六 似て非なる者
吉昌は藤に気絶した惟次を屋敷まで送り届けるように指示した。
藤は華奢な見た目とは裏腹に惟次を軽々と担ぎあげる。
「ほんま仕様がありまへんなぁ」
藤は笑いながら、吉昌に一礼するとするりと闇夜に消えていった。
「……陰陽頭殿、藤殿は一体……?」
まだ緊張が解れぬまま、真明が尋ねた。
手には惟次と影を斬った時の痺れが残っている。
「あれは私の式神だ」
吉昌は天気でも答えるかのように、さらりと答えた。
「式神……」
それは陰陽師が使役する鬼や精霊といった類のもの。
藤はきっと藤の花に宿る精霊なのだろう。
甘い香りを思い出し、真明はそう思った。
「いやぁ、お見事だね」
「!?」
突然闇の先から声と拍手が聞こえる。
真明は反射的に朱色の光を納めた短刀を構えた。
吉昌はわずかに眉を動かす。
「妖だけを斬れるなんて、便利なことこの上ない。なぁ、吉昌?」
「吉平……」
暗がりから現れた男は不敵な笑みを口元に浮かべていた。
浅黄色の狩衣に身を包み、中性的な整った顔立ち。
その姿は吉昌と鏡合わせのように瓜二つだった。
「陰陽頭殿と同じ顔……!?」
真明は二人を交互に見比べた。
「吉昌の双児の兄、陰陽博士の吉平だ。以後お見知りおきを、明姫様。いや、今は藤原真明殿……かな?」
「……!」
吉平が愉快そうに笑った。
困惑する真明を後ろ手に回すような形で吉昌が一歩前に踏み出す。
「……何をしに来た?吉平」
「ふん。経過が気になってね」
吉平がちらりと惟次が臥せていた場所に目をやる。
「後神に憑かれた人間がどういう末路を辿るのか」
「……!!まさか……」
「おっと、勘違いするなよ?俺は人間に畏怖されなくなって消えようとしていた憐れな後神に助言してやっただけだ。人間に憑けばもっと暴れられるのにってね」
吉平は心外だとでも言うように肩をすくめた。
「吉平……!」
吉昌が珍しく怒りをあらわにする。
同じ顔でもこうも印象が違うものかと真明は感じた。
「それを実行したのはあの後神、付け込まれたのはあの男の弱さだ」
「……お前に非は無いというのか?」
吉平はからかうように鼻で笑った。
「ああ。それにしても、暇潰しにもならなかったな」
吉昌が口を開くよりも前に、吉平は薄笑いを浮かべくるりと背を向けた。
「吉昌、放っておいてもこの世は魑魅魍魎だらけだ。人間の在る限り悪意は生まれ続ける。ならば、少しくらい増えたところで変わらぬのではないか?」
吉平はそう言い残すと、涼やかな笑い声をあげながら颯爽と闇夜へと消えて行った。




