第2話 閉ざされた廊下
旧図書室の前で、息を切らしながら立ち尽くしている人物がいた。
「……悠?」
懐中電灯の光に照らされたその顔は、
蒼(俺)、理沙、蓮の三人にとって、見慣れたものだった。
「おい、蒼ーー!! やっと見つけた!!」
悠は俺の肩をつかみ、思い切り揺さぶってくる。
いつもテンションが高くて、軽口ばかり叩くタイプ。
だが今は息が荒く、顔は汗だく。相当焦っていたらしい。
「な、なんでお前ここに……悠は別ルートを探索してたんじゃ……」
蓮が目を丸くする。
悠は額の汗を拭いながら、苦笑した。
「いやー、聞いてよ。あの黒いのと鉢合わせちゃって。で、逃げてるうちに迷って……」
「悠、怪我は?」
理沙が確認する。
「かすり傷だけ。……でもさ、蒼。ちょっとヤバい情報がある」
「ヤバい情報?」
悠は真剣な目になった。
「——影、二体に見えた」
蓮の息が止まる。
理沙の表情がわずかに固まる。
「二体……?」
俺の声がわずかに震えた。
「いや……正確にはわかんないんだけどさ。走ってたら後ろから通知音がして、その先の曲がり角でも“赤い点滅”が見えたんだよ。片方は俺を追ってて、もう片方は動かなかった」
理沙はすぐ解析モードに入る。
「……影の複製? それとも、残像のような“行動予測パターン”か……」
悠は両手を広げて言った。
「どっちにしても、俺は蒼たちに合流したい一心で必死に走ったわけですよ!」
蓮は呆れながら言う。
「よく無事だったな……。でも再合流は助かるわ」
俺も胸が熱くなる。
「悠……来てくれて本当によかった」
悠は照れくさそうに頭を掻く。
「お、おう。蒼たちと合流すりゃ何とかなるかなって思ったんだよ」
◆再会の余韻を断ち切る影の脅威
だが、その直後だった。
廊下の奥で、
“赤い点滅”がゆっくりとこちらへ近づいてくる。
ピッ……ピッ……ピッ……
蓮が懐中電灯を構える。
「おいおい、来てんぞ!」
悠が叫ぶ。
「また来た!! うわっ、今度は動きが速い!!」
影は以前より“滑らかで正確な動き”をしている。
まるで、こちらの進行方向を予測しているように。
理沙の表情が険しくなる。
「……やっぱり。第二段階に移行したわね」
「第二段階?」
俺が問うと、理沙ははっきりと答えた。
「さっきまでの影は“光に触れると停止する”だけ。でも今の動き……避け始めてる。
つまり——“光の死角を自動計算する能力”が追加されてる」
蓮が叫ぶ。
「避けるだと!? おい、ゲームじゃねぇぞ!!」
悠は懐中電灯を振りながら言う。
「どーすんだよ!? もう詰みじゃね!?」
理沙はすぐ指示を出した。
「旧図書室に全員入って! あそこは光を複数方向に配置できる!」
俺たちはドアを開け、急いで中に入る。
◆旧図書室の防衛戦
図書室は薄暗く、大きな窓と棚が複雑に並んでいた。
光が通る“抜け道”と“遮蔽物”が自然に混ざっている。
理沙は即座に分析する。
「蒼は東側の棚の間へ。蓮は窓側。悠は中央。
三点から交差するように光を当てて、影の進路を“封じる”。
影は学習するけど、同時に複数の光角度には対応しきれない」
蓮が驚く。
「そんなもんか?」
「AIっぽいけど、“最適解は一度にひとつ”って感じ。つまり、私たちの連携が勝つ」
悠が懐中電灯のスイッチを何度かカチカチ押しながら言う。
「よーし、中央任せろ。俺、光量調整は得意だしな!」
俺は東側の棚の隙間に鏡を配置した。
この角度なら、正面だけじゃなく横からも影を照らせる。
ピッ……ピッ……ピッ……
廊下から影が入ってきた。
その赤い点滅がゆらりと揺れ、棚の間を滑るように進んでくる。
蓮が叫ぶ。
「来た!! 蒼、右だ!」
俺は鏡の角度を変え、懐中電灯の光を反射させた。
影は光を避けるように動くが、悠の光が反対側から当たる。
ピシッ!!
影が硬直した。
一瞬だけだが、確かに“止まった”。
「ナイス、悠!」
「任せろっ!」
蓮も窓越しから反射光を当てて影の進路を塞ぐ。
影は学習して避けようとするが、三点からの光の角度を同時に計算しきれていない。
理沙が冷静に言う。
「今よ、蒼! ‘光の網’を完成させて!」
俺は鏡をもうひとつ手に取り、光を斜めに当てる。
影の体が完全に光に囲まれ、動きが止まった。
「……閉じ込めた」
俺が呟く。
蓮が肩を落とす。
「はー……マジで緊張した……」
悠は息を切らしながら笑う。
「いやぁ……みんなといると、なんか勝てる気がしてくるよな!」
理沙は深く頷く。
「でも油断しないで。影はまだ“第二段階”。
この先、もっと複雑な学習をする可能性がある」
俺は懐中電灯を握り直す。
やはり胸の奥はまだざわついていた。
暗闇は怖い。
でも——
「大丈夫。今の俺たちなら、戦える」
三人が頷き返してくれた。
旧図書室の奥に“隠し扉”のような影が見える。
その先へ行け、と言わんばかりに、微かな風が吹き抜けた。
——攻略は、中盤戦へ突入する。




