序
「母ちゃん!父ちゃん!どこにいるの!?」
木々に囲まれた山奥に、男童の声がこだました。
涙を必死に堪えながら、男童は小さな足で駆け回る。
雉の奇妙な鳴き声が聞こえ、男童はびくっと立ち止まり、ついに泣き出してしまった。
「ぅ……ひっく、母……ちゃ……、うう~っ、父ちゃん……、ここ……どこぉ?」
鳴咽を漏らしながらとぼとぼと歩き続けていると、ふと近くで羽音がした。
目の前に鴉のもののような漆黒の羽がふわりと落ちる。
「?」
男童がそれを拾おうと涙を拭いながら屈むと、大きな影が被さった。
「ひっ!?」
振り返ると、大きな男が仁王立ちしていた。
その姿は、人間のそれとは違っていた。
山伏のような恰好に、ぐんと高く伸びた鼻。
ぎょろりと見開かれた眼光は鋭く、背中には黒い翼を背負っている。
何よりも、肌は血に染められたように真っ赤だった。
「童、この山で何をしておる?」
赤色の肌をした初老の男は男童を見下ろし、問うた。
「あ……、ああ……」
(天狗だ……!)
驚きのあまり涙は引っ込み、男童は口をぽかんと開けて天狗を見上げた。
「口減らしか」
天狗が何の感傷も無いように言った。
男童は天狗の言葉に我を忘れ、叫んでいた。
「ち、違う!父ちゃんも……母ちゃんもおいらを捨てたりなんかしない!」
言いながら再び涙が流れてくる。
どこかで自覚していた。
生活が苦しい男童の家で食いぶちを減らそうとするのは当然の行為なのだ。
父も母も生きるためにやったことだ。
恨んではいないが、ひたすら悲しかった。
「お、おいら……ひっく……し、死んじゃうの……?」
幼い問いかけに天狗はじっと男童を凝視している。
「童、生きたいか?」
天狗の声は単調だった。
「おいら……生きたいよぉ!」
泣きじゃくる男童に天狗が大きく、やはり赤い手を差し出した。
「ならば、共に来い。お前の命、儂が預かった」




