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陰陽の如く  作者: とうご智
【第四章】 絵巻の乙女、男を惑わする語

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九 胸に秘めしは



「まあ、何て幸せそうなお顔」


真雪が絵巻物に描かれた麗しい恋人たちを眺めながら、うっとりと呟いた。


美しい泉の傍で見つめ合う男女。


それは、俊道と蓮花の生き写しだった。


「まゆきさま、としみちとうわばみは幸せなの?」


横から覗き込んだ山茶花が不思議そうに真雪を見上げる。


真雪は優しく山茶花の髪を撫でてくすりと笑った。


「ええ、きっと」


二人は永遠の愛を手に入れたのだと、真雪は願わずにはいられなかった。


「……理解し難いな」


柱に寄り掛かり二人の様子を見守っていた吉昌がぽつりと言った。


「愛とは命を投げ出すほどのものなのか?」


吉昌は本当に不可解に思っているらしく、答えを求めるように真雪に視線を投げかける。


「全ての者がそうとは限りませんが……。けれど、時には命がけの想いもあるのではないでしょうか。愛する者の為ならば、この身を犠牲に出来るというような……」


真雪は絵巻物を糸で括りとめながら応えた。


「……真雪はそのような恋をしたことがあるのか?」


「えっ!?」


吉昌にしては珍しく人間味のある質問に、真雪は動揺した。


跳ね上がった心臓を落ち着けながらにっこり笑う。


「さあ、どうでしょうか。……吉昌殿はどうなのですか?」


我ながら不躾ぶしつけだと思いながらも、真雪は問い返す。


「……必要ない」


予想通りの答えであったが、真雪は胸の痛みを感じた。


「真雪もですわ。私は吉昌殿の妻なのですから」


感情を隠すかのように、真雪は笑顔を浮かべ続ける。


(吉昌殿)


真雪は絵巻物を吉昌に戻しながら内心でそっと決意を新たにした。


(私もあなたの為ならこの命を差し上げますわ。……例え、この想いが報われないとしても)


真雪の気持ちを知るべくもなく、吉昌はまだ納得がいかないように難しい顔をしていた。




    【第四章・完】

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