ep.29
放たれたエネルギー弾は、光の槍のように空気を裂いた。
高熱を帯びた一撃は、迷いも歪みもなく一直線に軌道を描き、虚空を滑るように走り抜ける。
それは、まるで――祈りが形を持ったかのような精密さだった。
衝突の瞬間、大型ドローンの照準レンズが砕け、内部の機構が容赦なく破壊される。
刹那、内部から破裂するように爆炎が吹き上がり、鋼鉄の巨体が呻くように軋んだ。
「――やった!」
シャリの弾んだ声が飛び、レレが息を飲むように歓声を上げた。
わずかに震えた声は、極限の緊張から解き放たれた証だった。
だが、私は――ただ、静かだった。
歓喜に沸く声の裏で、手の中の銃の重みが現実を訴えてくる。
銃口から伝わる熱がじんわりと指先を焦がすようで、それを私は、そっと手のひらで撫でるように払い落とした。
感情を、振動を、余熱ごと、静かに流すように。
遠くで聞こえるのは、爆音。
そして、もう一つ――二度目の爆発音が遅れて耳を打った。
その瞬間、大型ドローンが姿勢制御を失い始める。
空中でぐらりと傾いたその巨体は、推進力を断たれ、まるで大地に引き寄せられるかのようにゆっくりと、だが確実に落下していく。
次第に加速し、最後には激しい衝撃音を伴って瓦礫の中へと崩れ落ちた。
私は、そこでようやく、小さく息をついた。
胸の奥で張り詰めていたものが、ひとつ、ほどけたような気がした。
だが――戦いはまだ終わっていない。
空を舞う小型ドローンの挙動が明らかに変わった。
さきほどまでの攻撃的な連携は乱れ、不規則な飛行パターンを描き始める。
その変化を読み取るより早く、通信ラインがひとつ反応した。
《ツィナからの射撃勧告》
即座に続くハーローの冷静な指示が、全周波に響く。
「今すぐに遊撃部隊、護衛部隊は東西に退避をお願いします! 繰り返します、直ちに退避を!」
その瞬間、私は悟る。
――もう撃たれる。
ゆっくりと、自分のアームギアを撫でた。
金属の冷たさに微かに残る熱。それを、まるで仲間に触れるように優しく扱う。
「ありがとう、クロア……」
右手に力を込める。確かに、今、私は戦っている――生きている。
横では、レレリが《コリオ》を構え直し、シャリに目配せする。
「……もう、撃っていいのよね?」
小さく問うようなその声は、戦場の中で精一杯の確認だった。
2人は慣れない手つきで、小型ドローンに狙いを定める。震える指先が、それでも引き金にかかる。
そのときだった。
――後方の騒音が、一瞬、止んだ。
空気が凍る。誰もが無意識に息を飲んだ瞬間。
鋭い“それ”が、空間を切り裂いた。
パァアアァァンッ!!
咆哮にも似た破裂音とともに、強烈な閃光が視界を焼く。
視界の端で、巨大な電磁投射砲が白銀の光を吐き出した。
目では追えない。だが確かに、それは空間を貫いていった。
――え?
思わず声が漏れる。ツィナの姿が目に映った。
彼女は――その砲の巨大な反動を、身一つで受け止めていた。
体が仰け反るように後方へ吹き飛ばされ、荒れた地面に叩きつけられる。
私は思わず、一歩前へ踏み出した。
目の前で何が起きたのか、理解が追いつかないまま。
そこに、再び通信が入る。
「目標に直撃しました!直ちに爆発を確認、姿勢制御を失い墜落――確認済み!おめでとう御座います!」
ハーローの声が響く。
だが、その“勝利”の報告に、私はまだ頷けなかった。
戦場にはまだ、煙が立ち昇っていた。
その奥で、誰かが倒れている。
ツィナは――無事なのか…。




