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第13章:四の五の言わずに、お仕置きだ!

 ステージの上、二人の男が対峙していた。

 一人は、スポットライトの光の中で、すべての嘘を暴かれ、狼狽と恐怖に顔を歪ませる、権力の亡者。

 もう一人は、会場の薄闇から現れ、冷徹なまでの静けさを湛えた、復讐の執行人。


「ね、鼠園! 貴様、こんなデマカセを流して、ただで済むと思っているのか! これは国際的な名誉毀損だぞ!」

 吉本は、虚勢を張り、最後の悪あがきとばかりに叫んだ。

 だが、その声は、恐怖で上ずっている。


 私は、そんな彼に憐れむような一瞥をくれると、マイクを握りしめ、会場に集まった500名の権力者たち、そして、その先にいる全国民へと語り始めた。

 その声は、怒りや憎しみといった感情を超越した、絶対零度の響きを持っていた。


「皆様、私は、大阪万ミャク協会の元統括プロデューサー、鼠園です。そして、この国で今、『最も無能な男』という烙印を押された人間です」

 自嘲的な言葉。しかし、その目には一片の揺らぎもない。

「ですが、今日、私は、すべての真実をお話しするために、ここに来ました」


 私は、背後のスクリーンを指し示した。

「ここに映し出されているものは、捏造でも、陰謀でもありません。吉本ごうぞう氏が、我々国民から預かった神聖なはずの税金を、自らの私利私欲のために食い物にしてきた、動かぬ証拠です」


 私は、一つひとつ、冷静に、そして論理的に、吉本の罪状を暴いていく。


 地盤対策の手抜き工事を指示し、その見返りに『なにわジオテック』から多額の賄賂を受け取ったこと。

 実績のない『デジタル浪速』に基幹システムを不当に受注させ、その差額を自らの懐に入れていたこと。

 そして、このプロジェクトを意図的に混乱させ、その責任のすべてを自分一人に押し付け、跡地のIR利権までをも独占しようとしていた、その邪悪な計画の全貌を。


 私の言葉、一言一句が、鋭い刃となって吉本の心臓に突き刺さっていく。


 吉本は、顔面を蒼白にさせ、「違う! 嘘だ! そいつは私を陥れるために!」と意味不明な言葉を繰り返すだけだった。


「嘘?」

 私は、その言葉を、冷たく切り捨てた。

「では、吉本さん、お答えいただこう。あなたの政治資金団体『明日の大阪を創る会』の口座に、この三ヶ月間で、五つのペーパーカンパニーから、合計3億円もの、使途不明金が振り込まれている。この事実は、どう説明なさるおつもりですか?」


 スクリーンに、氷室が作成した、金の流れの最終到達点を示す、決定的な証拠が映し出される。

 吉本は、言葉に詰まり、壊れたブリキ人形のように、口をパクパクとさせるだけだった。

 会場は、もはや静寂ではなかった。


 驚愕、嫌悪、そして怒りが入り混じった、抑えきれないどよめきが、渦を巻いていた。特に、吉本を信じ、多額のスポンサー料を支払っていた企業のトップたちは、裏切られた怒りに顔を赤黒くさせている。


「吉本さん。あんたが壊したのは、ただのイベントじゃない。未来を信じた子供たちの夢と、この国を支える国民の、ささやかな信頼だ」

「あんたは、その夢と信頼に、泥を塗った。自分の欲望のためだけに」


 私の言葉は、復讐の終わりを告げるゴングのように、広く、そして重く、響き渡った。

 吉本の目は、もはや何の感情も映していなかった。

 私は、ステージの上で立ち尽くす、哀れな権力者の亡骸を、冷たい目で見下ろした。


 ゆっくりと、絶望の淵に立つ吉本へと歩み寄り、マイクを通さず、吉本だけが聞こえる、地獄の底からの囁きのような声で、私は、言った。

 「罪には、罰を。悪には、鉄槌を」


  そして、私は、吉本から一歩離れると、再びマイクを口元へ持っていき、最後の宣告を、会場全体、全国民に向けて、叩きつけた。


「四の五の言わずに、お仕置きだ!」


その瞬間、会場の後方の扉が、勢いよく開け放たれた。

 なだれ込んできたのは、電堂が事前にリークしていた、東京地検特捜部の検事たちと、おびただしい数の報道陣だった。

「吉本ごうぞう、贈収賄および政治資金規正法違反の容疑で、逮捕状が出ています! ご同行願います!」


 検事たちの鋭い声。

 一斉に焚かれる、無数のフラッシュ。

 吉本は、もはや抵抗する気力もなく、その場にへたり込んだ。


 彼が夢見た、人生最高の晴れ舞台は、彼の社会的生命が、完全に絶たれる、史上最悪の公開処刑場へと姿を変えたのだった。

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