ep.30
僅かな間の銃声と破壊音。
その嵐のような時間が過ぎれば――戦いは、終わったのだと、思えた。
そう感じたのは、空に舞っていた最後のドローンが、爆煙の向こうにまるで花火のような光を散らしながら落ちていった、その瞬間だった。
爆発音は、もうなかった。
耳を打つような破壊の咆哮は遠ざかり、代わりに残ったのは、風の音。
あとは、焼けた機体の残骸がパチパチと乾いた音を立てる――まるで、どこかで薪が燃えているような、静かな炎の音。
私は一歩、また一歩と、慎重に瓦礫を踏み越えながら歩を進める。
その先に――ツィナが、倒れている。
「ツィナ……!」
その姿を見つけた瞬間、思わず声が上ずった。
胸の奥がざわりと揺れて、鼓動が一気に速くなる。
巨大な投射砲の反動を、その身体でまともに受けたツィナは、地面に力なく投げ出されていた。
肩は不自然に歪み、アームギアは一部が変形している。
でも、彼女の指先が――かすかに、震えた。
「……どうだ、勝利……しただろう……」
全身の痛みに顔を歪めながらも、彼女は小さく笑った。
その笑みに、私は思わず息を呑む。
あまりに痛々しく、それでも誇らしい笑みだった。
それだけを言い残すと、ツィナはゆっくりと目を閉じた。
「……ツィナ!……!ツィナが……!射撃の反動で負傷、状態は意識がないです!でも、まだ……まだ息はあると思います……!」
慌てて通信を開き、連絡を飛ばす。
返ってきたのは、ハーローの冷静な声だった。
『担いで運ぶのはやめたほうがいいと思います。担架が適切です。骨折や脊椎損傷、あるいは脳へのダメージの可能性もあります。……射撃台座なしの非正規射撃のリスクは、彼女自身も承知の上だったでしょう。出力が半分以下であれば、軽度で済んでいると願います』
どこか悔しそうな、しかし抑えられた声だった。
そのとき、シャリとルルレが駆け寄ってくる。
ルルレは、しゃがみ込みながらツィナの手をそっと握った。
「……すごいよ、ツィナ……! あなたがいなきゃ、あの大型は……」
か細く、それでもまっすぐな声。
辺りを見渡すと、護衛と遊撃の仲間たちも、少しずつこちらへと戻ってきていた。
皆、同じように疲れて、そして安堵を浮かべていた。
私は、空を見上げる。
煙の向こうに、わずかに赤い光が差し込んでいた。
変わらない、けれどどこか違って見える空。
静かで、美しくて――けれど、どこか不気味でもある空。
何も飛んでいない。ただの空。
誰も脅かしてこない、ただそこに広がっているだけの空。
私は、自分の右手を見つめる。
エネルギーを撃ったときの振動と熱が、まだ皮膚の奥に残っている気がした。
「……まだ、終わってない」
ぽつりと、心の中で呟いた。
敵は去った。でも、これで全てが終わったわけじゃない。
ツィナの命も、私たちの戦いも――この一戦だけでは語れない何かが、まだ続いていく。
それでも。
今日だけは、きっと言っていいと思う。
私たちは、確かにここで――勝ったんだ。




