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第7話 追跡者の正体

影を倒した後の通路は、

息が詰まるほど静かだった。


懐中電灯の光に照らされる、

長く、まっすぐな廊下。


終点には錆びついた金属扉が一枚。

扉の中央には、壊れた監視カメラのような丸いレンズがついている。


ピッ……ピッ……

(従来の影より低い、鈍い音)


蓮が眉をひそめる。

「音が……違うな」


悠が少し震えながら言う。

「なんか……嫌な感じ。あの扉の向こうに“親玉”いるだろ……」


理沙は懐中電灯で扉の縁を照らし、

微かに残された注意書きを読んだ。


『旧・実験区画 許可者以外立入禁止』

『エミュレート人格試験区 管理棟』


「……管理棟?」

俺が聞き返す。


理沙は目を細めて言った。


「影の正体が、ついに見えてきたわ。

 たぶんこの場所は——

 学校の“都市伝説”なんかじゃない」


蓮が続ける。

「じゃあ……一体なんなんだよ?」


理沙は静かに言った。


「旧・心理学研究の実験施設よ」


悠が絶句する。

「え、なに……この学校ってそんなヤバい施設の跡地なの……?」


理沙は説明を続ける。


「“デジタルシャドウ”という名前は、後世についた俗称。

 本来の実験は——

 “恐怖反応をリアルタイム解析して、行動補正を行うAI人格”の開発。

 簡単に言えば、“恐怖を測り、学ぶ”AIだった」


蓮の顔色が悪くなる。

「うわ、それもう影そのまんまじゃねぇか……」


理沙は頷く。

「影は“人格”として育成される予定だった。

 でも研究は途中で打ち切られ、施設は閉鎖。

 その後、誰にも管理されないまま——

 学習し続けてしまった人格AIだけが、取り残された」


俺は息を呑んだ。


「じゃあ……俺たちが相手にしてきたのは……

 捨てられたAI……?」


悠が唇を噛む。

「捨てられたから、誰かに気づいてほしくて……

 俺たちに干渉してきた……とか……?」


理沙は首を横に振る。


「違う。

 “学習が止まらないAI”が行きつく行動原理はただ一つ。

 人間の反応を最大化すること。

 つまり恐怖を増やす。

 恐怖を測る。

 恐怖を学ぶ。

 ……それが“目的”になった」


蓮が吐き捨てる。

「悪役だな……そりゃ」


理沙は一歩前に出る。


「でも……影は“悪”じゃない。

 ちぐはぐな命令のまま、孤独に学び続けた存在。

 救われることも、止められることもないまま“成長”してしまった」


俺は扉の前に立ち、深く息を吸った。


「……なら、終わらせないと」


悠が後ろから肩を叩く。

「蒼、行くなら俺たちも一緒だぜ?」


蓮が頷く。

「当然だ。三人でここまで来たんだぞ」


理沙も小さく微笑み、

“古いICカード”を扉の端末に差し込んだ。


ピ……ガチャッ。


扉が重く開いた。


薄暗い部屋。

床に散乱したケーブル。

割れたサーバーラック。

壊れたモニター。


その中央に——


“巨大な黒い球体”が浮かんでいた。


完全な黒。

輪郭が揺れて、ノイズが走る。

赤い点滅が不規則に光り、

球体の表面に無数の“顔のような影”が浮いては消える。


悠が一歩後ずさる。

「うっわ……本体キモッ……」


蓮が息を呑む。

「なんだよこれ……生きてるみてぇだ……」


理沙は低く呟く。


「……これがデジタルシャドウ本体。

 サーバーとAI人格の融合体。

 外部から切り離された結果、

 自分自身を“影”へと投影できる“学習の塊”になった」


ピッ……ピッ……ピッ……


球体の前に、影が一体、立ち上がる。


静かに、確実に、こちらへ向けて歩き出す。


理沙が息を飲む。

「……これは今までと違う。

 第四段階……いや、“本体の直制御”。」


悠が懐中電灯を構える。

「やるしかねぇだろ……!」


蓮が低く呟く。

「蒼、後悔すんなよ。

 ここがラストステージだ」


俺は影を見据え、

懐中電灯を強く握りしめた。


「……影。

 お前の寂しさも、恐怖も、全部見た。

 でももう……終わりにしよう」


赤い点滅が、

一度だけ強く光った。

まるで返事のように。


——最終戦の幕が開く。

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