表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/31

ep.27

 


 レレリとシャリが駆け寄ってきた。


「隊長〜、大丈夫? 無事みたいだね……」

「よかった、私たちも巻き込まれるかと思ったよ……」



 二人とも手には迎撃銃を構えたまま、息を切らしていた。


 私はすぐに笑みを返す。


「二人とも、息ぴったりだったね。ナイス迎撃だった」



 役割を果たしたことで、二人の表情にはわずかな安堵が浮かぶ。

 小さく笑って、肩の力をほんの少しだけ抜いた。



 けれど、まだ終わりではない。



「……これからが本番。ツィナの防衛に移る」


 私は端的に伝える。


 前線を切り抜け――飛来する敵機を迎撃、撃墜すること。


 ツィナの狙撃を阻むものを、すべて排除すること。


 それだけが、今の私たちの役割だ。



 実戦を少しだけ経験したことで、手に汗は滲みつつも、私たちの間に漂う空気はどこか落ち着きを取り戻していた。


 身体の芯にはまだ緊張が残っているのに、それでも――慣れてきたのかもしれない。


「あと何発、撃てるの?」


「……あと2発分ある」

「感触は……うーん、グレネードランチャーみたい。触ったことないけど」


 冗談めいた口調に、ほんの少しだけ笑いそうになった――そのときだった。


 キュルル、キィィイイン、キュキュン


 耳を劈くような機械音が連なって、遠くからこちらに迫ってくる。

 土煙の向こう、視界に映らぬ場所から、確かな“敵の足音”。


「……来る」


 その瞬間、通信が入った。ハーローの声だ。



「空輸隊の皆さん! ツィナさん! 東方向から小型ドローン群が押し寄せて来ています!バベルの射撃音に誘導された可能性が高いです! 迎撃をお願いします!迎撃銃での一掃も可能です! 味方のいる北方向には絶対に撃たないでください!」



 私は思わず、隣にいるレレリとシャリの手元を見た。

 迎撃銃をしっかりと握る手に、迷いはない。

 ……だが、私の中にはまだ、不安が渦巻いていた。



 本当に、いけるのか。

 この攻撃を凌ぎきれるのか。

 ツィナを、護りきれるのか。



 でも――やるしかない。



「……はい。なんとか持ち堪えます」


 レレリも、シャリも頷いた。


「よろしくお願いします」


 ハーローの通信は、そこで切れた。



 再び、音だけが戦場を満たしていく。

 敵は目前。



 ツィナのバベルが、再び唸りを上げ始めた。

 チャージ音が周囲に満ち、空気が震える。



 私たち三人は、思わず息を呑む。




 音がする。

 金属音、モーターの唸り、空を切る羽音。

 目視できないが、確かに空中から真っ直ぐにこちらへ向かっている。


 数は不明。


 連携すらおぼつかない、実戦経験の浅い三人。

 それでも、護らなければならない背後にはツィナがいる。

 不用意に遮蔽物に隠れれば、敵の接近を許してしまう。

 選択肢は――正面から迎え撃つ、それだけ。


 土煙が風に流され、次第に視界が開けていく。



 一機……

 二機……

 三機……

 四……五……十……二十……三十――


「っ……もう、数えきれない……」



 押し寄せる無数の小型ドローン。

 一体でも防ぎきれなければ、ツィナの狙撃は途絶える。

 そして、私たちも持たない。



 小型といえども、その質量と加速力を持った機体に撃ち抜かれれば即死もある。

 アームギアの保護機能で何発かは防げても、耐えられるものではない。

 圧倒的な数が、空を覆い、こちらに殺到してくる。


 私の隣で、二人は銃を固く握る。

 顔は強張り、口で浅く呼吸している。


 ――けれど。


 私は一つ、思い返す。

 私が、大型を倒したという事実を。



 それはほんのわずかな、虚勢にも似た勇気だった。

 それでも、自分を支えてくれる。



(今さら、小型がどうした)



 私は前へ出て、言う。


「……なるべく引き寄せてから、一網打尽にする。正面から来てるなら、まとめて叩ける。焦らないで」



 単純だ。けれど、今はそれが最善だった。



「回り込まれたらアウト。でも、今は来てる……まっすぐに、私たちのほうへ」


 胸に手を当てて、呼吸を整える。

 高鳴る心臓を、無理やり落ち着けるように。


 そのとき――


 影が揺らぐ。


 無数の小型の背後から、ひときわ大きな“何か”が姿を現した。



「……やっぱり」


 群れを指揮する中枢、大型機。


 私は手にする銃、《オウル》を握り直す。

 カチリ。と手に触れる音が耳に確かに届く。


(逃げない。後ろにはツィナがいる)


 私は覚悟を決めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ