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第34話 それぞれの返答

 港町は朝から騒がしい。

 潮風が白い帆布をはためかせ、波止場には船員たちの怒号が飛び交う。

 魚を積む船、荷を下ろす船、そのどれよりも、ひときわ目を引く巨艦があった。


「うわあっ……すっごい船だ……!」


 リンが目を見開く。

 それは、俺たちが手に入れた魔道船だ。

 特別な鉱石で組まれた船体は黒鉄色に輝き、甲板には魔術式の紋様が刻まれている。

 見上げるだけで胸が高鳴る。

 本来なら勇者が手にするはずの船。

 だが今は俺の足となり、推しを救う旅の翼となる。

 ふと周囲を見渡すと、こちらに人々の視線が集まっていた。


「昨日の問答で、即答した青年らしいぞ」

「ルヤネフさんもすげえよなあ……船を一艘ぽーんとあげちゃうんだもん」

「しかも何だアイツ、女連れの優男じゃねえか。あんなんで船を操れんのかあ?」


 どこからともなくそんな囁きが聞こえてくる。

 確かに俺たちは目立つ。

 俺自身は置いておいて、連れている三人とも、とびっきりの美人だもんな。

 だが俺にとって重要なのは、町人の視線ではない。

 昨夜の告白を受けた、三人の答えだ。


「……俺は今からこの船に乗って、残りを救うために亜大陸へ向かう」


 船を見つめて言い、一歩前に出て振り返る。

 エミリア、リン、ティア。

 それぞれが微妙な顔で立ち尽くしていた。

 まだ言葉を探しているのがわかる。


「さあ、答えを聞かせてくれるか?」


 まっ先に口を開いたのは、銀髪の巫女――ティアだった。

 ティアは静かに歩み出ると、紫の瞳でまっすぐに俺を見た。

 月明かりを閉じ込めたようなその瞳は、昨夜の言葉をすべて受け止めた上で、なお揺らがない。


「貴方様が別の世界の人間であろうと、この先の未来に危険が待っていようと、私は貴方様と共に歩む道を選びます」

「ティア……!」


 彼女の落ち着いた声が、ざわめく港の音をかき消す。


「そもそも、貴方様が普通の人間ではないことはわかっていました。全て、些細な問題です」


 短く、それでいて力強い言葉だった。

 俺は息を呑み、胸が締めつけられる。


「ありがとう、ティア」


 その名を呼ぶのが、精一杯だった。

 次に口を開いたのはリンだ。

 彼女は腕を組み、わざとらしくそっぽを向いた。


「未来とか難しいことはさ、ボクにはよくわかんないよ」


 言葉とは裏腹に、声は震えていた。


「でも……ヴァルドが一人で頑張って、一人で傷つくのは、もう見たくないんだ。だから……ボ、ボクが隣にいて、笑わせてあげるっ」


 ぶっきらぼうで、照れ隠しで、でもその奥に優しさがあった。

 胸が熱くなる。


「リン……お前……!」


 言葉にならない。

 こんな台詞を聞かされて、俺が無事でいられるはずがない。

 推しに改まって告白されて俺は今、間違いなく天にも昇る心地だ。

 最後に残ったのは、最後まで答えあぐねたのは、エミリアだった。

 それもそうだろう。

 この中で、『俺が入る前』のヴァルドを知っている彼女。

 ずっと信じて仕えてきた存在が、実は別人に変わってました……なんて、ショックじゃないわけないもんな。

 彼女はぎゅっと両手を胸の前で握りしめ、少し俯いていた。

 長い睫毛が震え、その翡翠色の瞳が俺を映している。


「……ヴァルド様」


 小さな声。

 だが確かな決意を孕んでいる。


「私は、ヴァルド様が無口で感情を見せなかった頃から、お仕えしてきました。だからこそ、昨日の告白は……とても衝撃でした」


 彼女の声は、やはり震えている。


「もちろん、納得がいった部分もあります。人が変わったよう、と思ったことは何度もありますから。ですが同時に、やっぱり変わらない、と感じたことも少なくありません」


 エミリアは一歩、俺に近づく。

 涙を浮かべ、それでもまっすぐに俺を見上げて。


「ヴァルド様は、ヴァルド様です。未来を知っていようと、別の世界から来ていようと……私の想いは変わりません。どうか、最期のその瞬間まで、おそばに置いてください」


 ……もうダメだ。

 堪えていたものが一気に崩れ落ちた。


「エミリア……っ!」


 頬を熱いものが伝う。

 推しが泣きながら自分の隣にいたいと言ってくれている。

 そんな世界線があっていいのか。

 俺は幸せすぎて死ぬ。

 いや本当に尊死する。


「あああ……エミリアもリンもティアも全員、尊すぎる……! 神か!?」


 心の中で叫んだ。

 つもりが、実際に声にも出てしまった。

 三人は呆れ顔で俺を見ていたが、それでも笑ってくれた。

 エミリアが口元をわずかに緩め、リンは「やっぱバカだ」と笑い、ティアは小さくため息をつく。

 周囲の船員や町人からはドン引きされている気がしたが、どこか羨ましそうな視線も混じっていた……はず。




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「――それじゃあ、出航だ!」

「ふふ、楽しみです」

「おーっ!」

「……どんな未来が、待ち受けているのでしょう」


 俺たちは甲板に並び立ち、これから渡る海を見据えた。


 潮風が吹き抜け、陽光が魔道船の黒鉄の艦体を照らす。


 これで、俺の最高の仲間が揃った。


 推しを救う旅は、ここからさらに加速していく。

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