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第12話 無限ループダンジョンって定番だよね

 ざっ、と茂みをかき分ける音が響く。

 俺とリンは、夜の森を走っていた。

 さっき撃退したシャドウ・ウルフを追いかけ、アグネアの町を飛び出し、そのまま野を駆けていたのだが。


「……見失ったな」


 森の手前で立ち止まる。

 茂みの奥に入られてしまった。

 さすがに、生い茂る草木をかき分けて進む狼を、追うことはできない。

 草葉が揺れる音も、魔物の気配も途絶えていた。

 夜霧がじわりと広がっていく中、俺たちは息を整える。


「マズいな……ここ、迷いの森だ」


 リンの顔が険しくなる。


「ヴァルドは知らないと思うけど、このあたりじゃ有名なんだ。入ったら出られなくなるって」

「ほう……」


 リンが指差す先の木々は、どれも同じ形に見える。

 なんて言いながら、実はめちゃくちゃ知ってるんだけどな。

 ゲーム時代の記憶がよみがえる。

 RPGあるあるのひとつ。

 視界は暗く、どこを進んでも同じ風景が続き、正しい順路を辿らなければ延々と出入り口に戻されるという忌々しいマップだ。


「くっそぉ……ここまで来て……!」


 リンが歯を食いしばる。

 肩が揺れている。

 悔しさを堪えてるのが伝わってきた。


「まあ、任せとけ」


 俺は胸を張った。


「え?」

「こう見えて、俺は勘が良いんだ」


 俺はその場にしゃがみ込み、地面を匂う……フリをする。


「あ! こっちから獣の臭いが!」

「ちょ、ええ!? 待ってよ!」


 リンが追ってくる気配を背中に感じつつ、俺は迷いなくどんどん歩く。


「むっ、微かに草が踏みしめられているぞ!」

「なんと、こっちから魔物のうめき声が!」

「おーっとぉ! なぜだか体を引っ張られるぞ!」


 などと適当なことを言いながら迷いの森を進んでいく。


「…………じーーー」


 隣に並んだリンが、口で言いながら視線を向けてくる。


「な、何かな?」

「ホントに大丈夫かなあ……?」

「い、いやいや! これは経験則ってやつだ!」


 どんなに胡散臭く見えても問題ない。

 なぜなら正解ルート、完璧に覚えてるからな。

 東→北→西→南→南→西→北→北。

 原作に存在するダンジョンはほぼ頭に叩き込んでいるが、このマップは特別覚えている。

 だって、リンを救うルートがないか何度も試したんだもん。

 無言で歩く俺に、リンもまだ半信半疑ながらついてくる。

 そして、五分ほどが経った頃。


「――な、なんだこれはあ!」


 うーん、自分でもわざとらしいと思っちゃうなあ。

 木々が開けた先。

 そこに現れたのは、ぽっかりと口を開けた洞窟だった。

 崖下に張りつくようにして建つその入り口には、うっすらと火の明かりが漏れている。


「う、うそ……それっぽいとこにホントに来れちゃった……」


 ぽかんとするリンに、俺は心の中でガッツポーズ。


「ここが人さらいのアジト……なのかな。でも、何で魔物が一緒に?」

「あー……『魔物使い』って言葉、聞いたことあるか?」


 俺は呟いた。


「魔物を飼いならして駒にする連中だ。どこにでもいるってわけじゃないが、一定数存在するのも事実」

「魔物を……飼いならす?」


 信じられないのも無理はない。

 魔物ってのは、知性の無い狂暴な獣。

 ただ狂暴なだけならまだしも、魔力を帯びてるのがたち悪い。

 それが人間の言うことを聞くなんて、想像できない姿だよな。

 しかし事実として、この『人さらい一味討伐クエ』の敵は魔物使いの一党だ。


「ま、世界は広いってことだ」


 俺は一歩、洞窟の中へと足を踏み入れた。

 内部には等間隔に壁掛けの松明が灯っていた。

 ゴツゴツとした岩壁が続いている。

 俺とリンは、息を潜めて進んだ。

 そして、奥へ進むと開けた空間に出た。

 そこには粗野な風体の男たちが十数名。

 片隅には、鎖につながれた女性や子供が身を寄せ合っている。


(ヴァルド……間違いないね)


 リンが小声で言った。

 俺は無言のまま、首を縦に振る。

 広間には、血の臭いと獣の唸り声が漂っていた。

 シャドウ・ウルフの一体が、中央でうずくまっていた。

 血に染まった毛皮を舐めながら。


「どういうことだ、こりゃあ!」

「シャドウ・ウルフはバレないんじゃなかったのかよ!」

「100歩譲ってバレたとして、誰が撃退までできるってんだよ……!」

「だ、大丈夫だ、落ち着け。仮にコイツが後をつけられてたとしたって……この森を抜けて来るなんて無理だ!」


 混乱に満ちた声が飛び交う。

 そのときだった。


「――気を抜くな」


 場を裂くように、低い声が響いた。

 その場にいた荒くれたちが、ぴたりと動きを止める。

 声の主は、中央の椅子に腰を下ろしていた仮面の男だった。

 黒衣に身を包み、目元以外を覆う白銀の仮面。

 片手には鞘に入った長剣。

 雰囲気からして、明らかに格が違う。

 俺は息を殺し、物陰から様子を伺った。


「場合によっては、この拠点を捨てることもあるだろう」


 仮面の男が立ち上がった。

 その動きに合わせて、金色の長髪がふわりと揺れる。

 そのとき。


 ――ポタリ。


 リンの顎から、汗が地面に落ちた。

 その音にシャドウ・ウルフの耳がぴくりと動き、大きく口を開く。


「ガゥアウ!」

「誰だァッ!!」


 怒声と同時に、男たちが剣を構えて振り向いた。


「リン、限界だ。出るぞ」


 俺は彼女の背中に手を添えた。

 びくりと震えるが、すぐに彼女は力強く頷いた。


「うん!」


 二人で、物陰から姿を現す。

 リンが叫んだ。


「お前たちが、この人さらい事件の犯人だな! その人たちを解放しろ!」

「ひ、ひひっ、どんな奴が来たかと思えば、ガキ二人じゃねえか! でも悪いな、見られたからには――」


 荒くれの男が剣を構えかけた瞬間。


「待て」


 静かな一言が、全てを止めた。

 仮面の男が前へ出る。


「その娘は、俺がやる」

「ア、アニキが?」

「ああ……アイツに傷はつけられん」


 ざわりと空気が揺れた。


「――高く、売れるからな」


 ゆっくりと、仮面に手をかける男。

 外された仮面の奥から現れたのは。


「団長……!?」


 アグネア自警団、団長。

 ザック・リカートであった。

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