二 噂の君
「貴公の昨晩の活躍聞きましたぞ!」
翌朝、内裏に出向くなり公達の一人が吉昌に声をかけてきた。
周囲の公卿等も自らの公務よりも二人の話に興味があるらしく、吉昌の手元の包みをちらちらと盗み見ている。
「私は役目を果たしたまでのこと」
謙遜ではなく本当にそう思っているようで、吉昌は無表情のまま応えた。
綺麗な顔立ちにこの淡泊さが余計吉昌の雰囲気を神懸かったものに見せ、専ら噂話好きの公卿達の注目を集めていた。
「しかし、陰陽頭殿がご自分で出向かれるとあっては、藤原中将の大君は噂通りの美少女なのでしょうな」
話かけてきた公達はうっとりとした表情でため息をもらした。
嫌味などではなく、色恋沙汰も都人の高い関心事のひとつなのだ。
「さて、暗い闇夜でのことでしたから……」
確かに、昨晩出会った明姫は澄みきった大きな黒い瞳が印象的な愛らしい姫君だった。
しかしながら、吉昌は微かな違和感を覚えていた。
(何よりもあの妖刀……)
貴族の女子は生まれながらにして親より護刀を貰い受ける。
それは、武士の刀と同じで、生涯肌身離さない大切なものだ。
(その懐刀に何故呪が……?)
「しかし、貴公に比べて兄君のなんと情けないことか。なんでも、最近は誰ぞの北の方の元へと通っているというではありませぬか!」
公達が一際声を高くし、周囲からくすくすと笑い声が起こる。
吉昌はふと回想から我にかえった。
「同じ大陰陽師の血を継ぎながら、こうも違いがありますとは!」
公達が笑いを誘うように辺りを見回した。
公卿達が無遠慮に笑いさざめく中、ごとりと音をたて吉昌が抱えていた包みが床に落ちた。
公達らがぎょっと包みに視線を注ぐ中、床に転がる包みがひとりでにことことと震え出す。
「!?」
周囲の者が身をすくませる中、吉昌は事もなげに包みをそっと拾いあげた。
「よ、吉昌殿……、そ、それは……? 」
公達が青白くなった唇を震わせながら尋ねた。
吉昌は腕に抱いた包みを開き、中のものを公卿達に見せつける。
布の中には獣のものと思われる薄汚れた髑髏が横たわっていた。
「ひっ!?」
「これなる狐の御霊が昨晩中将殿の姫君にとり憑いておりました。まだ暴れ足りぬと見えますが」
蒼白の面持ちで言葉をなくした周囲をよそに、吉昌は「これにて」と颯爽と去っていった。




