう言いながら、三上がポケットから取り出したのは、小さな口紅だった。



「口紅?」


「そう、この口紅を塗ると、誰もがお喋り上手になれるんです」



 夕夏は嘘だと思った。そんな話は聞いたことがない。



「今、嘘だと思ったでしょ」



 三上が、夕夏の心を見透かしたように笑いながら言った。



「だって、あなたは男の人なのに口紅なんて」


「透明の口紅もあるんですよ。今だってこれを塗っているから、あなたとこうやって話せているんですよ」



 夕夏は返事を返せずにいた。



「信じられないのは無理ないです。たいがいの人はここで席を立ちます。でも、あなたは立っていない」



 そう言って、三上が夕夏の前に口紅を差し出してきた。



「騙されたと思って、一度試してみませんか?」




                    つづく

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ