第8話 第四段階──総力戦
影の本体──黒い球体は、
生き物のように脈打ち、
赤い点滅が心臓の鼓動のように光っていた。
ピッ……ピッ……ピッ……
その前に立つ“本体直制御の影”は、
今までの影とは明らかに違う。
輪郭が安定し、動きは静か。
でも、確実に“速い”。
何より、こちらの動作を完全に読み取っている。
蓮が歯を食いしばる。
「ヤバい……さっきまでの影とは格が違う……!」
悠は汗だくで懐中電灯を構えていた。
「なんだよこれ……! 全然避けられねぇ……!!」
影がゆっくりと歩き出す。
一歩目が静かすぎて、逆に怖い。
理沙はすぐ状況を分析し、俺たちに指示を出した。
「第四段階……“行動予測モード”。
影は、私たちの視線と筋肉の動きから“次の手”をリアルタイムで計算してる!」
俺は息を飲む。
「つまり……光を当てようとした瞬間に避けられる……?」
「そう。
読み合いにすらならない。向こうが上。」
悠が叫ぶ。
「じゃあ詰み!? どうすんだよ!?」
蓮が焦りながらも言う。
「おい理沙、なんか手はねぇのかよ!」
理沙は……一瞬だけ、迷った。
そして、
俺の方を見た。
「……蒼しか、止められない」
悠と蓮が同時に叫ぶ。
「「はあ!?」」
俺も驚いた。
「俺が……?」
理沙は走りながら説明した。
「影の本体は“恐怖のデータ”で成り立ってる。
さっき蒼が心理投影体を消したことで、
本体は“蒼の心の状態”に最も反応してる!」
蓮が目を見開く。
「つまり……影は蒼に“引っ張られてる”ってことか?」
理沙は頷く。
「そう。
本体の影は、人間の中で最も“未処理の恐怖”が大きい相手に最大反応する。
今一番近いのは蒼。
だから蒼の動きだけが、“予測不能”になりうる!」
悠が叫ぶ。
「俺たちの動きは全部読めても……蒼のだけ読めねぇ!?
バグってことか!!」
理沙は短く答える。
「蒼の“揺らぎ”だけが、影のアルゴリズムの穴になる」
俺は深く息を吸う。
……怖い。
正直、足が震える。
でも、ここで逃げたら全部終わりだ。
俺は一歩前に出た。
「俺が囮になる。
その隙にみんなで“光の檻”を作ってくれ」
蓮が叫ぶ。
「お前……正気か!?」
「正気じゃなきゃやれねぇだろ!」
悠が拳を握りしめて言う。
「蒼、お前が行くなら……俺ら全力で合わせる!」
理沙は強く頷いた。
「必ず私たちで補完する。
あなたは“読み取れない動き”だけを意識して!」
俺は懐中電灯を握り直す。
影が静かに首を傾けた。
まるで“選んだ”かのように。
ピッ……ピッ……ピッ……!
赤い点滅が蒼一人に収束した。
蓮が叫ぶ。
「来るぞ! 蒼、走れ!!」
●◆蒼 vs 本体影──“読まれない動き”
影が地面を蹴った瞬間、
空気が弾けるような音がした。
速い……!
過去の影の比じゃない。
しかし俺は、
“予測しない”。
“考えない”。
“怖いまま”走る。
予測すれば読まれる。
だから直感で走る。
右か左か。
影の攻撃を避けるルートを考える前に……
足が勝手に動いた。
影の腕が横をかすめる。
髪が揺れた。
悠が叫ぶ。
「今の避けた!! 読めてねぇぞ影!!」
蓮がすぐ反対側に光を振る。
「今だ、光を当てろ!!」
だが影は、蓮の動きを完璧に予測していた。
光が当たる前に、影は体を半回転させて避ける。
ズッ……
黒い体が床を滑る。
理沙が叫ぶ。
「蓮の動きは完璧に読まれてる!
でも蒼の“揺らぎ”ができた瞬間に、影の予測にラグが出る!!」
俺は走りながら叫ぶ。
「じゃあ……揺らぎ続ければいいんだな!!」
悠が走る。
「合わせるぞ蒼!!」
●◆“光の檻”作戦──連携システム
俺が想像した動きを、理沙が即座に読み、
蓮と悠に伝える。
理沙
「蒼が右へ揺らぐ! 次に急停止! その後フェイントで逆へ!」
蓮
「了解ッ!!」
悠
「行くぜぇぇぇ!!」
俺は走る。
影は追う。
でもほんの少しだけ、俺の動きに“ズレ”が生まれる。
——その瞬間。
蓮の光が影の肩に当たった。
シャッ……
影の体が一瞬だけ硬直する。
悠が叫ぶ。
「よっしゃ硬直!! 次理沙!!」
理沙も光を当てる。
影は今度は避けようとするが……
俺が真正面で急停止した。
影の予測計算が一瞬だけフリーズする。
ピッ……ピッ……ピ——
赤い点滅が乱れた。
悠と蓮が同時に光を当て、
影の動きを完全に封じる。
蓮
「蒼! 今だ!! 真正面から当てろ!!」
悠
「トドメ刺せぇぇぇ!!」
俺は一気に距離を詰めた。
影は動けない。
赤い点滅が小さく、震えている。
その揺れは……どこか悲しくさえ見えた。
「……寂しかったんだよな」
影の輪郭がわずかに揺れた。
返事みたいに。
「でも……俺たちが終わらせる。
“恐怖を集め続ける人生”なんて……可哀想すぎるだろ」
俺は影の中心に光を突きつけた。
「——さよなら」
白い光が爆発した。
影はゆっくりと、霧のように散っていく。
ピ……
ピ……
ピ……(消滅音)
最後の赤い点滅が消えた。
理沙が静かに言う。
「本体影……停止完了」
蓮がその場にへたり込む。
「……勝った、のか……?」
悠がもたれかかる。
「勝ったろ……これ絶対勝った……マジ死ぬかと思った……」
俺は深く息を吐きながら、
影が消えた空間を見つめた。
ただの闇。
もう、反応はない。
「……終わったんだな」
理沙がそっと微笑んだ。
「ええ。やっと、ね」
戦いは終わった。
でも、この場所にはまだ“秘密”が残ってる。
扉の奥。
黒い球体の中心にある“最終ログ”。
そこにはきっと、
影が最後に伝えたかった“何か”がある。
——物語は、終章へ向かう。




