2/22
第一話:疲弊の朝と小さな声
その日は予定をあえて空けていた。
最近、大友は仕事に“何か”を感じていた。
大手向けシステム導入のコンサルタント。
年収も職位も悪くない。だが――
「まず“通す”ことが優先なので、仕様はあとでいいですよね?」
そんな言葉を繰り返し聞く日々。
意思が置いてきぼりにされていくような感覚。
駅前を抜け、ふと目にした喫茶店「珈琲と編集室」。
その瞬間、胸に走った違和感。
「この店、潰れる」
未来を見た気がした。
何か言わずにはいられなかった。
「突然すみません。経営、もしかして少し苦戦されてますか?」
店主の女性が、目を見開いた。
「はい、実は……」
大友は、紙ナプキンに簡単な経営メモを書き出した。
そして心の奥で、ひとつの天秤が揺れ始めていた。