後日談
作戦は、終わった。
だが、予定されていた三分間の作戦時間は、とうに過ぎていた。
戦闘が終息し、私たちが本隊へ帰投したのは、その倍も倍、先の話だった。
ハーローが何度も「三分の超過」を報告していたのを、誰も耳に貸さなかったわけではない。
けれど、止まらなかった。止められなかった。
結果として、ルーアが言った。
「ドローン群の再編と混乱が、想定より遥かに長かったの。指揮権を譲渡される大型を落としたから、混乱は長引いから〜。まぁ、おかげで追撃のドローンは散ってったけどね」
蜘蛛の子を散らすように、小型は空へ森へと消えていったという。
弾薬の都合で、全てを仕留めきることはできなかった。けれど、あれで十分だったのだと、誰もが分かっていた。
そして――ツィナ。
あの一射の代償は、やはり大きかった。
腕と鎖骨の骨折、肋骨の複数の骨折とひび、捻挫に打撲。
包帯まみれで、まるで怪我の見本市みたいだったが、それでも彼女はベッドの上で、けろりと笑っていた。
「ワタシが打ち損じるわけないだろう。まあ、ちょっとだけ跳ね飛んだがな!」
自信満々のツィナに、私はただ、苦笑するしかなかった。
輸送隊の中では、もう話題の中心になっていた。
前線で小型ドローンを迎撃したルルレとシャリ。
そして、大型を二機も仕留めた――私の名前。
「すごかったよ!」
「マジでかっこいい……!」
「怖くなかったの?」
……次々に飛んでくる声と言葉。
正直、くすぐったくて仕方がなかった。
だって――
私は一人で引き金を引いたわけじゃなかったから。
護衛隊長のイルザがいた。
私のアームギア、《クロア》がいた。
ツィナの声と、あの真っ直ぐな自信があった。
そして、あの場にいたみんなの意思と、想いが――
その全部が、あのときの私の手を動かした。
私一人で得た戦果じゃない。
それだけは、誰にも間違えてほしくなかった。
それでも。
一歩踏み出せたあの瞬間は、確かに、私自身のものだったとも思う。
部屋に戻ると、静かな空気が私を迎えてくれた。
アームギアをそっと外し、その表面に手を添える。
「ありがとう、クロア」
小さく、でも確かに伝えると、冷たい金属の感触が、どこかあたたかく返ってきた気がした。
窓の外を見れば、夜の空に星がまたたいていた。
戦いの後の空は、もう静かだった。
ただ、それが、こんなにも遠く感じたのは、きっと――私の中に何かが変わったから。
今はまだ、それが何かはわからない。
でも、きっとこれから少しずつ、答えに近づいていく。
少しの痛みと誇りを胸に、私はもう一度、深く息を吐いた。
戦いの終わりに、やっと感じた。
これは終わりじゃない。
ここから、きっと、始まるんだと。




